ＥＴＳ−VII　ランデブ・ドッキング（RVD）実験の結果

（中間報告）

ETS-VIIプロジェクトチーム，１９９８年１２月

１．はじめに

２．ETS-VIIのRVD実験ミッション

2.1 システムの概念
2.2 実験目的
2.3 実験計画
2.3.1 RVD機器技術
2.3.2 RVD航法誘導制御技術
2.3.3 RVD運用管制技術
３．RVD実験結果
3.1 第１回RVD実験（FP1）
3.2 第２回RVD実験（FP2）
3.3 技術検証項目
3.4 性能評価結果
3.5 実験結果の公開
3.6 海外からの反響
４．まとめ

１．はじめに

技術試験衛星VII型（ETS-VII）「おりひめ」「ひこぼし」は、21世紀初頭から始まる国際宇宙ステーション時代に必要となるランデブ・ドッキング（RVD）技術と宇宙用ロボット技術を開発し、軌道上で実証実験をするための技術試験衛星です。国際宇宙ステーションの建設は、今年の11月20日にロシアの基本機能モジュール「ザーリャ」が打上げられ、いよいよ本格的な建設が始まりました。現在NASDAでは日本実験棟JEMや補給機HTVの開発を進めており、「おりひめ」「ひこぼし」で開発したRVD技術は、HTVが宇宙ステーションへ接近するために必要な技術です。

「おりひめ」「ひこぼし」は、1997年11月28日に種子島宇宙センターからH-IIロケットで打上げられ、高度550km、軌道傾斜角35度のミッション軌道に「ひこぼし」衛星の軌道制御能力で上昇した後、衛星自身とRVD／ロボット実験系の初期点検を行いました。本年６月５日の分離性能試験によりドッキング機構の点検を行って、RVD実験のために新しく開発した機器が、打上げ時の過酷な環境に耐えて全て正常に作動することが確認できました。７月７日に最初のRVD実験（「七夕ランデブ実験」と呼んでいます）を行い、相対距離２mまで分離し、自動ドッキングを行うことに成功しました。また、８月には第２回RVD実験を行い、スラスタの噴射異常現象が発生したものの、３週間に及ぶ分離飛行の後に「おりひめ」と「ひこぼし」を再会させることに成功しました。

本資料では、ETS-VIIで開発し、実証しようとしているRVDシステムとRVD技術について概説した後、第１回、第２回のRVD実験結果及び一次評価について報告します。

２．ETS-VIIのRVD実験ミッション

2.1 システムの概念

ランデブ・ドッキング（RVD）技術は軌道上の２つの宇宙機同士が接近し、結合する技術です。

NASDAは米国、ロシア、欧州、カナダが協力して開発を進めている国際宇宙ステーション（ISS）プロジェクトに参画しており、ISSに物資を補給するためのH-II打上げ型補給機（HTV）を開発しています。目前に宇宙ステーション時代の到来を控えて、ISSに物資を補給したり、実験機器や消耗品の交換等のサービスを行うために、軌道上の宇宙機に接近し、結合するランデブ・ドッキング（RVD）技術が不可欠です。ジェミニ、アポロからスペースシャトルまで、アメリカでは宇宙飛行士が宇宙機を操縦してRVDを行って来ていますが、私達はNASDAの21世紀初頭の宇宙活動を考え、無人宇宙機が自動・自律でRVDするシステムを基本システムとして選定しました。

ETS-VIIで開発し、実証しようとしているRVDシステムは、以下のような特徴を持ったRVDシステムです。

  1. 低軌道(LEO)への地上打上げ型RVDシステム

  2. 無人宇宙機による自動RVDを基本とし、遠隔操縦によるRVDも可能なシステム

  3. ISS等の有人宇宙機へのRVDを可能とするため、安全性の確保に重点を置いたセイフRVDシステム

  4. 能動的なチェイサ宇宙機が受動・協力的なターゲット宇宙機へ接近するRVDシステム

  5. 秒速1cm程度で接近し、非接触状態にて捕獲し、結合する低衝撃型ドッキング

無人宇宙機がRVDを行う方法として、自動RVDシステムと地上から遠隔操縦するRVDシステムが考えられますが、

等の点を考えた結果、ETS-VIIのRVDシステムは自動を基本とし、一方で、将来の種々のRVDミッションに柔軟に対応できるようにするために、地上からの遠隔操縦RVDの実験も可能なシステムを選定しました。

宇宙機同士のドッキングの方式には、衝撃型ドッキング(Impact Docking)と低衝撃型ドッキング(Low Impact Docking)があり、アポロ宇宙船、ソユーズ宇宙船等米ロのドッキングは、宇宙機同士の接近速度を5〜20cm/s程度とし、両宇宙機の慣性力を利用してドッキング機構を勘合させる衝撃型ドッキングです。衝撃型ドッキングでは、宇宙機本体やドッキング機構に高い剛性、強度が必要で、重量が重くなります。また、衝撃型ドッキング中に万一事故が発生すると、宇宙機に重大な損傷を与える危険性があります。私達は今後の宇宙機のRVDを考え、

等の理由から、約1cm/sec の低速度で接近し、光学センサで位置を計測し、接触する以前にドッキング機構でターゲット衛星上の把持機構を捕獲し、結合する非接触低衝撃型のドッキング方式を選定しました。低衝撃ドッキング方式は、非常に高い制御精度が必要となる大変難しい技術ですが、これを世界に先駆けて開発することにしました。

　

2.2 実験目的

地上から打上げられた宇宙機が軌道上宇宙機にRVDを行うためのシーケンスは、(1)打上げフェーズ、(2)軌道変換フェーズ、�Ａ蠡仞楸瓮侫А璽此↓ず能�接近フェーズ、�ゥ疋奪�ングフェーズ　の５つのフェーズに分類されます。

各フェーズ毎に、ターゲットまでの接近距離、フェーズ終了時の投入精度、航法・誘導制御技術とシステム運用管制技術を整理したものを表１に示します。

ETS-VIIのRVD実験の目的は、これらの技術の軌道上実証を行うことですが、熱帯降雨観測衛星（TRMM）との相乗り打上げであること等により、打上げフェーズの実験はできません。そこで、５つのフェーズの内で、投入精度要求が高く、技術的に重要なため、事前実証が必要と考えた�Ａ蠡仞楸瓮侫А璽困�ら�ゥ疋奪�ングフェーズにおけるRVD技術の実証実験をミッションとして選定しました。

また、(2)軌道変換フェーズの重要な技術であるGPS絶対航法とこれを使った自動軌道変換についても実証が可能で、HTVに先駆け、地上打上げ型RVDで必要な技術は（飛行する軌道が異なりますが）ETS-VIIのRVD実験でほとんど全て実証することができます。

　

2.3 実験計画

ETS-VIIは、チェイサ衛星「ひこぼし」(約2500kg)／ターゲット衛星「おりひめ」(約400kg)の２つの衛星から構成され、「ひこぼし」が「おりひめ」を分離し、自動及び遠隔操縦RVD実験を行います。 ETS-VIIのRVD実験は、「おりひめ」「ひこぼし」両衛星のバスシステム（姿勢軌道制御系、推進系、通信系等）、両衛星に搭載されたRVD実験系機器、地上の追跡管制設備と、米国のデータ中継衛星TDRSを利用した通信リンク等によって実行されます。「おりひめ」衛星は目印となる鏡等を持って、姿勢制御だけを行っています。「ひこぼし」衛星が「おりひめ」衛星との位置関係を計りながら、軌道の制御を行って接近します。

当初の実験計画では、近傍域から遠方域へと段階的に技術実証するために、チェックアウトと６回のRVD実験飛行を行う予定であり、これらの７種類のRVD実験飛行を通じて、(1)自動及び遠隔操縦RVDに必要な機器技術、(2)航法誘導制御技術、�１人儡廟�技術の軌道上実証を行う計画でした。

  1. 結合状態でのRVD実験関連機器のチェックアウト。
  2. VP点（2m）までの分離とドッキング実験。（FP1）
  3. TF点（500m）までの離脱と最終接近→ドッキングまでの実験。（FP2）
  4. TI点（9km）までの離脱と相対接近→最終接近→ドッキングまでの一連の実験。（FP3）
  5. ﾃﾞｨｾｰﾌﾞﾙｱﾎﾞｰﾄ（非衝突軌道上での制御中断による安全確保）を含むオフノミナル運用の実験。（FP4）
  6. 遠隔操縦による最終接近と、衝突回避マヌーバ（CAM）を含むオフノミナル運用の実験。（FP5）
  7. HTVの接近を模擬した地球方向からのRVD（Ｒバー接近）等の将来宇宙機のためのRVD実験。（FP6）

（各実験計画の詳細はこちらを御覧ください。）

ETS-VIIで開発し、実証しようとしているのは、表１に示すRVD技術です。これらについて、以下に説明します。

　

2.3.1 RVD機器技術

無人宇宙機が自動的にRVDを行うためには、相手宇宙機との位置や接近速度などを計測し、推定する「航法」の機能が必要です。航法センサは光学センサと電波センサに大別されます。レーザ等の光学センサは高精度の計測に適していますが、長距離化が難しく、太陽光等による光学干渉に弱いという弱点があります。一方、GPS等の電波センサは、精度面では光学センサに及ばないものの、長距離での使用に適しており、干渉の影響等も受けにくいという長所があります。これらの特性を考えて、ETS-VIIのRVDシステムでは、500m以遠の相対接近フェーズでは長距離での使用に適したGPS相対航法を、500m〜２mの最終接近フェーズでは高精度のレーザ・レーダであるランデブ・レーダ（RVR）を、２m以近のドッキングフェーズでは相対６自由度（位置／姿勢）の計測を行うために、画像センサである近傍センサ（PXS）を選定しました。

また、ターゲット衛星を低速で分離し、低衝撃ドッキングを行うために、カニの爪のような３体のラッチ機構が同時に動いてターゲットの取っ手を捕まえる独自のドッキング機構を開発しました。

これらのRVD機器は、世界的に見ても初めてランデブ・ドッキングの実験に使われる物ばかりで、打上げの時の激しい振動や衝撃に耐えて、宇宙空間で予想通りにきちんと動くことを確認するのが、ETS-VIIのRVD実験の第一の目的です。

　

2.3.2 RVD航法誘導制御技術

次に、航法センサの計測データより相手宇宙機との位置や接近速度などを推定し（航法）、接近するための目標軌道を自動的に作り出し（誘導）、スラスタを噴射しながら正しい軌道や姿勢を保って飛んでいく（制御）一連の機能が必要です。各フェーズの航法・誘導・制御は以下のように行われます。

相対接近フェーズでは、GPS相対航法により相対位置を推定し、C-W誘導則（相対運動の方程式の解を使って、必要な速度変化（ΔＶ）を求める方法）により軌道制御指令（必要ΔＶ）を生成し、加速度計で計測した増速度量を積算して、必要ΔＶに達した時点でカットオフ指令を出すVIC（ﾍﾞﾛｼﾃｨ･ｲﾝｸﾘﾒﾝﾄ･ｶｯﾄｵﾌ）制御を行います。GPS相対航法は、「おりひめ」のGPS受信機で計測した観測量（GPS衛星との距離等）を「ひこぼし」のGPS受信機（C/GPSR）に送り、C/GPSR内で両者の観測量の差をカルマン・フィルタ（軌道運動を利用した平滑化）で処理して、相対位置／速度を推定します。「おりひめ」と「ひこぼし」で同じGPS衛星を選択して観測し、差を差し引くことで、カーナビよりも10倍もの高精度で相対位置を推定することができます。

最終接近フェーズでは、RVR相対航法により相対位置を推定して、「おりひめ」と同一高度の円軌道を基準軌道として、前方から接近（Ｖバー接近）を行います。RVRの視野中心を「おりひめ」の方向に向けるようにLOS指向の姿勢制御を行います。

ドッキングフェーズでは、「おりひめ」のドッキング軸の正面から接近するために、PXSの計測値に基づき相対６自由度制御を行います。「ひこぼし」が１cm/sで接近しながら、「おりひめ」の取っ手がドッキング機構の捕獲領域の真ん中に入ったことをPXSで検知し、非接触状態で捕獲し、低衝撃型ドッキングを行います。

これらの一連の航法・誘導・制御の能力を持った本格的な自動RVDシステムの飛行データが公開された例はなく、自動RVDが予想通りに実施できるか、世界的にも貴重な技術データを収集することが第二の目的です。

　

2.3.3 RVD運用管制技術

無人宇宙機が有人のISSに自動的RVDを行うためには、非常に高い安全性、信頼性が要求されます。「ひこぼし」のRVDシステムは「同時に２つの故障が続いて発生しても『おりひめ』との衝突に到らない」ように設計されています。「ひこぼし」の誘導制御計算機（GCC）は３重系のCPU（中央演算処理装置）を持っており、航法誘導制御演算結果を比較しながら、正しく飛行することができます。また、この計算機に搭載されているプログラムには安全処置の機能が組み込まれており、例えば30m以内の至近域で、航法センサが２重に故障した場合には、自動的にスラスタ噴射を行って安全領域に退避します。（衝突回避マヌーバ：CAM）

また、RVD実験時には、地上にいるパイロットが「ひこぼし」を遠隔操縦して「おりひめ」に接近したり、「おりひめ」「ひこぼし」の２つの衛星を地上から同時に運用管制したり、これまでにない高度の運用管制が行われます。特に、遠隔操縦ランデブ実験では、アメリカのデータ中継衛星TDRSを使用するために、通信距離にして10万km近く離れた衛星を、地上から実時間で高精度に操縦してやる必要があります。

このような自動のRVD安全管理がうまく機能するか確認するとともに、安全にRVDを行うために必要な高度の運用管制技術を経験し、修得することが第三の目的です。

RVD実験運用中のスタッフ

３．RVD実験結果

3.1 第１回RVD実験（FP1）

第１回RVD実験（FP1）は７月７日に実施し、成功裏に終了しました。分離からドッキングまでは、TDRSで通信リンクが取れる42分以内で実施しました。筑波宇宙センターよりのコマンド指令を受け取った「ひこぼし」は、ドッキング機構により「おりひめ」を1.8cm/sで分離しました。「ひこぼし」はPXSで相対位置と姿勢を計測し、相対６自由度制御を行い、VP点（2m）に停止しました。VP点で約15分間、一定の距離を保って飛行した後、コマンド指令により「ひこぼし」は再び接近を開始しました。相対６自由度制御を行いながら「おりひめ」に１cm/sで接近して、ドッキング機構で「おりひめ」を捕獲・結合し、自動ドッキング実験に成功しました。写真１はVP点よりドッキングまでの接近の様子を衛星搭載のドッキングカメラがとらえた画像です。

写真１　ドッキング時の画像（240KB）

FP1の成功により、自動RVD技術の内で最も難易度の高い自動ドッキング技術を実証することができました。

　

3.2 第２回RVD実験（FP2）

第２回RVD実験は８月７日に開始しました。当初計画では520mまで離脱し、そこからＶバー接近を行って、ドッキングを行う予定であり、RVRによる相対位置計測と、基準軌道誘導の確認が主目的でした。しかし、接近中にスラスタが正常に噴射できなくなる現象が数回発生し姿勢精度を維持できなくなったので、「ひこぼし」の安全処置機能が作動し、接近を中断して安全な位置まで退避しました。この異常現象の原因は特定できませんでしたが、「おりひめ」の姿勢制御用推進薬の枯渇する心配があったので、誘導制御計算機の搭載ソフトウェアを改修し、スラスタ噴射回数を低減する等の対策を施して再接近を試み、８月27日にドッキングに成功しました。

FP2では当初計画（３パス）をはるかに上回る150パス以上に渡ってRVD実験モードにて飛行し、相対距離も当初計画の20倍以上の12km近くまで離れ、そこから復帰の飛行を行ってドッキングを行うことができました。（図１にFP2のRVD実験モードによる飛行経路を示します。）FP2の飛行を通じて、GPS相対航法やC-W誘導、搭載系に異常事象が発生した際のﾃﾞｨｾｰﾌﾞﾙｱﾎﾞｰﾄによる安全確保機能と、退避点からの復帰運用等を確認できました。

図１　第２回ランデブ・ドッキング実験時　ひこぼし衛星飛行軌跡（196KB）

　

3.3 技術検証項目

RVD実験の各実験飛行における技術検証項目の内でFP2までに検証することができた項目を、当初計画と比較した結果を表２に示します。FP2では、当初計画で実証する予定だった技術項目だけではなく、FP3やFP4で実証する予定であった技術項目についても実証することができました。また、予定以上に長い範囲を飛行したために、当初計画を上回る技術の実証ができた項目も数多くあります。特に、GPS相対航法が要求仕様よりも約５倍も高精度で実現できたために、計画よりも近い点をTI点を設定することができ、ここから最終接近を行うことができました。また、実際に発生した異常現象に対して、オンボード機能と地上運用の活用によって安全に対処し、ドッキングという最終目標を達成できたことは、今後の宇宙ステーション時代に向けて、非常に高度な運用管制技術を実地に修得できたという点で、大変大きな意義があったと考えています。

表２に示した通り、FP2までで自動RVDに関する技術検証はほぼ終了しており、残された技術検証項目は、自動RVDについては衝突回避マヌーバ（CAM）と地球方向（下方）からの接近（Ｒバー接近）、そして、遠隔操縦による接近実験です。これらについては、FP2の異常現象の原因究明を進め、対策処置を施した上で来年の前半を目途に実施する予定です。

　

3.4 性能評価結果

現在、FP2実験までに得られた飛行データより、それぞれの技術評価項目についての詳細な精度評価を行っています。現時点での主要な評価結果を以下にまとめて示します。

(1) PXS航法

近傍センサ（PXS）の結合状態における計測値は、地上試験時の計測値と比較して、0.1mm、0.05degの程度で一致しており（表３）、FP1における分離からドッキングまでの主系／冗長系の計測値も良好に一致していました。これらのデータから、PXSは要求精度を十分満足していることが確認できました。

(2) RVR航法

ランデブ・レーダ（RVR）の結合状態における計測値は、地上試験時の計測値と比較して、2cm以内で一致していました。また、FP1における分離からドッキングまでの計測値をPXSと比較した結果を図２に示します。両者には10cm程度の差が見えますが、これは取付け位置による面間距離の違いがあるためで、この分を差し引くと4〜7cmの精度で良好に一致しています。これらのデータから、RVRは要求精度を十分満足していることが確認できました。

図２　分離からドッキングまでのPXS計測値とRVR計測値の比較（97KB）

(3) GPS相対航法

GPS相対航法とRVRで計測した距離を比較した結果を図３に示します。両者は１ｍ程度の精度で良好に一致しています。また、結合状態や保持点での航法値等より、GPS相対航法の精度は5m程度と推定され、要求仕様（26m）の５倍の高精度で相対航法が可能であることが確認できました。また、GPS相対航法は、150m〜12kmの距離域で100周回以上に渡って安定して動作することが確認できました。

図３　GPS相対航法とRVR計測値の比較（42KB）

(4) 分離

分離時は姿勢／軌道制御系と相互に干渉することを避けるために両衛星のスラスタ制御を中断しますが、制御再開時にPXSの捕捉・計測を維持するために、ドッキング機構の分離性能（いかに真っ直ぐに分離できるか）が重要になります。Ｘ軸方向の分離速度は、1.75cm/s（要求仕様：1.8±0.4cm/s）、横方向速度や姿勢レートも許容誤差の4〜80％の値でした。このため「おりひめ」搭載のPXSマーカのPXS視野中心からの変動はわずかで、ほぼ真っ直ぐに分離することができました。

(5) 相対６自由度制御

分離中と接近中の相対６自由度制御は正常に行われました。FP1実験時の分離からドッキングまでの相対位置（PXS計測値）を要求仕様と比較して図４に示します。トランジェントを除く相対位置／姿勢誤差は許容値の1/3〜1/5以内であり、要求仕様を十分満足していることが確認できました。

図４　相対6自由度制御結果（78KB）

(6) ドッキング接近制御

VP点（2m）出発144秒後に「ひこぼし」は「おりひめ」のラッチハンドル（把持部）をドッキング機構の捕獲領域に捉え、非接触低衝撃での自動ドッキングに成功しました。捕獲時の位置は、写真１からもわかる通り、捕獲中心から１cm以内で、ほぼ中心で捕獲したことが確認できました。

(7) C-W誘導、VIC制御

GPS相対航法が要求仕様よりも５倍も高精度であったために、要求精度（80m）以上の20m程度の精度で投入可能であることが確認できました。このため、当初計画（520m）よりも近い150mをTI点として設定し、ここまで相対接近により近づけることが確認できました。

(8) 異常管理／コンティンジェンシー対応運用

故障検知分離（FDIR）機能やﾃﾞｨｾｰﾌﾞﾙ･ｱﾎﾞｰﾄ機能等、誘導制御計算機（GCC）の搭載プログラムによる自動飛行管理機能が正常に作動し、安全に飛行できることを確認しました。また、実際に発生した異常現象に対して、オンボード機能の活用と地上運用によって対処することで、復帰からドッキングまでの運用を実施することができました。

(9) 視覚系カメラ

「ひこぼし」搭載のビューイングカメラによって当初計画（500m）を上回る1.5km離れた地点で「おりひめ」の姿を撮像することができました。

　

3.5 実験結果の公開

ETS-VIIのRVD実験（FP1、FP2）の様子は、ロボット実験の様子とともに、インターネットによって生中継し、宇宙空間での実験としては珍しい公開実験として実施しています。

実験を通じて得られた貴重な技術データについては評価、解析を進め、以下の学会で論文発表を行っています。

  1. 電子情報通信学会　宇宙航行エレクトロニクス研究会（98年９月：金沢）
    • ETS-VII　自動ランデブ・ドッキング軌道上実験結果（第一報）

  2. 第49回国際宇宙航行連盟会議（98年９月：メルボルン）
    • First Result of Autonomous Rendezvous Docking Technology Experiments on NASDA's ETS-VII Satellite

  3. 第42回宇宙科学技術連合講演会（98年10月：調布）
    • 技術試験衛星VII型によるランデブ・ドッキング実験結果（FP1）
    • 技術試験衛星VII型によるランデブ・ドッキング実験（FP1）データ評価結果（Ｍｅｌｃｏと共著）
    • 技術試験衛星VII型（ETS-VII）ドッキング機構の軌道上性能評価（ＫＨＩと共著）
    • 技術試験衛星VII型（ETS-VII）近傍センサの軌道上性能評価（ＫＨＩと共著）
    • 技術試験衛星VII型（ETS-VII）搭載ランデブレーダの軌道上評価（ＮＥＣと共著）
    • 技術試験衛星VII型GPS相対航法システムの飛行データ評価（I）（東芝と共著）

  4. 日本機械学会　第７回スペース・エンジニアリング・コンファレンス（98年11月：つくば）
    • ETS-VIIのドッキング機構（ＫＨＩと共著）

  5. 計測自動制御学会　第15回誘導制御シンポジウム（98年12月：東京）
    • ETS-VIIランデブ・ドッキング実験の結果
    • 技術試験衛星VII型GPS相対航法システムの飛行データ評価（II）（東芝と共著）

　

3.6 海外からの反響

ETS-VIIのRVD実験は、ロボット（RBT)実験とともにインターネットによって世界中に発信されているため、米国や欧州、アジアの宇宙関連機関や研究所等より、実験成功の直後より賞賛とともに、論文発表や飛行データの公開等の問い合わせが相次いでおり、論文送付やデータ提供依頼に対する対応に追われる状況が続いています。米国の研究所からは、「特にGPS相対航法に関し、これまでにない最高の精度が得られている。」との評価と共に、共同研究の提案がありました。去る11月には中国より宇宙技術の調査団が来日しましたが、その目的の第一はETS-VIIのRVD技術でした。この際、中国からも共同研究の提案を受けました。

ETS-VIIのRVD実験の成功により、日本は各国に先駆けて自動RVD技術を修得することができました。現在我が国だけが保有しているETS-VIIの自動RVD実験のデータは、人類共通の技術資産ということができます。大量に取得できた技術データの詳細な評価や解析を急いで、論文の形で世界に向けて発信していくとともに、国際協力の可能性についても検討を進めて行く考えです。

　

４．まとめ

去年の11月の打上げ以来１年が経過したETS-VIIのRVD実験のこれまで成果について、中間報告しました。

ETS-VIIのRVD実験システムは自動RVD実験に成功したばかりではなく、要求性能を上回る性能を軌道上で発揮できることが確認されました。

ETS-VIIのRVDシステムは、無人宇宙機による自動及び遠隔操縦RVDの軌道上実験を行うものであり、21世紀のISSへの補給技術、軌道上サービス技術へと応用されるものです。残された技術検証の実験を確実に行うとともに、実験データの評価や解析を進め、貴重なデータを技術資産と考えて、今後の技術開発に活用して行きたいと考えています。

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