産科補償制度、「余剰金は返さない」
「余剰が出るのではないか」「財務の透明性を要求すべき」―。来年1月から「出産育児一時金」を3万円引き上げることを承認した厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会(部会長=糠谷真平・国民生活センター顧問)で、産科医療の無過失補償制度(産科医療補償制度)の運営に対する注文が相次いだ。一分娩当たり3万円の掛け金と国からの補助金などを合わせると、余剰金が生じるのではないかとの指摘に対し、厚労省側は「(重度脳性まひの)原因究明も一つの大きな柱になっている」と理解を求め、余剰金が出ても制度に加入している分娩機関に返還する予定はないと回答した。(新井裕充)【関連記事】
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来年1月からスタートする産科医療補償制度は、分娩に関連して発症した重度脳性まひ児に対し、看護や介護のための補償金(総額3000万円)が支払われる制度で、一分娩当たり3万円の掛け金(保険料)が必要になる。医療機関の過失を証明しなくても補償金が支払われる仕組み(無過失補償)により、分娩に関連した医療裁判を減らす狙いがある。
しかし、今回の無過失補償制度では、補償される対象が限定されているため、余剰金が出るのではないかとの指摘もある。補償される重度脳性まひの発生件数について、厚労省は年間500−800件と想定している。
■「余剰が出るのではないか」
「出産育児一時金」の引き上げを承認した9月12日の医療保険部会で、対馬忠明委員(健保連専務理事)は「3万円という数字の根拠がよく分からない」との不満を表しながら、次のように指摘した。
「分娩は年間約100万件で、これに3万円を掛けると300億円。ところが、補償対象となる年間500件に(補償金の)3000万円を掛けると150億円となり、相当乖離(かいり)がある。制度の運営費用については、来年度の概算要求の中でも数億円を要求しているはずだ」
また、岩本康志委員(東大大学院経済学研究科教授)は「(年間500−800件というのは)リスクを高めに見積もっているような気がする。ノーマルにいけば、余剰(金)が出るのではないかが気になる」と指摘。余剰金が出た場合の処理について、「掛け金が『配当』という形で医療機関に戻るとか、そういう仕組みになるのだろうか」と質問した。
厚労省の担当者は、同制度が重度脳性まひ児への補償だけではなく、事故の原因究明や再発防止策の検討なども目的としていることを理由に挙げ、「原因究明も一つの大きな柱になっている。これについては、国から補助金を入れて動かしていくが、この補償制度について国から補助金を入れているわけではない」と理解を求めた。
その上で、「余剰については、お返しすることにはたぶんならない」と回答。保険金の支払い額が保険料収入を上回るような場合については、「リスクは保険会社が被るスキーム」と説明した。
■「財務の透明性を要求すべき」
産科医療補償制度は、自民党の政務調査会が2006年11月29日にまとめた枠組みに基づき、昨年2月19日に厚労省が財団法人・日本医療機能評価機構(坪井栄孝理事長)と委託契約を締結。同機構内に設置された準備委員会での約1年にわたる審議を経て、今年1月23日に最終報告がまとまった。
今後の運営も同機構が中心となり、分娩機関と民間損害保険会社との“橋渡し”をして、加入の受け付けや、事故の原因分析、再発防止策の検討、各種の事務手続きなどに当たる。
岩村正彦委員(東大大学院法学政治学研究科教授)は、無過失補償制度が医療事故全般に広がる可能性があることに触れながら、財務の透明性を図る必要性を指摘した。
「この(産科医療補償制度の)スキームは、医療機関が契約の当事者となって保険料を支払い、補償金を出産育児一時金で手当てする。それは結局、公的医療保険の財政で面倒を見るという話だ。保険そのものは民間ベースだが、(健康)保険財政のお金をつぎ込むとすると、民間の保険ではあるが、財務については透明性を要求すべきではないか。今回は、出産かつ脳性まひの場合に限られているが、実は医療事故一般にも広がり得る。そうすると、さらにその先には、『医療事故全般について、こういうスキームを考える』という話にも広がる可能性がある。その点は、医療保険部会としてはテークノートしておく必要がある」
更新:2008/09/16 20:39 キャリアブレイン
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