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2008年9月15日

きっかけは「ウザイな。はいはい、通報」

 埼玉県がヤバイ! 埼玉県弁護士会が裁判員制度対象事件を担当する国選弁護士人を募ったら、49人が登録を申し出たらしいんだけど、目標は100人なんですよ。しかも、100人って数字は当面の目標で、ホントは150~200人くらいの登録数がベストらしい。

 もっと弁護人の報酬を上げないと、やりたがらないよなぁ。弁護士だってボランティアじゃないからね。一応、09年度の予算では、国選弁護士報酬から今年の予算額の2倍にはなってるんだけど、公判前整理手続きとか含めると、拘束されている時間はかなりのものでしょうからね。誰か時給に換算して発表してくれないかな。

 今回は、9月12日に行われた小林宏有被告人(47)の裁判の話。罪名は業務妨害。ネットの掲示板に無差別殺人をほのめかす書き込みをした事件ですね。報道によると、6月中旬に埼玉県川口市の商店街の路上で自分のPSP(プレイステーションポータブル)を操作、他人の無線LAN(情報通信網)に無断で接続しインターネット掲示板に「明日、浅草で無差別に人殺しをやるよ」などと、数回書き込んだ。このため浅草署の警察官35人が警備にあたり、本来の業務ができなくなった。

asozan080915.jpg

 今回初めて知ったんだけど、PSPってインターネットブラウザが標準機能として搭載されてるんですね。便利な携帯ゲーム機だこと。住所不定無職の被告人ですら持ってるのに、俺は持ってないんだけど。

 最近急激に増えてるネット上の犯行予告なんだけど、自宅のパソコンやケータイ、漫画喫茶から書き込みをしてるので、犯人を特定しやすいのがほとんどです。でも、本件は路上で無線LANを利用しての書き込みですよ。果たしてどうやって、捕まったのか。
 検察官の冒頭陳述によると、被告人は土木関係の仕事を長年していたが、3年前から住居不定で日雇いの仕事をする生活になったらしい。
 被告人は以前から、PSPで無線LANを利用して2ちゃんねるにアクセスし、野良猫に関するスレッドに愛護派として書き込みをしていた。しかし、ある日、駆除派になりすまして、「俺も野良猫はムカツク。何か問題が起きたら、愛護派のせいだぞ。お前らもネコも全員死ね」などの過激な書き込みを開始。

 その書き込みのなりすましが他の観覧者にバレたり、無視されたことに被告人は立腹し、犯行予告の書き込みをした、と。

 警察はIPアドレスの開示を受け、犯行予告の書き込みをした場所を特定。しかし、メガネ屋の店員にPSPユーザーがいなかったことから、店外の防犯カメラの映像をチェックし、PSPを操作している男性を発見。その後、張り込みをしていたら、防犯カメラの映像に映っていた男と同じ服装でPSPを操作している被告人がいたので、職場質問をしたところ、被告人が犯行を認めて、逮捕。これが事件の流れです。

 犯行予告を受けて、浅草の警備にあたったことより、逮捕までの業務の方が大変な気もするんだけどね。とにかく、防犯カメラとPSPユーザーが少なかったことと、被告人が着替えをしてなかった3つが重なって逮捕につながったようです。

 被告人は取り調べに対し、「PSPでゲームをしたり、2ちゃんねるに書き込むのが好き。生来の議論好きで野良猫のスレッドで議論していた。なりすましがバレて、あっさり引き下がるわけにもいかず、過激な書き込みになってしまった。“ウザイな。はいはい、通報”のレスポンスに立腹して、犯行予告をしてしまった」と供述しているそうな。

 うーーむ、動機がよくわからん。良し悪しはさて置き、「世間を騒がせたかった」という動機なら話はつながるんだけど、野良猫の愛護派なのに駆除派のフリをして書き込んだのがバレて、無差別殺人予告ですから。
 そして、被告人質問。まずは、弁護人から。

 弁護人 「起訴状にある文章を2ちゃんねるに書き込んだのは間違いないですね?」
 被告人 「間違いありません」
 弁護人 「人を殺すつもりはあったんですか?」
 被告人 「ありません」
 弁護人 「(他の書き込みにあるように)ネコを殺すつもりはありました?」
 被告人 「ありません」
 弁護人 「元々愛護派ですからね」
 被告人 「はい」

 ネコを愛する人間が人を殺すわけがない、という主張のようです。

 弁護人 「何のためにこんな書き込みをしたんですか?」
 被告人 「自己満足というか、秋葉原の事件と同じようなことを書いたら、みんなどんな反応をするだろうと。書き込みによって被害に巻き込まれた人がいるわけですが、そういうことは全く考えていませんでした」
 弁護人 「こんなことを書いたら、通報されると思ってなかったんですか?」
 被告人 「当時は(駆除派としての)自分の書き込みを信用してないようでしたし、通報もないだろうと」
 弁護人 「今までそういうことで通報されたって話は聞いてないし、誰も(自分の書き込みを)信用してなかったし」

 今年だけじゃなく、以前からこの手の事件は報道されてたと思うんだけど。これは後で検察官につつかれることに。

 弁護人 「逮捕されて2カ月以上も身柄を勾留されてますけど、どんなこと考えましたか?」
 被告人 「申し訳ないんですが、自分のことばかり考えていました。自分は今まで、半分死んだような生活で投げ出したくて仕方なかったんです。それでインターネットを始めて、現実逃避ができて。でも、変な自己満足だけでは成長できないと思います。世の中厳しいことや辛いこともありますが、地道に仕事をしていかなければならないと思います。そのようなことを考えておりました」
 弁護人 「そうですか。被害を受けた浅草署の警察官に対して言いたいことはないですか?」
 被告人 「こんな事件を起こして謝ればすむわけではないんですが、こんな自分の幼稚な書き込み、不謹慎な書き込みで警備をさせてしまいました。妹や母親にも悲しい想いをさせてしまいました。そして、秋葉原の事件の被害者や遺族の方々に対し、ホントに失礼なことをしてしまいました」

 この手の裁判で、被告人が秋葉原の事件の被害者に謝罪したのは初めて聞きました。ほかにもいろんなことを語ってたんだけど、生来の議論好きってことあってか、議論的にきっちりしゃべる人なんだよね。なんでそんなしっかりした人がこんな犯行に至ったんだろ?
 次は検察官から。

 検察官 「さっき、通報されないと思ってたみたいなことを言ってましたけど、PSPと無線LANを使ってるから捕まらないだろうということなんですか」
 被告人 「それもあったと思います」
 検察官 「あと、あなたの書き込みに対して、“最近大学生が送検されたしな”とレスポンスがありましたね。似たような事件が報道されてましたけど、知ってました?」
 被告人 「知りませんでした」
 弁護人 「あと、みんなが“通報”とかレスポンスしてるのを受けて“準備OK!”なんて書き込んでますよね」
 被告人 「深く考えてませんでした」

 本気だったんじゃないか、と、検察官は言いたいようです。そして、

 検察官 「こんな物騒な書き込みをどんな気持ちでやってたんですか?」
 被告人 「秋葉原の事件のマネというか、そういう書き込みをしたのに本気にする人がいなくて。“なんでそんなことするんだよ”とか“やめろよ”とかいうレスを待ってたんです」

 と、恐らく真実と思われる動機が明らかになりました。駆除派のふりをして、過激なことを言っても、誰も本気にしないから、犯行予告をすれば本気になってくれるだろうと。さすがは、生来の議論好きの被告人です。みんなに本気で議論してほしかったんでしょう。ま、みんな、被告人の議論に付き合ってられるほど、暇じゃないのよ。
 最後は裁判官から、

 裁判官 「カッとなりやすいんですか?」
 被告人 「そういうのはあると思います」
 裁判官 「本件もそういう性格が影響しているんでしょうか?」
 被告人 「何とか信用しないかなと、カッとなってしまいました」
 裁判官 「あなたが書いた反省文の中に“ケジメ”という言葉が出てきますが、どういう意味ですか?」
 被告人 「悪いことをしたわけですから、どんな判決でも納得しなきゃいけないと」

すると、裁判官が意地悪な質問です。

 裁判官 「実刑でもかまわないってことですか?」
 被告人 「…う…、そしたら、しょうがないと思います。でも、気持ちの中では社会内でやり直したい気持ちもあります」

 と、被告人がたじろいだところで質問終了でした。

 このあと、検察官が懲役1年6月を求刑して、閉廷。
 よく考えると至るところにホットスポットとかの無線LANを利用できる場所があるわけだけど、すべてに防犯カメラはついてるのかね。今後、防犯カメラの有無まで調べてから、犯行予告をを書き込むヤツが出てきそうだなぁ。
 それにしても、裁判官の実刑予告にも思える最後の質問は、例えなのか本気なのか? 被告人は本気にしてるようだったけど。

※写真は、秋葉原無差別殺傷事件前に携帯電話サイトに書き込まれた犯行予告(共同通信)

注目の裁判

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9月16日(火)被告人・村木恵子:殺人
<無理心中を図り母親を殺害した事件> 08年7月、たばこ店経営の村木恵子(当時59)は浴槽で母親の高桑愛子さん(当時83)を殺害したため逮捕された。生活費に困り無理心中を図った。

9月16日(火)被告人・村上世彰:証券取引法違反
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9月17日(水)被告人・坂上好治、熊本徳夫:詐欺
<平成電電事件> 07年3月、経営が破綻したベンチャー系通信会社「平成電電」が集めた資金を詐取した疑いで、元社長、佐藤賢治(当時55)、「平成電電設備」と「平成電電システム」元社長、熊本徳夫(当時54)が詐欺容疑で逮捕された。03年9月から2万人から約490億円を集め、このうち約1万3000人、総額約300億円を運転資金などに流用したとみられる。

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9月17日(水)被告人・上鈴木広行:昏睡(こんすい)強盗
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9月17日(水)被告人・藤村健二:殺人(控訴審初公判)
<妻を殺害した事件> 07年9月、横須賀市の無職藤村健二(当時44)は、妻の弥生さん(当時31)の首を絞めて殺害した。

9月17日(水)被告人・満井忠男、緒方重威:詐欺
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<連続強盗殺人事件> 01年6月、運転手の池内楯雄(当時57)は、たばこ店の経営者(当時77)や、雇い主夫婦を殺害した。

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<公衆トイレで金づちで殴りかかった事件> 08年2月、無職沢田尚哉(当時31)は、東京都新宿区の公衆トイレでタクシー運転手(当時41)にいきなり金づちで殴りかかり、頭の骨が折れる重傷を負わせた。調べに対して「人を殺せば死刑になると思って殴った」と供述した。

9月18日(木)被告人・西川純:ハイジャック防止法違反や殺人未遂など
<日本赤軍によるテロ事件> 74年9月、オランダ・ハーグのフランス大使館が日本赤軍によって占拠された、いわゆるハーグ事件で西川純(当時24)は、中心的な役割を果たした。また、77年のハイジャック事件であるいわゆるダッカ事件にも関連した。75年に逮捕されて初公判が開かれたが、同年、クアラルンプールの米国大使館占拠事件で日本赤軍の釈放要求により超法規的措置で釈放された。97年にボリビアから国外退去処分を受け逮捕。1審で無期懲役の判決を受けていた。

9月18日(木)被告人・岡森孝治:わいせつ略取、集団強姦(ごうかん)など(控訴審初公判)
<女子高生への暴行事件> 07年11月、、会社員、吉田勝之(当時36)と無職岡森孝治(当時37)は、上越市内の公園で女子高生に道を尋ねるふりをして自動車に乗せて暴行した。1審で岡森は懲役6年6月の判決を受けた。

9月19日(金)被告人・久野太辰:証券取引法違反(控訴審判決)
<ライブドアによる証券取引法違反事件> ライブドアの04年9月期連結決算に向け、社長の堀江貴文は熊谷、宮内らに経常利益20億円と公表することができるよう指示し、宮内らは自社株売却益を計上する仕組みを考案した。小林、久野は公認会計士で04年9月期連結決算で53億円余を粉飾した有価証券報告書に「適正」の意見を付け、関東財務局に提出した。1審で小林は懲役1年、執行猶予4年、久野は懲役10月の実刑判決を受けた。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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