国土交通省が熊本県相良村に計画していた川辺川ダム建設に蒲島郁夫知事が反対を表明したことは、次期総選挙にも波紋を投げかけそうだ。ダム反対を主張してきた野党は追い風にしようと選挙戦の争点に位置づけたいと意気込む。一方、ダム推進を掲げてきた自民党は、逆風になりかねないこの問題を避けたいのが本音だ。
川辺川とその本流の球磨川が流れる熊本5区。選挙区内の15市町村のうち八代、人吉両市など12市町村が流域にある。自民現職の金子恭之氏(47)に、社民新顔で民主推薦の旧八代市長中島隆利氏(65)が挑む構図だ。
知事がダム反対を表明した日の翌12日、中島氏は「民意が実る!」という見出しのビラを手に八代市内の街頭に立った。「これまでは大っぴらに反対を言いにくい雰囲気があった」という市町村にも出向いた。「知事に『ダム反対』を言わせた流域の民意を国政に反映できる政治家が必要だ」と強調する。
社民党県連合の高嶋英俊幹事長も「知事の反対で、有権者もダム反対を言いやすい雰囲気になった」と歓迎。中島氏を推薦する民主党も「次期総選挙のマニフェストでは積極的にダム問題に踏み込む」(県連代表の松野信夫参院議員)と意気上がる。
対する金子氏は現職の国土交通副大臣で、国の河川政策を代表する立場にある。知事がダムに頼らない治水を唱えたことについては「反対するわけではないが、本当に大丈夫か、検証の必要があるのではないか」と慎重に言葉を選びつつ、懸念を示した。
知事に先だってダムの白紙撤回を求めた田中信孝・人吉市長は金子氏の市後援会長。「ダムは数多い政治課題の一つ。金子氏も、治水が必要との思いは私たちと同じ。この地域のために支持すべきは金子氏だ」と語る。ダム反対を表明した徳田正臣・相良村長も「ダム計画は地域の重要な課題だが、知事が白紙撤回を表明して方向性が定まりつつあるので、賛否は争点にはならないのではないか」とみる。