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弁護士小森榮の薬物問題ノート

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弁護士小森榮の薬物問題ノート
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地方裁判所で取り扱う刑事事件の約15%を占めているのが、覚せい剤事件です。実際の事件の多くは、若者が安易な考えで薬物を乱用したというもので、本来は犯罪と無縁なはずの彼らが、犯罪者として処罰されてしまうことが、私には残念でなりません。
私が弁護士として、薬物事件に取り組むなかで直面する、薬物乱用にまつわる諸問題の断片をつづってみます。
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大麻取締法の生い立ちを考える・その5−繊維を採取する目的による大麻の栽培に関する件

2008/09/11 17:45
昭和22年(1947年)2月11日付け「繊維を採取する目的による大麻の栽培に関する件」という覚書の後半部分です。
この覚書(メモランダム)を国内規定として整備し、同年4月23日に「大麻取締規則」が制定され、後にこれを基本に「大麻取締法」が整備されることになります。つまり、大麻取締法の先祖のひとつといえるものなのです。

四、右の規則を施行し、要求された記録の整備及び提出のために、厚生省麻薬課及び各県の麻薬関係官を置くに要する予算と人員に関する条項を定めること。
五、参照覚書に掲げた大麻の定義を左のように訂正する。
 大麻の語は、その生育したるものと否とを問わず、Cannabis Sativa L.の草の一切の部分、その種子、大麻草のいかなる部分より抽出したるとを問わず、その樹脂、及び大麻草、その種子又は樹脂を以って配合、製造、塩化、分出、混合又は調合した一切のものと解するが、大麻草の成熟した茎、その茎より採取した繊維、大麻の種子で製した油又は油糟、その他成熟した茎(但しそれより抽出した樹脂を除く)を混合、製造、塩化、分出、混合又は調整したもの、繊維、油、油糟、発芽不能の種子は含まない。
六、この法令の規定に違反した者に対する罰則を規定すること。
七、日本帝国政府は、当司令部公共衛生福祉部補給課、麻薬統制官に対し、第一回報告の月以後毎月末迄に、次のような大麻統制に関する概要月報を提出すること。
 イ 各県別、登録数。
 ロ 各県別、大麻栽培ヘクタール数、栽培地の数を示す。
 ハ 各県別、採取した成熟茎の数
 ニ 各県別、抽出した大麻繊維の総量
 ホ 各県別、大麻草及び種子の取引数及び額
七、大麻に関する違反事件は、当司令部覚書、一九四六年五月二十三日付、AG四四一、一PH、「日本における有効な麻薬統制制度の確立に関する件」に示した条項に従い報告すること。
八、本覚書公表後十日以内に、交付すべき大麻統制規則の英訳文を、当司令部、公共衛生福祉部補給課、麻薬統制係に提出すること。

上記の条項中、大麻の定義の部分を読んで気づくのは、これがアメリカの物質規正法がいう大麻の定義とよく似ていることです。私が知っているのは、USC タイトル21セクション802に掲げられている現行の物質規正法の条項であり、1947年当時と同じかどうかは調べていません。とりあえず、現行のものを下に掲げます。日本語文は私が個人的に翻訳したものです。
GHQのメモランダムですから当然といえば当然なのですが、私にとっては、新しい発見です。

Title 21 United States Code (USC)
Controlled Substances Act Section 802. Definitions
(16) The term "marihuana" means all parts of the plant Cannabis sativa L., whether growing or not; the seeds thereof; the resin extracted from any part of such plant; and every compound, manufacture, salt, derivative, mixture, or preparation of such plant,
its seeds or resin. Such term does not include the mature stalks of such plant, fiber produced from such stalks, oil or cake made from the seeds of such plant, any other compound, manufacture, salt, derivative, mixture, or preparation of such mature stalks (except the resin extracted therefrom), fiber, oil, or cake, or the sterilized seed of such plant which is incapable of germination.

USC タイトル21
物質規正法 セクション802 定義
(16)マリファナとは、生育しているか否かを問わずカンナビス・サティヴァ・エル植物のあらゆる部分:その種子、いかなる部分であれその植物から抽出された樹脂、その植物のあらゆる化合物、製品、塩、派生物、混合物、調製品、その種子または樹脂をいう。この用語には、その植物の成熟した茎、その茎から製造された繊維、その植物の種子から製造された油脂及び油脂糟、その成熟した茎の化合物、製品、塩、派生物、混合物、調製品(それから抽出された樹脂を除く。)、繊維、油脂、油脂糟又は発芽しないよう処理されたその植物の種子は含まれない。
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大麻取締法の生い立ちを考える・その4―栽培の全面禁止から一部緩和へ

2008/09/11 00:55
昭和20年(1945年)10月12日、連合国軍の指示によって、大麻の植付、栽培が禁止され、栽培されている大麻は直ちに除去しなければならないことになりました。
ところが、昨日取り上げた衆議院厚生委員会の記録によれば、厚生省は、「この大麻が纎維資源として重要であることはわかつておりますので、総司令部の方に懇請いたしまして、麻の資源として必要であります関係で、この生産を認めてもらうことになりまして、現在五千町歩の範囲内で、かつ人員も三万人と押えられておるのであります。」と報告しています(昭和25年(1950年)3月13日、衆議院厚生委員会会議録)。つまり、この間に、大麻栽培禁止の一部緩和が行われたわけです。

ここに至るまでのおもな動きは次のとおりです。
@昭和20年(1945年)10月12日 「日本に於ける麻薬の生産並びに記録の統制に関する件」覚書 大麻の植付、栽培の全面禁止。
A昭和21年(1946年)11月22日「日本に於ける大麻の栽培の申請に関する件」覚書
B昭和22年(1947年)2月11日「繊維を採取する目的による大麻の栽培に関する件」覚書 繊維を採取する目的で、日本政府が許可し、登録した者の大麻栽培を認める。ただし面積、地域などの制限があり、報告義務がある。
C昭和22年(1947年)4月23日「大麻取締規則」 上記指令に基づく国内規定を整備。
D昭和23年(1948年)7月10日「大麻取締法」制定

ここでは、1947年2月11日付け「繊維を採取する目的による大麻の栽培に関する件」という覚書の概要を確認しておきましょう。
三、 日本帝国政府は、左の各号の規定に従って規則を交付すること。
○ 日本帝国政府より許可され、且つ登録された者の外、何人も大麻を、所持、植付、栽培、又は生育することを禁ずる。又大麻の栽培面積は、五千ヘクタールを超えてはならず、且つ栽培地区を左の各県に限定する。
青森、岩手、福島、栃木、群馬、新潟、長野、島根、広島、熊本、大分、宮崎。
○ 大麻の輸入、製造、配合、販売、取引、施用、処方、交付を禁ずる。但し、日本帝国政府に於て、適当なる手段の準備成り次第、登録者間に於いて大麻草又はその種子を移動することは差支えない。
○ 大麻の生産者は
一定期間の初めに於ける栽培地の数及びその合計面積、栽培中の大麻の数
一定期間に植付し、又は栽培することとなった大麻の数
一定期間中に、採取若くは他の処分を行った大麻の数
一定期間の終りに於て、栽培している大麻の数
等一切の生産及び取引に関する記録を整備し、且つ、日本帝国政府に報告しなければならない。
○生産者は成熟した大麻の実は、その成熟した作付地に於て腐らさなければならない。
又成熟した茎の外は、いかなる部分も除去してはならない。
但し、日本帝国政府より許されたところに従って大麻草又はその種子を除去することは差支えない。
○ 生産者は、前項の採取した成熟茎の総量及びこれより産出した繊維の総量に関する記録を整備し、且つこれを日本帝国政府に報告しなければならない。

後半は次回に掲載します。
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大麻取締法の生い立ちを考える・その3―大麻規制をめぐる温度差

2008/09/09 22:44
連合国軍の指示(昭和20年(1945年)10月12日付、連合国軍高級司令官H.W.アレン大佐による「日本における麻薬の生産及記録の統制に関する件」)によって、大麻の植付、栽培が禁止され、栽培されている大麻は直ちに除去しなければならないことになりました。これには、当時の農政関係者は衝撃を受けただろうと、私は考えていました。
ところが、このたび詳細な資料を検討してみると、必ずしも、そう単純なことではなかったように思えます。

後日の資料のなかに、断片的に顔を覗かせる、興味深いエピソードを2つ紹介します。

まず1946年3月21日付の連合国軍メモランダムがあります。GHQ/SCAP文書のなかにあるものです。このメモランダムは、「日本における麻薬製品及び記録の管理」という題で、前述の1945年10月12日付メモランダムを徹底するために出された内容です。その第2項に次のような記載があります。
「2、麻薬原料植物及び種子の植付、栽培に関しては、日本政府は、本禁止は播種時期の前に公表され、したがっていかなる植物の除去も必要なかったと述べている。この点に関して禁止が行われていることを確認するためには、各県の担当者に連絡し、麻薬原料植物の植付、栽培を防止するよう監視しなければならない。」
10月12日付の目覚書では「現在植付られ、栽培せられ居る此等のものは直ちに除去すべし、且つ除去せられし量、日時、方法、場所、土地の所有権を連合国軍最高司令部へ三十日以内に届出づべし」とされていました。ところが、連合国軍には除去報告がなく、日本政府に問いただしたところ、この時期には栽培されているけしも大麻もないから、除去する必要はなかったという回答があった、ということでしょうか。
連合国軍側は、この回答に必ずしも納得していない様子を感じ取ることのできる文書です。連合国軍が要求した厳密な麻薬管理の一環として大麻栽培に向けられた、非常に厳しい姿勢と、日本側の当惑、その温度差に注目して、私は資料を読んでいます。

さて、日本側の受け止め方を示すのが、さらに後年の、大麻取締法をめぐる国会審議過程の記録です。実は、昭和23年に大麻取締法が成立した際には、衆参両院の本会議、及びそれに先立つ厚生委員会、いずれもこの法案に関してたいした議論もなく、他の法案との一括審議であっさり可決しています。
この法律について、やや突っ込んだ議論が出てくるのは、昭和25年、大麻取締法の一部改正に関する審議の過程でのことです。
昭和25年3月13日、衆議院厚生委員会の会議録から、厚生省担当者が大麻取締法制定の経緯について説明している部分を抜き出してみます。発言者は当時の厚生省の麻薬課長、正式には厚生技官(薬務局麻薬課長)です。

○里見説明員 (略)それから大麻の取締法を制定したことでありますが、これは先ほど申し上げましたように、日本においては、終戰前までは大麻について何らの取締規則もなかつたのでありますが、メモランダムが出まして、この大麻の取締りを行うことになりまして、もともと麻薬をとります大麻インド大麻というようなものは、国際的に麻薬ときまつておりまして、これは取締りをしなければならない義務を持つております。ただ日本にありました大麻がそれに該当するかしないかということが、これまでわからなかつたわけであります。それがたまたま調査の結果、これが当然該当するということになつた関係で、これは麻薬の原料、薬物として取締りを行わなければならない国際條件の関係もあり、それを履行する義務を日本が負つております関係で、これは将来とも取締るべきものと考えられます。世界の各国を見ますと、やはり大麻をそのまま禁止している国も多くあります。フイリツピンあるいは南鮮、日本等は纎維関係によりまして、大麻の栽培を許可されておるわけであります。もちろん、われわれとしましても、十分にこの大麻が纎維資源として重要であることはわかつておりますので、総司令部の方に懇請いたしまして、麻の資源として必要であります関係で、この生産を認めてもらうことになりまして、現在五千町歩の範囲内で、かつ人員も三万人と押えられておるのであります。実際問題としましては、三万人以上でありますが、それは何人か一かたまりでもつて一人の代表者を出して、そうして栽培させておるというとうな実情でやつておるわけであります。
○里見説明員 (略)ただいまお言葉のありました通り、取締りが嚴重に過ぎて栽培ができないとか、あるいはまた報告を出すとかいう点でやつかいであるから栽培しないというような方もあるかと思います。しかしながらできるだけそういう面を越えまして、希望される方には、栽培できるように、私どもも努力するつもりでおります。どうぞひとつ栽培県におかれましても、そういうような事態がありましたならば、御指導を願つて、あるいは私どもも、県の取締りの係員等にも、この点を十分伝えておきます。将来の取締りについては、十分御意思に沿うような考慮をいたすつもりでおります。
○里見説明員 大麻の取締りでありまするが、大麻は御承知の通り麻の纎維の原料植物であります。これは当初日本におきましては、大麻は麻薬の原料植物であるということを考えておらなかつたのでありまするが、連合軍が進駐以来日本の麻を調べましたところ、これが取締りの対象になるものである。そういうような解釈のもとで、先方よりメモランダムが出まして、これによつて大麻取締法を制定しまして取締ることになつたのであります。そうして今までわが国におきましては、大麻から麻薬をつくつてこれを悪用する、あるいはこれを使用する、そういうようなことが全然なかつたわけでありまして、現在もまたありませんのでございます。しかしながら原料植物である大麻を大量に使いますと、麻薬をとることもでき得るわけでありますので、一応これを取締る必要はあるわけであります。

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大麻取締法の生い立ちを考える・その2―GHQの対日指令

2008/09/09 00:08
昭和20年(1945年)9月に日本に進駐した連合国軍最高司令本部(GENERAL HEADQUARTERS SUPREME COMMANDER FOR THE ALLIED POWERS :GHQ)は、占領下の日本を直接統治せず、日本政府を介して間接的な統治を行いました。GHAは日本政府に対して要求事項を覚書(メモランダム)という形で伝え、これを受けて日本政府の各省庁が省令や告示を発して、行政機構に通達したのです。

連合国軍が日本を統治する際に、気にかけていたことのひとつが、満州の日本軍が関与した大量のあへんの存在だっただろうと、私は推測しています。日本国内にも、そのあへんが持ち込まれ、大量に隠匿されているのではないかと、考えるのは当然でしょう。対日指令文書の中に、「日本陸軍が保有していた麻薬」ということばが何度か登場しているのです。麻薬は、金と同じように国際的に流通し、莫大な資金をもたらします。満州のあへんは、日本陸軍の資金源のひとつであったといわれています。連合国軍は、日本を麻薬に関して潔癖な環境に保つ必要があったわけです。

連合国軍が統治を開始して間もない昭和20年(1945年)10月12日に、連合国軍高級司令官H.W.アレン大佐の名で、「日本における麻薬の生産及記録の統制に関する件」という覚書が出されています。

日本に於ける麻薬の生産及記録の統制に関する件(1945年10月12日)
一、麻薬の種子及び草木の植付、栽培を禁ぜらる、現在植付られ、栽培せられ居る此等のものは直ちに除去すべし、且つ除去せられし量、日時、方法、場所、土地の所有権を連合国軍最高司令部へ三十日以内に届出づべし
二、連合軍最高司令官の許可なくして、何人たりとも麻薬の輸入は禁ぜらる
三、麻薬の輸出並に製造を禁ず
四、麻薬の原料、未完成品、或は喫煙用の麻薬の全ストック、コカインの原料及び未完成品、ヘロイン及びMarijuana(Cannabis Sativa L.)を凍結す、且つ連合国軍の許可なくして移動、除去、使用或は売却、此等に関する書物及び記録を禁ず
五、麻薬の取扱に関する総ゆる現存記録は保存し置くべし
六、定義
A、麻薬とは阿片、コカイン、モルヒネ、ヘロイン、Marijuana(Cannabis Sativa L.)及び此等の種子、草木、総ゆる派生品、混合物或は編成品を含む
B、ヘロインはその総ゆる派生品、合成品、塩、混合物、或は調製品を含む
C、人とは医師、商人、薬剤師、政府専売者、及び他の総ゆる人保管所、合名会社、株式会社、有限責任会社、協会、此等に就いて総ゆる責任者を含む
最高司令官代   高級副官   H.W.アレン大佐

ここで、マリファナだけがMarijuana(Cannabis Sativa L.)と表記されていることは、注目に値します。このメモランダムに接した当時の政府関係者(厚生省の麻薬担当官僚)は、マリファナという語が大麻をさすと、理解しなかったのでしょうか。それとも、知らないふりでとぼけていたのでしょうか。
実は昭和20年よりずっと以前に、わが国はすでに大麻を麻薬として規制しています。1925年ころに国際条約で大麻が麻薬に指定され、当時、この条約を批准したことに伴い、わが国は国内法で大麻を「印度大麻」として麻薬に指定していたのです。
当時の官僚の考えはわかりませんが、少なくとも一般大衆は、全国で栽培されていた大麻が、条約がいう印度大麻と同一の麻薬原料植物だとは考えていませんでした。
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大麻取締法の生い立ちを考える・その1―ポツダム宣言の受諾

2008/09/07 22:21
最近、大麻取締法が何かと話題になり、そのたびにこの法律について質問を受けることが重なっています。実は、簡単に思える質問でも、大麻取締法について回答するためには、歴史的な背景から始めなくてはなりません。

日本の薬物法規制の出発点は、おそらく上海会議の時代に求めることができるでしょう。しかし、現行法の基本が整備されたのは、第二次大戦終戦に伴いポツダム宣言を受諾したときに原点があると考えてよいでしょう。その後、何度も法律改正がされ、当時の名残は薄れてしまっていますが、現行法を考えるに当って、この時代の検討を避けて通ることはできないでしょう。
この分野は資料も少なく、ちょっと調べるにも手間取るので、私は「いつか」と考えながら先延ばししてきたテーマのひとつです。ま、いつ完成するかわかりませんが、思いついた機会に、ぼつぼつ手をつけてみようと思います。
私自身の勉強ノートを不定期で連載します。

まず、問題のフレームとして、犯罪白書の一節を引用します。
(1) 終戦時の薬物関係法令
 麻薬の取締りに関する法令は明治以降幾多の改廃を経ているが,終戦時においては,明治40年に施行された現行刑法における「阿片煙ニ関スル罪」のほか,(旧々)薬事法(昭和18年法律第48号),(旧)阿片法(明治30年法律第27号)等があった。
 戦後,連合国軍の占領下において,昭和20年9月にポツダム宣言ノ受諾二伴ヒ発スル命令二関スル件(昭和20年勅令第542号)が公布・施行され,連合国軍最高司令官の要求に係る事項を実施するため特に必要がある場合には,命令をもって所要の定めをし,かつ,必要な罰則を設けることとされた。これに基づき,薬物の規制については五つのいわゆるポツダム省令,すなわち,[1]塩酸ヂアセチルモルヒネ及其ノ製剤ノ所有等ノ禁止及没収ニ関スル件(昭和20年厚生省令第44号),[2]麻薬原料植物ノ栽培,麻薬ノ製造,輸入及輸出等禁止ニ関スル件(昭和20年厚生省令第46号),[3]特殊物件中ノ麻薬ノ保管及受払ニ関スル件(昭和21年厚生省令第8号),[4]麻薬取締規則(昭和21年厚生省令第25号),及び[5]大麻取締規則(昭和22年厚生・農林省令第1号)が制定され,これらにより,麻薬,あへん及び大麻に関する規制が行われることとなった。
 法務総合研究所編『平成9年版 犯罪白書』15頁、大蔵省印刷局

昭和20年9月、わが国がポツダム宣言を受諾したことに伴って、昭和20年勅令第542号が公布されます。これは、連合国軍最高司令官の要求に対応して、随時、「命令」という形で必要なことを定め、場合によっては罰則も伴うこことになるという、原則を定めたものです。その後、各分野で発せられた多数の命令は、いわゆる「ポツダム省令」と呼ばれます。

「ポツダム」宣言受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件(昭和20年勅令第542号)
政府ハ「ポツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒ聯合国最高司令官ノ為ス要求ニ係ル事項ヲ実施スル為特ニ必要アル場合ニ於テハ命令ヲ以テ所要ノ定ヲ為シ及必要ナル罰則ヲ設クルコトヲ得
  附 則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス

薬物規制に関する厚生省令のうち、後の大麻取締法につながるのは、「麻薬原料植物ノ栽培、麻薬ノ製造、輸入及輸出等禁止ニ関スル件(昭和20年厚生省令第46号)」です。この内容をみておきましょう。下記は旧字を現在の文字に改めたものです。

●麻薬原料植物ノ栽培、麻薬ノ製造、輸入及輸出等禁止ニ関スル件
(昭和20年11月24日 厚生省令第46号)
第一条 本令ニ於テ麻薬トハ阿片、コカイン、モルヒネ、ヂアセチルモルヒネ、印度大麻草並ニ此等ノ原料タル植物及種子並ニ此等ノ誘導体、混合物、及製剤ヲ謂ヒヂアセチルモルヒネニハ其ノ誘導体、化合物、塩類、混合物及製剤ヲ含ム
第二条 麻薬原料植物ノ栽培、麻薬ノ製造、輸入、輸出、移動、破棄、使用及販売等ニ関シテハ阿片法、阿片法施行規則、薬事法及薬事法施規則ニ依ルノ外尚本令ノ定ムル所ニ依ル
第三条 麻薬原料タル植物ハ種子ノ植付、栽培、又ハ育成ハ之ヲ為スコトヲ得ズ
第四条 麻薬ノ製造及輸入、輸出ハ之ヲ為スコトヲ得ズ但シ厚生大臣ノ許可アリタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第五条 麻薬ノ輸出ハ之ヲ為スコトヲ得ズ
第六条 生阿片、半加工阿片、阿片煙膏、粗製コカイン、半加工コカイン、ヂアセチルモルヒネ、印度大麻草並ニ此等ニ関スル図書記録ノ移動、破棄、使用又ハ販売ハ之ヲ為スコトヲ得ズ但シ厚生大臣ノ許可アリタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第七条 麻薬ノ取引ニ関スル現存セル記録ハ現状ノ儘之ヲ保管スベシ
第八条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三年以下ノ懲役若ハ禁固。五千円以下ノ罰金、科料又ハ拘留ニ処ス
第九条 法人ノ代表者又ハ法人若ハ人ノ代理人、使用人其ノ他ノ従業員ガ其ノ法人又ハ人ノ業務ニ関シ前条第二号ノ違反ヲ為シタルトキハ行為者ヲ罰スル外法人又ハ人ニ対シ亦前条ノ罰金刑ヲ科ス
 附 則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
昭和二十年十月十二日以後本令施行前為サレタル第四条乃至第六条ノ規定ニ違反スル行為ニ相当スル行為ハ之ヲ無効トス
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レイブで出回るいろいろな薬物、MDMAや2C-B

2008/09/06 23:11
●レイブ薬物:参加者の男女7人を起訴−−大麻所持など /群馬
9月6日16時0分配信 毎日新聞
みなかみ町で8月中旬に開かれた「レイブ」と呼ばれる大規模な野外音楽パーティーの参加者が大麻取締法違反容疑などで相次ぎ逮捕された事件で、前橋地検は、会社員の容疑者ら7人を同罪や麻薬向精神薬取締法違反罪で前橋地裁に起訴した。起訴されたのは他に、20〜29歳の男女6人。
起訴状などによると、7人は8月17日、みなかみ町のキャンプ場で開かれたレイブで、大麻草や麻薬2C-Bを所持したり、合成麻薬MDMAを所持、使用した。(9月6日朝刊)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080906-00000129-mailo-l10

大麻のほかに合成麻薬のMDMAと2C−Bが押収されたとニュースが伝えています。最近では、聞きなれない名前の薬物が出回り、ときおり押収されています。
そこで、今日はMDMAや2C−B など、錠剤型として出回ることの多い合成麻薬について。

●MDMA
錠剤型麻薬を代表するもので、メタンフェタミンによく似た中枢神経興奮作用と、特有の幻覚作用をもつ麻薬です。
・呼び名は、MDMA、エクスタシー、バツ、タマ、マル
・3,4−メチレンジオキシメタンフェタミン
・麻薬及び向精神薬取締法で麻薬として規制、法令には「N・α-ジメチル−3・4−(メチレンジオキシ)フェネチルアミン(別名MDMA) 及びその塩類」として記載されています。
・主な作用は中枢神経興奮作用と幻覚作用
画像

写真はDEAフォトライブラリーより

●2C−B
2007年に麻薬として規制される前は、脱法ドラッグとして出回っていました。これも、錠剤として出回ることが多い合成麻薬です。メタンフェタミンに似た中枢神経興奮作用に加え、メスカリン(幻覚サボテンに含まれる成分)に似た強い幻覚作用があり、MDMAの5倍程度、メスカリンの35倍程度の幻覚作用があるといわれます。摂取後1時間以内に興奮が起こり、約2時間後には強烈な幻覚作用を引き起こすとされます。
・一般に2C−B(に・シー・ビーまたはトゥー・シー・ビー)と呼ばれる
・4−ブロモ−2,5−ジメトキシフェネチルアミン
・麻薬及び向精神薬取締法で麻薬として規制、法令には「4−ブロモ-2,5-ジメトキシフェネチルアミン及びその塩類」として記載されています。

なお、2C−Bとよく似た作用を持ち、同じころに脱法ドラッグとして出回っていた2−CT−2(2,5-ジメトキシ-4-エチルチオフェネチルアミン)も、同時に麻薬に指定され、規制されています。2−CT−2も、メスカリンににた幻覚作用を特徴とする薬物です。

2C−Bを麻薬に指定した際の厚生労働省の説明が下記にあります。
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1006/h0609-1.html
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営利目的ってどんなこと?

2008/09/05 23:01
●大麻取締法違反:栽培、密売容疑で2グループ14人逮捕 847グラム押収 /香川
県警組織犯罪対策課と高松北署は4日、今年2月5日から7月末までに、高松市や中讃、西讃方面で大麻草を栽培・密売していた男など2グループ計14人を大麻取締法違反容疑などで逮捕、計約847グラムの乾燥大麻と栽培器具などを押収したと発表した。4日までに14人全ての刑が確定している。
同課などによると、逮捕されたのは県内の25歳から32歳までの男女。小中学校の同級生や、丸亀市内のディスコなどで知り合ったという。うち、琴平町のパート従業員男性と会社員の男性は、同町内のアパートで4〜5年にわたり大麻草を栽培、営利目的で所持していた。
同課によると、県内では8月末までに、乾燥大麻約970グラムが押収され、27人が同法違反で検挙。検挙数も押収量も過去5年で最大という。(香川/9月5日朝刊)
9月5日17時2分配信 毎日新聞ニュースより
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080905-00000253-mailo-l37

上記の事件について、私はただニュースで知っただけで、詳しい事情は何もわかりません。でも、似たような事件をたくさん見てきましたので、私の見てきた、営利目的の大麻事件について、お話ししましょう。

「密売犯」というと、お金儲けのために誰にでも、どんな薬物でも見境いなく売りつける、不良外人や暴力団ふうの人を想像することが多いでしょうが、営利犯として起訴される被告人の中には、ときには、乱用の延長線上で、つい他人に売ってしまう若者も混じっています。とくに大麻の事件では、そんな被告人に会うことがあります。
海外への行き来が多い人や外国に友人がいる人などが、たまたま安く大麻を買うルートを見つけて、大量に密輸してしまった例。インターネットで外国の情報を読んで、大麻の栽培道具を買い揃えているうちに、栽培する量が増えてしまった例。手に入りにくい大麻を安く、大量に手に入れてしまえば、友人に自慢し、分けてあげたくなることでしょう。やがて、リスクを背負って手に入れたのだから、少し利益を乗せて売っても当然だと、考えてしまうこともありがちです。

薬物を自分で使うだけでも、その所持は罪になります。他人に分けてあげる行為は、薬物の害を広めることになり、さらに罪は重いとされます。さらに、利益を得るために他人に売れば、とくに重い罪に問われることになります。

大麻取締法をはじめ、薬物を規制する法律では、違反に対する罰則のなかに、営利目的加重処罰規定とよばれるものがありますが、これは、営利の目的である罪を犯した者に対しては、その目的のなかった者より重い刑が科されるというものです。たとえば、大麻の栽培や輸入罪では、単純犯に対する罰則は、7 年以下の懲役ですが、営利犯の場合は10 年以下の懲役、または「情状によって」10年以下の懲役及び300 万円以下の罰金(併科)と格段に重くなっています。

裁判において「営利の目的」とは、「犯人がみずから財産上の利益を得、又は第三者に得させることを動機・目的とする場合をいう」とされています(覚せい剤取締法違反事件につき、最高裁決定 昭和57 年6 月28 日 )。「営利の目的」というと、薬物の密売で生計をたてているような職業的な密売人や、犯罪組織による大がかりな犯行を思い浮かべることが多いでしょうが、裁判例としては、ひろく財産上の利益を得る目的があれば足り(麻薬取締法違反事件につき、東京高裁判決 昭和34 年11 月18 日)、職業としている必要はなく(覚せい剤取締法違反事件につき、東京高裁判決 昭和31 年11 月27 日)、1 回かぎりでも差し支えなく、また現実に利益を得たかどうかを問わない(麻薬取締法違反事件につき、東京高裁判決 昭和41 年9 月14 日)とする、たいへん厳しい判断が示されています。

薬物を使うことが「良いことだ」とまでは思わないにしろ、「それほど悪いことじゃない」、「誰にも迷惑をかけていない」などと感じている人が少なくないようです。薬物乱用を続けるうちに、しだいに付き合う友人も乱用者が中心になり、薬物乱用についての考え方が極めてあいまいになり、実に安直に密輸や栽培に手を染めてしまい、あげくは「営利目的の所持」として、格段に重い刑罰を受けることになるのです。

自分が薬物を使うことと,これを密輸したり,他人に売ったりすることの間には,本来大きな隔たりがあるはずです。興味本位で薬物を手に入れてしまう若者に、他人に売るということの責任の重大さを、何とかわかってほしいと願っています。
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薬物の簡易尿検査―補足

2008/09/04 23:13
簡易検査キットを使った尿検査の結果だけで、薬物使用の判定はできない―この1、2日の間、相撲協会の尿検査に関して問い合わせを受けるたびに、私が感じた危惧を伝えてきました。それが過度に伝わってしまったのでしょうか。今度は、あたかも簡易キットの信頼性に疑問があるかのような報道が目に付き始めました。
伝わらないもどかしさに、今日の私は少しいらだっています。

私はあくまで素人なのですが、専門家に教えを乞い、専門家の書いた本を読んで、勉強してきました。素人である私の理解している範囲で、もう一度、薬物の尿検査について整理してみます。
そもそも、私たちの周囲には無数の有機化合物があります。その中には、化学的な性質がよく似たものもあるでしょう。尿中に排泄されたごくわずかな成分を検査して、そこに薬物が含まれているかどうかを判定するのは、かなり大変なことなのです。

大麻の場合、尿中に大麻の代謝物デルタ‐9-THC-11‐カルボン酸があるかどうかを検査するのですが、検出された成分がデルタ‐9-THC-11‐カルボン酸であるかどうかを見極めることを「同定」といいます。

私の手元にある本の一節を引用します。
「たとえば、赤外線領域の物質の吸収スペクトルにはその化学構造に由来する特定の波長域の赤外線吸収があるため、物質の赤外線吸収スペクトルにはその化学構造を反映したパターンが現れる。(略)
ここにひとつの疑問が提起される。はたして地球上に無数に存在する化学物質のなかで、一見して見分けがつかないような類似したスペクトルを示す物質が他に存在することはないのであろうか。事実、類似した化学構造を持つ物質同士がきわめて類似したスペクトルを示すことがある。事実を証明するための鑑定においてこのような不確実な要素があってはならないのは当然であろう。このような物質の同定における不確実性を克服し、物質を確実に同定するための有効な対策は、一つの試料に対して、まったく原理の異なる分析方法を組み合わせて用いることである。つまり、今、2つの異なった方法で試料を分析したとする。これら2つの方法における過誤の確率が1万分の1であると仮定すると、2つの方法で同時に間違える確率は(1万分の1)×(1万分の1)=(1億分の1)となる。」
丸茂義輝「法化学」182頁、高取健彦編『捜査のための法科学―第2部<法工学・法化学>』令文社(2005)

刑事裁判やスポーツドーピングでは、分析の結果、禁止されている薬物が検出されれば、対象者に刑事罰や選手活動の制限など、深刻な制裁が科されることにつながるだけに、過誤の確率は、限りなく低いものでなければならないのです。
そのために、原理のまったく違う方法による2種類以上の分析を行い、すべての試験で陽性となった場合に限り、鑑定結果が陽性となるのです。分析試験の1つでも結果が陰性であれば、鑑定結果は陰性とするのがルールです。また、選択する分析方法のうち、少なくとも1種類は、物質の分子構造を反映する精度の高い試験を行うことも、強く推奨されています。

実際、刑事裁判のために尿中の薬物を鑑定する場合には、呈色試験、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量分析など、複数の分析試験が行われ、精密機器を使った高度な分析が必ず含まれています。国際競技大会などのスポーツドーピングでは、さらに高度な分析が行われていると聞きました。

このように、薬物の同定とは、結構大変なものなのです。簡易キットを使った検査だけでは、判断できないということなのです。これは、あくまでも、多数の試料を一次選別するためのスクリーニング検査です。そのために、簡便で、ちょっと訓練をすれば誰でも使えるよう工夫されています。
この段階で陽性を示したということは、「さらに精密な検査を要する」という意味を示しています。結論は、専門家が行う分析試験の結果を待たなければ、誰にもわからないのです。
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大相撲の簡易尿検査、くれぐれも慎重に

2008/09/02 22:17
●関取に抜き打ち尿検査=大麻事件で相撲協会 
日本相撲協会は2日、元幕内若ノ鵬が大麻取締法違反容疑で逮捕、解雇された事件を受け、十両以上の関取に対して抜き打ちの尿検査を行った。検査は同日、幕内と十両の力士が参加する力士会の後で実施。簡易検査だったが、若ノ鵬と同じロシア出身で交友関係のあった露鵬、白露山は引き続き詳しい検査を行ったという。
(時事通信ニュース・2008/09/02-18:30より)
http://www.jiji.com/jc/c?g=spo_30&k=2008090200808

近年、多様な簡易検査キットが供給されるようになったため、薬物使用の簡便な検査法として、簡易キットによる尿検査を行うことが可能になっています。刑事司法関連の分野では、こうした簡易キットでの検査を行うケースが増えてきています。まず薬物犯罪のスクリーニング。警察では、薬物使用が疑われる被疑者に対して尿の任意提出を求めますが、提出された尿の一部を使ってその場で簡易尿検査を行う場合があります。また、保護観察所では、覚せい剤で受刑した人たちを対象に、仮釈放中に任意で定期的に簡易尿検査を受けるプログラムが実施されています。
大相撲では、ずいぶん性急に尿検査が実施されたようですが、導入に当って、十分な準備ができたのか、少しばかり気になっています。

簡易キットを使った薬物使用の尿検査で、必ず踏まえておかなければならないチェックポイントを挙げてみましょう。
●キットによる簡易検査の限界
市販のキットを使っての簡易検査は、あくまでも予備的な検査方法です。類似の化学構造をもつ風邪薬や向精神薬の一部に対して擬似陽性反応を示すこともあり、わずかながら誤差もあります。簡易キットでの検査で陽性反応が出た場合は、キットを変えて(別な種類のキットで)再検査するよう手順を決めている場合もあります。陽性を示した場合は、正式な検査をしたうえで、結果を判断するのは、基本中の基本です。簡易キットでの結果では判断できません。
●薬物によっては体内にとどまる時間が長い
尿検査は、最近の薬物使用を検査するものです。ところが、薬物によっては摂取した後比較的長期間体内にとどまり、ゆっくり排泄されるものがあります。大麻は、体内の脂肪組織に吸収され、長期間尿に排泄されることがあります。
●対象者の同意確認は慎重に
尿検査は個人のプライバシーを極度に侵害しかねない行為です。警察が犯罪捜査のなかで行う場合や、保護監察官が保護観察対象者への指導のなかで行う場合でも、あくまでも本人の同意を得て、適正な方法で尿を採取し検査を行うよう、説明や同意確認の手順なども細かく定め、実施者の訓練をしたうえでやっているのです。本人の同意なしに行うことができるのは、令状に基づいて行う強制処分だけです。
●キットの扱いには訓練が必要
現在市販されている各種キットの大半は、一見するとよく似たもので、窓部分に現れるバンドで尿中の覚せい剤を判定するのですが、判定の方法がキットごとに違い、慣れない者にとってはミスが起きやすいという問題があるように思います。
実際、こうした手順に慣れているはずの警察で、簡易キットの判定を見誤って、誤認逮捕してしまったという例がありました。
《覚せい剤鑑定でミスし誤認逮捕》2007年10月30日 福岡県警
福岡県警朝倉署は、覚せい剤使用を調べる簡易鑑定の結果を「陽性」と見誤り、無職男性を覚せい剤取締法違反容疑(使用)で誤認逮捕し、釈放したと発表した。
同容疑で男性宅を家宅捜索した際、注射器などを発見。男性の左腕にも注射痕が見つかったため任意同行を求め、同署で簡易鑑定を実施。この鑑定では尿を付着させた試験紙の上に浮き上がる線の本数によって陽陰性を判断するが、捜査員が線を1本数え間違えて、「陽性」と見誤った。男性も「3、4日前に覚せい剤を使用した」と認めたため、同署は男性を緊急逮捕。しかし科学捜査研究所による正式鑑定の結果「陰性」と判明した。
(2007/10/30付 西日本新聞朝刊より)

そういえば、自衛隊で薬物問題が相次いだ2005年、抜き打ち尿検査の導入が検討されたことがありました。
●自衛官に尿検査導入へ薬物事件で防衛庁検討
防衛庁は海上自衛隊横須賀基地の自衛官らによる薬物事件を受け、陸海空3自衛隊に、入隊後の尿検査を導入する方向で検討を始めた。庁内に設置した「薬物問題対策検討会議」(議長・今津寛副長官)が公表した再発防止のための中間報告に盛り込んだ。導入されれば、対象者は20数万人となる。防衛庁は今後、同意を得た上での任意検査か強制的に実施するかを詰める。
(共同通信2005年10月27日配信ニュースより抜粋)
http://www.47news.jp/CN/200510/CN2005102701001541.html

その後、2006年2月に公表された最終報告書では、尿検査は次のようになっています。
薬物検査(尿検査)制度について
1 目的
○ 薬物乱用を未然に防止すること等により、厳正な規律を保持する。
2 薬物検査の実施体制
○ 各幕僚長の下、検査実施に必要な要員を指定して実施する。
3 検査対象者の選定
○ 次のいずれかの方法により幕僚長が検査対象者を選定する。
(1) 無作為に抽出した隊員を個々に選定する方法
(2) 無作為又は有意に抽出した部隊等に属する隊員全員を選定する方法
(3) 上記を組み合わせた方法
(4)その他幕僚長が特に必要と認める方法
4 検査の実施
○ 検査の実効性を確保するため、検査対象者への告知は、原則として薬物検査の実施日に行う。
○ 検査の実施に先立ち、書面により検査対象者の同意を得る。
○ 尿検査キットにより検査を実施し、必要に応じて再検査等を行う。
○ 薬物乱用の疑いが認められた場合には捜査機関への通報等を行う。
防衛庁「薬物問題対策検討会議における検討結果について―最終的なとりまとめ―」平成18年2月15日 http://www.mod.go.jp/j/library/archives/yakubutu/yakubutu.pdf

簡易キットを使っての尿検査、手軽そうに見えても、そこにはいろいろな問題が含まれています。どうか慎重に、と私は今日のニュースをみて、何度も思いました。
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執行猶予中の再犯―大麻取締法違反

2008/09/01 23:09
私は最近、大麻取締法違反事件について、刑事弁護専門雑誌の連載記事を書くために、最近の薬物事件の資料を整理していました。
薬物事件の大半は、末端の乱用者が覚せい剤や大麻、麻薬などの薬物を所持したり、使用して、法律違反に問われたものです。薬物規制法規別にみると、検挙人員がもっとも多いのは覚せい剤取締法違反、2007年では12,000人ほどが検挙されました。
第2位は大麻取締法違反で約2,200人。毒物及び劇物取締法違反(シンナー等有機溶剤事犯)の検挙・補導人員は年々減少していて、2007年では約1800人でした。麻薬及び向精神薬取締法違反での検挙人員は意外に少なく、470人ほどです。(数字は警察庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課編『平成19年中の薬物・銃器情勢』警察庁(2008)による)

さて、第2位の大麻事犯ですが、覚せい剤事犯と対照的な特徴がいくつかあります。
●検挙人員の約70%が少年及び20歳代
大麻取締法違反事件の被告人には、若者が多く、年配者はごくわずかです。2007年に検挙された大麻事犯のうち、少年及び20歳代の若年層が占める割合が69.1%と高くなっています 。とくに、少量の大麻の単純所持事案では、被疑者のほとんどが若年の初犯者という状況です。
●検挙人員の約87%が初犯者
逆に言えば、再犯者が少ないということになります。覚せい剤取締法違反事件の被告人は再犯者が多く、覚せい剤事犯だけを7回、8回と繰り返してきた被告人や、執行猶予付き判決を言い渡されたのに、執行猶予期間中に再犯してしまった例も珍しくありません。薬物事件では、私たち弁護人だけでなく、検察官も裁判官も、再犯防止を念頭に裁判に臨むことになります。
ところが、大麻事件を繰り返してきた被告人には、ほとんど出会いません。あらてめて考えてみると、大麻事件で執行猶予付き判決を受け、猶予期間中に再び大麻で再犯した例は、あまり記憶に残っていないのです。私が手がけてきた過去5年間の裁判データを探して、たった1件見つけました。40歳代の暴力団構成員による大麻所持の事案。3年前に大麻所持で4年間の執行猶予付判決を受け、執行猶予期間中の3年目に同種再犯したという内容です。暴力団構成員という立場から、薬物に近づきやすい環境だったのでしょうか。
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執行猶予中の再犯と執行猶予の取消し

2008/08/29 22:55
●元会長に実刑判決=猶予中に覚せい剤−東京地裁 
覚せい剤を使用したなどとして、覚せい剤取締法違反罪に問われた大手文具メーカーの元会長の判決公判が29日、東京地裁であり、角田正紀裁判官は懲役1年4月(求刑懲役2年)の実刑を言い渡した。
被告は昨年10月、同罪などで有罪判決を受け、執行猶予中だった。角田裁判官は「わずか半年余りで犯行に及んだ。依存性は根深く、再度の執行猶予を選択する余地はない」と批判した。
時事通信(2008/08/29-12:43)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2008082900132

この被告人は、07年11月、同法違反で懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決を受け確定していたといいます。執行猶予期間中の再犯ですから、以前言渡された執行猶予は、取り消されることになります。
刑法26条1号は「猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき」は、「刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。」と定めています。つまり、執行猶予期間中に新たな懲役刑または禁固刑が確定したときには、当然、執行猶予の取消し手続が開始され、前に言渡された懲役刑を実際に受けることになるのです。
このニュースの被告人の場合は、07年に言渡された懲役2年6月と、今回言渡された懲役1年4月、合計で3年10月という期間になるわけです。

初犯のときは、意外にあっさりと執行猶予付き判決を受けることができたのに、猶予期間中の再犯となると、そのツケが、2回分の懲役刑としてどーんと投げ返されてきます。そこで、被告人たちは、あれこれ知恵をしぼるわけです。いちばんポピュラーなのが「何とかもう1度だけ執行猶予に」と希望を託すタイプ。被告人たちはこれを「ダブル執行」と呼ぶようですが、刑法の規定に「再度の執行猶予」というのが、ちゃんとあります。
ところが、薬物乱用事件の場合、これがとても高いハードルなのです。再度の執行猶予は、1年以下の懲役または禁固の場合に限って、情状に特に酌量すべき点があるとき、につけることができるとされています。犯罪容によっては、再度の執行猶予が期待できることもあるのです。ところが薬物事件では、よほど特別な事情がなければ、再度の執行猶予が実現することは、望み薄です。少量の覚せい剤所持のような事案でも、1年以下の懲役というのはめったになく、再度の執行猶予の条件を満たすことが極めて困難なのです。

猶予期間があと少しで満了するという時点で再犯してしまった場合は、被告人も弁護人も、裁判の確定までの時間計算に真剣になります。たとえ新たな裁判が進行していても、執行猶予期間は中断されないので、新たな刑が確定する前に期間が満了することもあるのです。この場合は、前に言渡された執行猶予が取り消されることはありません。
ところが、時間計算に神経を尖らせているのは、検察官も同じです。期限切迫事案として、優先的に進行させるべく体制を整えているのです。被告人の利益を考える弁護人と、公益を代表して処罰を求める検察官が、進行をめぐって攻防を展開することになります。
「先生、なんとか裁判を引き伸ばしてもらえませんか」と、あれこれ戦術を考える被告人もいますが、私としては、無理な訴訟遅延に加担するわけにはいきません。「あなたの利益を守ってあげたい。ただし、まっとうなやり方の範囲でね。あなたのために弁護士資格を危うくするわけにはいかない。」そんなことばで接見の幕を閉じることもあります。
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平成20年版警察白書を読む―取調べの可視化

2008/08/29 00:28
平成19年には、私たち刑事司法に携わる者にとって、衝撃的な無罪事件が相次ぎました。まず、2月には、鹿児島県で公職選挙法違反に問われた被告人12人全員に無罪が言い渡された、志布志事件の判決。さらに10月には、富山県で平成14年の発生した強姦及び強姦未遂事件(氷見事件)で、すでに服役を終えた元被告人に対する再審無罪判決。
私が「冤罪事件」としてすぐに思い浮かべるのは、戦後の混乱期に、ずさんな見込み捜査と強引な自白の強要によって作り上げたといわれている、過去の有名事件の数々です。現に私が仕事をしている今の日本で、志布志事件のような捜査が行われ、冤罪が生まれていることを知ったとき、ことばを失ったものです。

こうした捜査を生み出してしまう背景には、犯罪捜査においてもっとも重要視されている供述調書が、被疑者と捜査官だけの密室で作成されているという現実があり、これが冤罪の温床になっていることは、繰り返し指摘され、取調べの過程を録画・録音することが提言されてきました。その議論が続いているなかでの、志布志事件と氷見事件だったのです。
「取調べの可視化」についての意見書2003年7月14日 日本弁護士連合会
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/2003_31.html
日弁連が取り組む重要課題 取調べの可視化(取調べの全過程の録画)実現
http://www.nichibenren.or.jp/ja/special_theme/investigation.html

この点に対して、警察白書は「特集:変革続ける刑事警察」のなかで、24〜27ページで「取調べの適正化」として触れています。ただし、録音録画については、「コラム2 警察における取調べの一部録音・録画」としてごく簡単に述べているだけです。
「公判で自白の任意性が争点となるおそれがあるものを選定し、」「捜査が一定程度進展した時点で、犯行の概略と核心部分について供述調書の録取内容を被疑者に対して読み聞かせ、閲覧させ、署名及び押印又は指印を求めている状況等を録音・録画することとしている。」警察庁編『平成20年警察白書』24頁、ぎょうせい(2008)

これでは、可視化の意味がないではありませんか。密室の壁を取り払う録画・録音、今やらないでどうします?
民主党提出の取調べの録画・録音による可視化法案(2007年12月)
http://www.dpj.or.jp/news/?num=12315
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平成20年警察白書を読む

2008/08/27 23:16
今年の警察白書が刊行されました。もう少しすると、インターネットでも公開されますが、現在は書籍の形で販売されています。
参考までに、インターネットで読む警察白書は警察庁ホームページ内。平成19年版までが公開されています。
http://www.npa.go.jp/hakusyo/index.htm

警察庁編『平成20年警察白書』ぎょうせい(2008)
[目次]
特集 変革を続ける刑事警察
第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動
第2章 組織犯罪対策の推進
第3章 安全かつ快適な交通の確保
第4章 公安の維持と災害対策
第5章 公安委員会制度と警察活動の支え
画像

薬物犯罪対策については、第2章第2節「薬物銃器対策」の項にあります。ここで取り上げているデータは、当ブログで何度か紹介し、引用している、警察庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課編『平成19年中の薬物・銃器情勢』とほぼ共通しています。
平成19年では、引き続き覚せい剤事犯の検挙人員が減少、押収量も低水準が続いています。とはいえ、依然としてわが国で乱用される薬物を代表するのが覚せい剤で、薬物事犯の検挙人員の81.2%を覚せい剤事犯が占めています。
いっぽう、じわじわと伸びているのが大麻とMDMA。大麻事犯の検挙人員が増加傾向を示し、平成19年には過去最高のMDMAが押収されました。
シンナー等有機溶剤は昨年よりもさらに減少し、平成19年では検挙人員が2000人を割り込みました。(112〜113ページ)

実は、ここ数年の薬物情勢はあまり変化していません。大まかな流れは、インターネットで公開されている平成19年版とそれほど違っていないようです。
平成20年版で私が注目したのは、たぶん、警察関係の出版物では初めて、大麻の室内栽培の写真が掲載されたこと。当ブログで連載したように、ここ数年来、大麻の栽培に大きな変化がみられます。市販されている大麻の種子と、水耕栽培などによる室内栽培の拡大です。いま拡大している室内栽培は、従来の窓辺やベランダでの栽培とはまったく異質なもので、私は、これを視覚的に伝える写真を探していましたが、日本の取締機関が掲載している写真を見つけることができませんでした。それが、やっと出てきたわけです。
こうしたケースでは、ビジュアルな情報がとても大切だと、私は考えています。こんな栽培が行われていると視覚的に伝えることで、社会の目を育てることを怠ってはなりません。
大麻問題に関しては、取り締まりに先行して、社会の目や関心を育てて、若者の逸脱行為に歯止めをかけることを重視したいと思います。
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有名人にとっては、薬物事件はとくに辛口

2008/08/27 00:23
たまたま、いま私が読んでいる国連の麻薬統制委員会の報告書のなかに、こんな文章がありました。
●有名人の薬物事犯者
「今日では、これまで以上に、多くの人々がメディアを通じて、スポーツや、エンターテインメント業界またはアートの世界でよく知られた有名人のふるまいをまねている。一般に、ふるまいが劇的なほど、メディアや大衆の歓心をひきつけ、その人の流儀はより印象的なものとなる。
そのような有名人が違法医薬品を使用するとき、彼らは法を犯していることになる。当局がこのケースにどう対応するかによっては、メディアのレポートや、それに関連したインターネットのチャットは、司法制度が、有名人であることによって、墓の人より寛大に扱ったという理解を反映したり、あるいは生み出したりする。
有名人の薬物事犯者は、一般大衆の薬物乱用に対する態度や、価値観、およびふるまいに、深く影響を及ぼすことがあり、特に、まだ薬物問題に関する十分な知識や、見解が確立していない若年層ではそれが顕著である。
有名人の薬物事犯にかかわるケースは、とりわけ、一般人の犯罪の場合と、同等あるいは多少厳しい対応がなされるならば、司法制度の公正さや、公平さについて、一般大衆に深く影響を及ぼすことができる。」

最近、有名人の薬物事件が続いています。私は刑事罰の効果を「みせしめ」と「こらしめ」と説明するのですが、たしかに、有名タレントが逮捕されたような事件では、その裁判は大きな「みせしめ」効果を持っています。みせしめ、あるいは一罰百戒、専門用語でいうと一般予防効果ということになります。
華やかな世界にいたタレントが、薬物を持っていたことで逮捕され、勾留され、裁判を受ける、その全過程がメディアで繰り返し報じられることで、薬物を持ったり、使ったりすることは犯罪なのだという強いメッセージを国中に送ることになるわけです。
わが国の裁判では、有名人は、名もない庶民と比べて、むしろ厳しく扱われています。タレントに限らず、一流企業の社員、一流大学の学生、有名チームの運動選手、公務員といった人たちの場合は、とかく「一般への影響」を考慮して、より強く非難され、ときには実名まで報道されることになります。有名人や一流であることは、ときには辛いものです。

ところで、上で引用した文章は、INCBの2007年報告書の一部で、実はとても硬い文書なのです。国連麻薬統制委員会International Narcotics Control Board(INCB)は、毎年の報告書を発行していますが、その冒頭部分には、年度ごとに特定のテーマが掲げられ、国際的な、あるいは各国での薬物統制政策に対する委員会の提言がまとめられています。
2007年10月の第90回会議でのテーマは、「公平性の原則と薬物関連犯罪」というもので、国ごとに極めて多様な薬物関連犯罪に対する国内法による対応について、委員会の提言を60項目にわたってまとめたものです。
犯罪に対する対応は、国ごとに実に多様です。この多様さをどのような方向でまとめようとしているのか、興味をもって、私はいま2007年の年次報告書を読んでいるところです。
面白いテーマなので、機会があればこのブログでも簡単に紹介してみたいと思います。
Report of the International Narcotics Control Board for 2007
第1章 公平性の原則と薬物関連犯罪The principle of proportionality and drug-related offences
http://www.incb.org/incb/en/annual-report-2007.html
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平成20年上半期の薬物情勢が発表されています

2008/08/23 23:42
警察庁がまとめるわが国の薬物情勢の年次報告書、平成20年上半期版が発表されています。
警察庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課編「平成20 年上半期の薬物・銃器情勢」
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu3/h20a_jyousei_yakuzyuu.pdf
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全体的には、ここ数年来の傾向が引き続きみてとれます。
覚せい剤は引き続き減少傾向
覚せい剤事犯の検挙人員は増加していますが、依然として押収量が少なく、末端での密売価格も高値が続いていることから、当面は市場が急激に拡大することはなさそうです。
・覚せい剤事犯として検挙される人たちの中心は、30歳代と40歳代。
・未成年と20歳代の青少年層は、合計で全体の約4分の1。
・検挙人員のうち初犯者は半分弱(44.2%)。
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(クリックでグラフを拡大)
グラフは、警察庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課編「平成20 年上半期の薬物・銃器情勢」7頁掲載のデータに基づいて私が作成したものです。


大麻事犯の検挙人員は、過去最高の水準
覚せい剤の減少傾向を埋め合わせるかのように、拡大を示しているのが大麻です。検挙人員は引き続き過去最高水準、しかも検挙される人の過半数(65%)が青少年層であることなど、大麻市場が拡大しているのではないかと考えられる兆候が目に付きます。
・覚せい剤事犯として検挙される人たちの中心は、20歳代。
・未成年と20歳代の青少年層が、全体の65%を占める。
・検挙人員の大半(85.4%)が初犯者。
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(クリックでグラフを拡大)
グラフは、警察庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課編「平成20 年上半期の薬物・銃器情勢」8頁掲載のデータに基づいて私が作成したものです。
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大学生にも薬物教育―薬物乱用防止新第三次五か年戦略

2008/08/22 21:44
●薬物乱用対策で新5か年戦略
政府の「薬物乱用対策推進本部」は、大麻などの薬物を未成年が使用して検挙されるケースが目立つことから、学校と協力して薬物の危険性を教える対象を、現在の中高生から大学生にまで広げることなどを盛り込んだ新たな5か年戦略を決めました。
総理大臣官邸で開かれた22日の会合で、最初に内閣府の担当者がMDMAという錠剤型の合成麻薬などを使用して検挙された人のうち、最近は未成年が目立っており、対策の強化が求められていることを報告しました。そして、推進本部としてこれまで行ってきた取締りの強化などに加えて、学校と協力して薬物の危険性を教える対象を、現在の中高生から大学生にまで広げて啓発活動を強化すること、薬物に再び手を染めるケースを防ぐため民間団体とのネットワークを整備することや、治療技術の研究を進めることなどを盛り込んだ新たな5か年戦略を決めました。これを受けて、福田総理大臣は「薬物の乱用は依然として深刻な問題であり、効果的な防止や根絶に向けて政府として取り組むことが重要だ」と述べ、政府一体となった取り組みを指示しました。
NHKニュース  http://www.nhk.or.jp/news/k10013646751000.html

現在、わが国の薬物乱用状況はかなり改善しています。その理由を簡単に言うと、覚せい剤が入ってこないから。もともと、わが国で乱用される薬物の中心は覚せい剤で、出回る量も際立って多いのですが、その覚せい剤が不足気味の状況が続き、末端での密売価格が高騰しているために、自然に乱用も沈静化しているというわけです。
でも、その裏側で、じわじわと勢力を伸ばしているのが大麻やMDMAなど。ちょうど覚せい剤での検挙者が減少し始めた平成13年ころから、大麻と麻薬での検挙者が増加しているのです。不足する覚せい剤を補うようなかたちで、大麻やMDMAの流通量が増えていることが推測されます。

大麻やMDMAでの検挙者の中心は、若者です。20歳代と未成年が大麻事犯の7割近くを占め、MDMAでは6割強を占めています。つまり、大学生の年代が、こうした薬物の乱用世代に最も近いわけです。
この世代に乱用防止教育をするとなると、誇張や脅しは通用しません。この機会に、若者に教えるべき内容や方法を徹底的に考えてほしいと思います。いえ、当事者任せにするのではなく、私たち部外者も考えたり、検討したり、批判したりしながら、防止教育作りを見守っていきたいものです。
皆様もウォッチングをお願いします。
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大相撲大麻問題とスポーツドーピング

2008/08/21 22:50
幕内力士の大麻所持問題がニュースを賑わしています。人気力士が、大麻取締法違反という犯罪行為に関わったのだから、もちろん、問題です。
でも、それだけではない。もうひとつ、プロのスポーツ選手のドーピングにからむ問題でもあるわけです。もっとも、彼が競技期間中に大麻を使っていたかどうかはわかりませんが。
ところが、このタイミングで、なぜか相撲協会はドーピング検査導入の先送りを決めたというニュースがありました。
9月の秋場所では実施せず 大相撲のドーピング検査-
日本相撲協会は20日に開いた理事会で、9月の秋場所で試験的に実施する予定だったドーピング検査について、同場所中には行わないことを決めた。実施時期は場所と場所との間となり、年内を予定している。
伊勢ノ海委員長(元関脇藤ノ川)は「場所中の検査はいろんな問題があるから、準備に相当な時間がかかるだろう」と説明した。
また同委員長は検査方法について、世界反ドーピング機関(WADA)基準の適用は「難しい。禁止薬物もWADA基準にするかどうか(あらためて)考えたい」と話した。相撲協会は来年からドーピング検査の本格導入を目指している。
08/07/20 | 共同通信配信NEWS
http://mediajam.info/topic/561572

スポーツでのドーピング禁止薬といえば、競技の成果に影響を与える興奮系薬物や、ステロイド剤などのイメージが強いのですが、社会全体で禁止され、また選手自身の健康に影響を及ぼす麻薬類なども、競技会での禁止薬物に指定されています。

(財)日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は、ドーピングを禁止する理由を次のように説明しています。
1、スポーツ固有の価値を損なう
スポーツは人々の生活に潤いを与え、人々が人間の素晴らしさを感じることができる非常に価値ある文化です。しかし、ドーピングはスポーツと私たちの関わり全てを欺く行為であり、スポーツの価値、そして存在意義そのものを根底から破壊するものです。
2、不誠実(アンフェア)
スポーツは、同じルール、同じ条件のもとで競い合うからこそ感動が生まれます。ドーピングは、スポーツにおいてもっとも重要な公平さを根本から否定する不誠実(アンフェア)な行為です。
3、社会悪である
トップアスリートが、社会や青少年に与える影響力は非常に大きなものです。トップアスリートがドーピングを行うことにより、影響を受けた青少年がドーピングに手を染めてしまう、またスポーツに関係のない人々へ健康被害や倫理観の欠如といった問題を引き起こしてしまいます。
4、競技者自身の健康を害する
ドーピングに使用される物質は、もともと病気の治療目的で開発されたものが多く、使用頻度、使用量により身体へ多大な副作用を引き起こしてしまいます。
ドーピングQ&A 日本アンチ・ドーピング機構ホームページより
http://www.anti-doping.or.jp/qa/index.html

ちなみに、「競技会検査で禁止対象となる物質・方法」には、S8として「カンナビノイド」があげられ、「カンナビノイド(ハシシュ、マリファナ等)は禁止される。」と記載されています。(上記ホームページ掲載の「2008年禁止表」)
ここでいうカンナビノイドとは大麻特有の化学物質のことで、大麻の精神作用の中心といわれるテトラヒドロカンナビノール(THC)や、カンナビノール(CBN)などを総称した呼び方です。つまり、競技会でのドーピング検査で、大麻成分が検出されると、再度の検査や聴聞会などの手続きを経た上で、ドーピング規則違反として記録の剥奪や出場停止などの制裁が科されることになるのです。
折から、オリンピックでは厳重なドーピング管理がされています。世界的にアンチ・ドーピングの流れが加速しているなかで、プロ・スポーツにもドーピング規定の導入が検討されているとか。相撲協会の皆さん、今こそアンチ・ドーピングに取り組む時期ではありませんか。
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薬物前科と海外渡航<オーストラリア・続き>

2008/08/20 22:49
彼がオーストラリアのビザを取ろうと考え始めたとき、まず、留学やワーキングホリデーを取り扱っている業者を何社か調べて問い合わせ、その中でよさそうな業者を選んで、訪問してみたそうです。担当者に、薬物事件で前科があることなどの事情を話し、突っ込んだ相談をすることにしました。業者の話では、短期の語学留学で現地に入国して、その後永住ビザの申請を現地からするのが最善ではないかということでした。留学の費用は思ったより高く、驚いたそうです。

その後、執行猶予期間が満了した後、実際に大使館に足を運んでみました。担当窓口で事情を話し、相談すると、以前留学あっせん業者さんが言ったように、簡単にいくわけではないと、次第にわかってきました。彼は、オーストラリア人の弁護士を探してみましたが、日本にいるオーストラリア人の弁護士をみつけることができず、友人に探してもらったオーストラリアの弁護士にメールと電話で相談しながら手続きを進めました。

最初は、観光ビザの申請です。観光ビザの申請で使ったのは、パスポート、写真、銀行の残高証明、裁判の謄本(検察庁で謄本をもらいました)と翻訳、犯罪経歴書。犯罪経歴書は、大使館からの照会文書を持参して、県警本部で申請し、2週間くらいで受け取りました。
弁護士の勧めで、旅行の日程表(英文でかなり細かく書きました)と、旅行の目的について彼自身が書いた簡単なレポートと、英訳を添えて提出しました。彼の今後の仕事にどうしても必要な相手に会うこと、必ず日本に戻る理由(仕事があり会社に戻らなければいけない。またアパートの契約があって家賃など支払う義務がある事など。)。また、事件後更生に向かってした事、現在は他の人と違わない普通の生活をしていることなどを一枚の手紙を提出しました。ほかに銀行の残高証明も用意しました。

何度も大使館に足を運び、オーストラリアの弁護士にメールを出し、あちこちで証明書を集め、具体的に準備に取り掛かってから、半年近くかけて、ようやく観光ビザを受け取ることができました。なれない手続きと英語でのやり取りに神経を使い、相当な時間もかけました。でも、あくまでも正当な方法でビザの発給を受けることができたそうです。

彼が受けた観光ビザは1年間有効です。その間に、永住できるビザを申請するための準備を始めるということです。弁護士の助言で、準備しているのは、年金(社会保険事務所)と失業保険(ハローワーク)の納付記録、卒業した学校の卒業証書・賞状・取得免許など。
事件後、きちんと仕事を続けてきた彼にとって、いざ必要なときには、各種証明書をそろえることができたのが幸いでした。
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薬物前科と海外渡航<オーストラリア>

2008/08/19 21:34
薬物事犯として有罪判決を受けた若者が、その後の人生でよく出会う難関のひとつが、海外渡航に関する制限です。
まず、執行猶予中の人、仮釈放中の人が新しくパスポートを取得する場合は、事前に個別審査を受けなくてはなりません。渡航目的がはっきりしているケースでは、手続きに時間はかかりますが、パスポートの発給を受けている例が多いようです。執行猶予期間や仮釈放期間を無事に満了すれば、パスポートを取得するのに、制限を受けることはありません。

問題は、相手国への入国審査です。国によっては、犯罪歴のある人の入国に対して、厳しい制限を設けている場合があるのです。
日本のパスポートを持つ人は、短期の観光旅行では、多くの国でビザなし渡航が認められています。事前にビザを取ることなしに、簡単な入国審査を受けるだけで入国することができる制度で、一般的な海外旅行ではほとんどの人が、このビザ免除制度を利用します。
ところが、アメリカ合衆国では、犯罪歴のある人には、ビザ免除制度を利用して入国することを認めていないのです。犯罪に関わって逮捕された経歴のある人は、事前にビザを申請しなくてはなりません。
またオーストラリアにはビザ免除制度がなく、観光旅行でも事前にビザを取ることになりますが、ビザ申請の際に必ず確認されるのが、犯罪歴の有無。犯罪歴のある人の場合は、短期のビザを得るにもさまざまな手続きが必要です。

今日、私はある若者からうれしい報告を受け取りました。彼は、薬物犯罪で執行猶予付き判決を受け、去年、執行猶予期間を満了しました。仕事でオーストラリアに行く必要ができ、数ヶ月前から時間をかけてビザをとり、無事に1回目の渡航を終えて帰国したそうです。
判決を受けたころ、彼は外国で暮らすことなど考えていませんでした。しかし、その後の数年で出会いに恵まれ、オーストラリアで働くチャンスが生まれたのです。今では、将来的には永住ビザをとり、オーストラリアでずっと暮らすかもしれないと考えています。

渡航手続きを始めたころ、会う人ごとにいろいろな助言を受けました。なかには、「隠しておけばわからない」と勧めるひともあったそうです。でも、手続きをごまかして入国すれば、常に不正な入国手続きが露見するリスクがつきまといます。永住することも考えている彼には、最初の段階でのちょっとした不正も、将来大きな障害になるかもしれません。面倒でも、正規の手続きをしてビザを取るのが、彼の決めた方針でした。
用意した資料は、戸籍謄本など通常の証明書類のほかに、犯罪歴の証明書、事件の記録など。オーストラリアの弁護士にメールと電話で相談しながら進めてきました。
ようやく発給されたビザで入国するときには、どきどきしたといいます。ビザを受けた際に言われたとおり、入国に当って提出する申告カードには、犯罪歴の項目に正しく記入しました。そのカードを受け取った係員は「おや?」という目を彼に向けたものの、何事もなく入国し、旅行して戻ることができたそうです。

彼はいま、すでに次の段階の長期ビザの準備を始めています。そのために、オーストラリアの銀行に預金口座を開いたり、住まいを探したり、着々と準備をしています。相談しているオーストラリアの弁護士によれば、希望がかなう日は意外に近いということです。
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夏休みとダンスとドラッグ

2008/08/18 22:28
●屋外音楽イベントで麻薬・大麻の使用や所持、男女8人逮捕…群馬
群馬県警は17日、同県みなかみ町で開かれた屋外音楽イベントに参加した男女8人を麻薬取締法違反(使用、所持)や大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕した。発表によると、逮捕されたのは群馬県と千葉県の40〜17歳の会社員ら。8人は16日夜から17日朝にかけて開かれた、「レイブ」と呼ばれるダンス音楽を楽しむイベントで、合成麻薬のMDMAを使ったり、乾燥大麻を所持したりした疑い。
県警幹部によると、「参加者の一部が薬物を使用している」との情報が事前に寄せられ、捜査していた。イベントには約400人が参加していた。
[8月17日20時59分配信 読売新聞]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080817-00000042-yom-soci

毎年、夏休みになるとこんなニュースが伝えられます。
MDMA(エクスタシー)は、ダンスや音楽イベントと密接に関係しながら広まってきました。とくに夏場にアウトドアで行われる音楽イベント、ダンスや野外パーティなどでは、MDMAなどのドラッグを持参する若者がいたり、ときには会場に密売人が出入りしているという話も聞きます。

MDMA(エクスタシー)として出回っているのは、カラフルな錠剤型の薬物です。無害そうにみえる小粒の錠剤ですが、その中身は、合成麻薬や覚せい剤など。数種類の薬物の混合錠剤や、1錠中に平均的な使用量よりはるかに大量の薬物を含むものなど、危険なタイプもみつかっています。
錠剤の主成分は、MDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)という合成麻薬で、覚せい剤と似た中枢神経興奮作用と独特の幻覚作用があります。中枢神経興奮作用によって、激しいダンスを続けても疲れを感じることなく、盛り上がることができ、また、特有の幻覚作用によって音楽に対して敏感になったり、他人と打ち解けた気分になることから、音楽やダンスを楽しむ場面で若者に広まってきたのです。

欧米の若者にMDMAが広がるとともに、ショッキングなニュースが伝えられ始めました。MDMAを使って踊っていた若者の中に、脳に障害を負ったり、死亡したりする事故が相次いだのです。MDMAには、体温を上昇させ、血圧をあげる作用があり、これを摂取して激しいダンスを長時間続けることで、高体温になり、死亡する例もあります。アルコールと併用すると、危険性はさらに高まります。その予防のため、水分を補給することが有効だとされますが、ところが、水分の取りすぎによって低ナトリウム血症を起こす危険もあるといいます。
急性症状による危険だけではありません。MDMA使用によって、睡眠障害、気分の障害、不安障害、衝動性の亢進、記憶障害、注意集中困難などが長期にわたって続くことがあります。

MDMAに関する重大な事故の多くは、熱狂したイベントやダンスの場で起きています。興奮状態のなかで、数時間おきに何度も錠剤を使用したり、アルコールや他の薬物と重ねて摂取するなど、とくに危険な使い方もみられます。
ダンスも音楽も、もともとドラッグなんて使わなくても、存分に楽しめるはず。健康な夏に、ドラッグは不要です。
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