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社説:リーマン破綻 危機の連鎖、米は全力で防げ

 米国の住宅バブル崩壊は、ついに老舗の大手証券、リーマン・ブラザーズを倒産に追いやった。同じ大手証券のメリルリンチも、破綻(はたん)こそ免れたが、事実上の身売りを選ばざるを得なかった。米国が世界に誇ってきた金融業の中枢が、崩れ始めたことを象徴する一連の出来事に、米国内だけでなく世界の証券・金融市場が大きく揺さぶられた。

 週明けに始まった動揺なので、「メルトダウン・マンデー」などと呼ばれている。しかし、原子力施設の炉心溶融(メルトダウン)のように破綻の連鎖が止まらなくなる事態が起きてしまっては手遅れだ。邦銀もリーマンに計約1700億円を融資しており、今後、日本への直接、間接の影響が心配される。複雑な金融商品を介して、多数の金融機関や投資家、複数の市場が関連し合っているため、予想もしなかったところに大きな打撃が及ぶ恐れもある。金融メルトダウン、世界的大不況へと発展しないよう、米当局にはあらゆる対策を取ってもらいたい。

 政府系住宅金融会社、ファニーメイとフレディマックに計20兆円超の公的資金投入枠を用意し、救済に乗り出した米政府が、リーマンには支援の手を差し伸べなかったことには、やむを得ない部分もある。ファニー、フレディは、米政府の保証付きという暗黙の了解のもとで海外の金融機関などから巨額の資金を借りていた。破綻を許せば、信頼を失ったドルの暴落など世界的な大混乱が予想された。住宅市場に与える影響も、甚大過ぎると思われた。

 リーマンは米4位の証券会社とはいえ、ファニー、フレディの規模には及ばない。取引相手は金融機関やプロの投資家だ。リスク管理の甘さからきた経営の失敗を、税金で穴埋めすれば将来に重大な禍根を残すとの判断だろう。リーマンを救えば、他の金融機関や、さらには大手自動車メーカーなど一般企業まで次々と救済しなければならなくなる恐れもあった。

 しかしながら、今後、連鎖的な破綻や、市場にパニックが広がる恐れが生じれば、自己責任の原則を唱えてばかりもいられない。日本の不良債権問題が深刻化したとき米政府は、「日本発の金融危機を引き起こすな」と政策の総動員を求めた。今の米国は、まさに同じことが求められている。

 今回の金融危機では、個別金融機関の経営問題の次元を超え、米国の資本主義がよりどころとしてきた証券ビジネスの根幹、金融業の姿そのものが、崩れ落ちてしまった。金融技術の高度化と世界的な金余りの中で、自信過剰に陥り、リスクの評価という基本中の基本を軽視した結末である。

 その代償はバブルに踊った当事国で払うのが筋というものだ。世界経済まで道連れにされるようでは、たまらない。

毎日新聞 2008年9月17日 東京朝刊

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