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【産科医解体新書】(4)怖かった1人きりの当直
「○○産婦人科医院の当直に行ってくれる?」
ある日突然、上司の1人から外勤当直を申し渡されました。医師の足りない産婦人科医院への応援を命じられたのです。
「何かあれば、バックアップしてもらえる」という条件ですが、新人にとって1人で当直する不安は計り知れないものがありました。当時から産婦人科医は不足していましたから、僕ら新人もすぐに戦力として組み込まれなければ立ち行かない事情がありました。
初回の外勤では読みきれないほどの教科書を持参しました。緊張で一晩中、浅い眠りでしたが、幸い静かな当直でした。そういう静かな夜が何回か続きました。やがて静かな当直に慣れ、夜も眠れるようになったころ、とても怖い思いをすることになります。
その夜は、1つの分娩(ぶんべん)にたずさわっていました。順調な経過でしたが、最後にトラブルが起こったのです。突然、おなかの赤ん坊の心音が徐脈(心拍数が遅くなること)のまま回復しなくなってしまいました。
急いで上司に応援を要請しましたが、来院するまで待つ余裕はなさそうです。電話口で上司の指示を仰ぎながら、急いで赤ちゃんを分娩させることにしました。幸いにも、時間をかけずに生まれてくれたので、大事には至りませんでした。
上司の指示の下で、何とか1人で対応できる状況だったから良かったものの、これがすぐに手術が必要な状況であれば、どうなっていたかは分かりません。恐ろしさと、力いっぱい処置をした緊張感で、その後の処置の間中、僕の手は小刻みに震えていました。一瞬ですが、「もう医者としてやっていけないだろう」と思いました。
こんな恐ろしい状況にも対応できるような実力をつけること、そのためのトレーニングをすることが、僕ら新人の目標でした。しかし、実際には技術上達そのものよりも、トレーニングをする上でのハードルがたくさんありました。(産科医・ブロガー 田村正明)