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社説:汚染米転売 農水省の責任を厳しく問え

 殺虫剤やカビに汚染された輸入米が、病院や高齢者施設の給食にも使われていたことが分かり、食の不安がますます広がっている。今回の事態を招いた農林水産省の責任は重大である。大阪、熊本、福岡の各府県警は強制捜査に乗り出す方針だ。自浄能力を失った農水省に任せておけない。国は総力を挙げて全容解明と被害防止に尽くさなければならない。

 農水省は16日になって、流通先リストを公表した。これまでに判明した給食、食品加工関係のほか、外食産業も含まれ、影響は大きい。不安を一掃するには公表が遅きに失する。

 農水省の無自覚ぶりは目に余る。太田誠一・農相は「あまりじたばた騒いでいない」と発言、白須敏朗事務次官も記者会見で「私どもに責任があるとは考えていない」と居直りすら見せた。責任をわきまえず、国民を愚弄(ぐろう)する、とんでもない発言だ。

 不正転売されたのはウルグアイ・ラウンド合意で輸入を義務付けられた「ミニマムアクセス米」のうち、安全基準を超えたり、輸送中に傷んだ「事故米」だ。これまで返品・廃棄処分にしなかったのは、食用にならなくても輸入枠を消化できるため、農水省には都合がよかったからだ、と指摘されている。

 この事故米が工業用原料として1キロ平均10円程度の安値で業者に売り渡され、末端では食用として30倍以上の価格で販売された。組織ぐるみでつじつま合わせに走ったことが、業者の利ざや稼ぎの温床になっていたといっていい。

 農水省大阪農政事務所の幹部職員が、転売を主導した三笠フーズの社長らから接待を受けていたことも明らかになった。特定業者が事故米を大量に購入していたことや、立ち入り検査を事前に通知して、偽装工作を見抜けなかった点など、各地の出先機関が不正防止を怠った疑惑も募る。

 汚染米と認識しながら食用に転売した悪質業者を厳しく追及すると同時に、こういった農水省の無責任な体質を見過ごしておいてはなるまい。

 自民党総裁選を控えて国会の空白が続くが、与野党とも手をこまねいていてはならない。閉会中審査を活用して、事実を徹底究明していく必要がある。

 国民の健康被害の確認も急務である。

 これまでに確認された範囲では、ただちに人体に危険な量の殺虫剤成分などは検出されていないという。だが、汚染米の流通は相当以前から続いており、体内に蓄積した場合の健康被害の不安はぬぐい切れない。

 国は速やかに、汚染米の流通先での使用状況を確認し、健康への影響の有無を確かめると同時に、検診などの長期的な対策を講じることが不可欠である。でなければ、国民の不信と不安を解くことはできない。

毎日新聞 2008年9月17日 0時25分

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