◎リーマン破たん 日本と同じ道をたどるのか
米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破たんは、かつての山一証券の倒産劇を思い出
させる。多くの市場関係者は最終的に救済されると見ていただけに、市場に与えた衝撃は大きかった。米国政府が最後の最後にリーマンへの公的資金投入を渋り、金融機関の救済に消極的な態度を示したツケはこの先、高くつく可能性がある。
リーマンの負債六十四兆円は、山一証券が廃業当時抱えた負債二千六百億円の実に二百
五十倍に及ぶ。米国が直面する金融危機のスケールの大きさ、サブプライムローン問題の根の深さが読み取れる。山一証券倒産後、日本は金融危機が深刻化し、翌年には旧長銀が経営破たんした。政府の対応に一貫性がなく、対策も後手後手に回ったためである。米国は、このときの日本と同じ道をたどろうとしているのではないか。
リーマン・ショックで十六日の東京株式市場は六〇〇円以上暴落した。米国発の金融不
安をこれ以上世界に拡散させてはならない。政府は米国に対して、公的資金の投入を強く働き掛けてほしい。先に深刻な金融危機を経験した日本は、それを繰り返し主張していく義務がある。
米連邦準備制度理事会は今年三月、米証券大手ベア・スターンズの経営危機に際して三
兆円の融資を実施し、事実上の公的資金投入に踏み切った。九月には政府系住宅金融二社に二十一兆円の資金投入枠を設定するなど、金融危機回避の手を着々と打ってきたはずである。
それなのに、今回は一転して公的資金の投入を見送り、金融市場を大混乱に陥れた。米
国の「心変わり」は、金融機関のモラル・ハザード(経営倫理の欠如)を恐れたからなのだろうが、一貫性のない政策は市場心理を冷やし、問題解決を長引かせるだけである。
実際、リーマンに続いて、今度は米大手保険のAIGの経営危機がささやかれており、
株価は六割超も下落した。株価が下がると負債も増え、また株価を押し下げる「負の連鎖」を、日本もいやというほど味わってきた。米国が同じ失敗を繰り返すようなら、日本の景気回復の道も険しいだろう。
◎湯涌温泉復興 奥座敷の夢プランも必要
七月二十八日に発生した浅野川はんらんで大きな被害を受けた金沢市の湯涌温泉のすべ
ての温泉旅館が営業再開にこぎ着けた。金沢の奥座敷はようやく復旧を終え、本格復興を目指す段階に入るわけだが、これまでに九旅館で計約千三百人分の予約キャンセルが出るなど傷跡は浅くない。水害によって傷ついたイメージやいったん離れた客足を取り戻すのは容易ではなく、これからが本当の試練だろう。
客足回復のための取り組みと言えば、まず思い浮かぶのが大々的な観光キャンペーンで
ある。しかし、湯涌温泉の宿泊者数が水害前から順調とは言えない状況であったことを思えば、いっときのPRだけで大きな成果を挙げられると期待するのは楽観的に過ぎるように思われる。この際、北陸新幹線の金沢開業もにらみ、短期集中的な対策と同時並行で、奥座敷再生のための中長期戦略を考えることも必要なのではないか。
湯涌温泉については、県と金沢市、地元観光協会が連携して二〇〇五年度から五カ年の
魅力創出計画を策定している。この計画に基づいて観光協会が実施する事業経費の三分の一を県が、三分の一を市が補助する仕組みであり、竹久夢二のデザインをもとにした浴衣の制作など既に具体化した事業も多い。ただ、この計画は当然ながら水害による客足の落ち込みは想定しておらず、これだけでは力不足である。
奥座敷が輝きを取り戻せば、金沢の魅力もさらに厚みを増すことになるのだから、地元
関係者はもとより、市民ぐるみでアイデアを出したい。もちろん、実現可能性を完全に無視してしまうわけにはいかないものの、たとえば、金沢城の辰巳櫓(やぐら)復元のように、地元に夢と元気を与える大がかりなプランもあっていい。
湯涌温泉の年間宿泊者数は、一九九八年の白雲楼ホテルの営業停止で一気に四、五万人
減り、最近は九旅館で八万人弱に過ぎないという。官民がスクラムを組み、「災い転じて福となす」という気構えで復興に取り組み、じり貧からの脱却を成し遂げてほしい。