韓国の株式市場では、今年の7月頃から「9月危機説」が出回り始めていた。1997年に起きた通貨危機が再来するという話だ。
今年は米国の景気減速と原油高で貿易黒字が減る一方、旅行や配当支払いなど貿易外収支の赤字が拡大、経常収支が97年以来の赤字に転落する見通しにある(1〜7月累計では78億ドルの赤字)。また、通貨ウォンの値下がりが目立ち、政府の為替介入で外貨保有が減少する一方、景気は減速、インフレが加速している。確かに、程度の差こそあれ、状況は97年頃と似ている。
今年7月1日に韓国中央銀行が発表した経済見通しもそうした見方に勢いをつけた。今年下半期のGDP(国内総生産)伸び率見通しを0.5%ポイント、年間見通しを0.1%ポイント下方修正し、インフレ率は10年ぶりの高水準に上昇するとの見通しを示した。また、年間の経常赤字見通しを30億ドルから90億ドルに増額修正した。
97年は韓国にとっては屈辱の年だった。政府は対外債務返済のため、IMF(国際通貨基金)に570億ドルの支援を要請したが、厳しい経済政策を要求したことで“経済進駐軍”と呼ばれた。この年、株価(KOSPI指数)は47%、通貨ウォンは42%下落した。今年は、株価は年初から25%、通貨は18%下落し、アジア通貨としては最も大きく下げている。
特に、通貨はこの2カ月の下げが10%と大きい。ただ、10年前と今では金融システムの強さに格段の違いがある。当時は外貨準備が底を突いたが、現在は2400億ドルと世界6位の規模だ。しかし、株価や通貨の動きをみると、97年のトラウマなのか、市場では「9月危機説」がなかなか払拭できないでいる。
大量の国債償還が来る9月
ではなぜ、9月に危機なのか。大量の国債が9月に償還期限を迎えるのが理由の1つだ。そして韓国債の多くを買った外国人が資金を持ち出すというのだ。
韓国のネット上では「外貨準備が2400億ドルあるといっても、経常赤字が500億ドル、海外投資損失が400億ドル、短期外債1400億ドルで、これらを除くと政府が使えるのは100億ドルで、流動性が枯渇している」との話が広がった。事実認識に問題がある気がするが、同時に、為替を立て直すだけの介入資金が底を突きつつあるとのうわさも出回った。
こうした韓国人の不安心理を突くかのように、9月1日、英タイムズ紙は「韓国は今月、本格的な(full-blown)通貨危機に向かっている」との複数の銀行アナリストの意見を掲載したのだ。
だが9月3日、IMFは「状況は当時と似ている点もあるが、経済はかなり強固になっている」と発表した。韓国で財務省に当たる企画財政部も「9月危機説は虚構だ」とコメントした。しかし、この日、株価はやや戻したが、通貨は5日続落となり、3年10カ月ぶりの安値を付けた。