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そこが知りたい家電の新技術
三菱電機 洗濯乾燥機「ムービングドラム」

〜ネクストスタンダード目指し開発された動くドラム
Reported by 三浦 優子

ムービングドラム
 三菱電機が5月に発売した洗濯乾燥機「ムービングドラム」は、洗濯、乾燥、取り出しそれぞれの場面にあわせ、ドラムが角度を変えるユニークな製品だ。

 日本では縦型洗濯機が当たり前だったが、数年前から横型ドラム洗濯機が隆盛となり、洗濯乾燥機のあり方は今、急激に変化している。ムービングドラムは、「使いやすい洗濯乾燥機のあり方を追求し、開発した成果」だという。

 ドラムが動くという発想はどこから生まれたのか。そしてドラムの角度が変わることでユーザーにはどんなメリットが生まれるのか。


「遅れてもいい。納得のいくものを作れ!」

三菱電機の洗濯機の開発/生産を行っている日本建鐵の外観。戦時中は航空機の生産も行っていた由緒ある工場だ
 三菱電機の洗濯機を企画、生産を担当するのは、千葉県船橋市にある三菱電機の関連会社、日本建鐵株式会社。1920年(大正9年)に創業した歴史ある企業で、「新しい時代の建設を担う鋼製建具の国産化の実現」という目標から日本建鐵という社名となった。

 現在は建材事業からは撤退し、三菱電機の100%子会社として、(1)洗濯機、乾燥機、ウォータークーラーの生産・販売を行なうランドリー事業、(2)冷凍、冷蔵ショーケース、空調機など食品店鋪設備関連機器の製造・販売・工事などを行なうショーケース事業、(3)排水処理装置などの製造・販売などを行なう環境事業を手がけている。

 海外や地方に生産拠点を置いている家電メーカーが多い中で、千葉県船橋市という首都圏で、洗濯機の生産を行なっていることが三菱電機の特徴の1つとなっている。

 この日本建鐵のランドリー事業部において、横型ドラム式洗濯機に関する開発がスタートしたのは2004年のこと。競合メーカーから横型ドラム式洗濯機が発売されたこともあって、研究がスタートした。


日本建鐵 ランドリー事業部 ランドリー営業部営業課 武田哲司課長
 日本建鐵のランドリー事業部 ランドリー営業部営業課の武田哲司課長は当時をこう振り返る。

 「他社製品を見ると、洗濯時に利用する水量が従来の半分という製品があった。これを見て技術系のスタッフは、『これはやられた』と思ったそうです。しかも、驚いたことにその点が最大のセールスポイントとしてアピールされていなかった。むしろ、使いやすさを謳っていた。あれは競合メーカーとしてもショックでした。他社を上回る機能の製品を作るというのがそれまでの開発の姿勢でしたが、それだけではダメではないかと考えさせられるきっかけになりました」

 こうした状況分析の結果、単に横型ドラム式洗濯機を発売している競合他社に追いつくだけでなく、多少発売までに時間がかかったとしても、納得のいく製品を開発するべきだとの声が経営陣からも出た。

 「三菱電機の家電事業部長である田代から言われたのは、『慌てるな!』でした。普通だったら、『他社に比べて遅いぞ! なぜ、遅れているんだ』と言われる場面です。それが全く逆のことを言われました」

 洗濯機市場において、三菱電機のシェアはそれほど大きいわけではない。しかし、横型ドラム式洗濯機が登場したことで、メーカーシェアが大変貌する可能性がある。その可能性を睨んで、発売時期が遅れたとしても納得できる商品を出すべし、ということになったのだ。

 「その結果、本格的に製品開発がスタートした2005年の秋からは、三菱電機総出の開発体制で企画が進みました。通常、洗濯機の開発はランドリー事業部の技術陣だけで行なっていますが、ムービングドラムに関しては三菱電機の研究開発の中枢機関である先端技術総合研究所、デザイン研究所をはじめ、住環境の研究スタッフ、システムの研究スタッフなどが協力する体制がとられたのです」

 研究所のスタッフが製品開発に加わるといっても、通常であれば研究してきた要素技術の提供に留まることが多い。しかし、ムービングドラムに関しては専任の担当者が決められ、そのスタッフは日本建鐵に常駐して作業を行なう異例の体制がとられた。三菱電機が背水の陣で開発したのがムービングドラムだったのだ。


オール三菱の総合力が開発に生きる

 ここまで力を入れて製品開発に取り組んだのは、家電製品を利用する消費者側の環境も大きく変化しているという認識があったからである。

 「かつて、洗濯機といえば、泥だらけになって遊んでくる子ども達の衣類を洗うためのもの、というイメージがあったと思います。しかし、ライフスタイルが大きく変わり、衣類に泥汚れがつくこともほとんどなくなっています。横型ドラムは洗浄力では、縦型に比べ弱いことが指摘されていますが、それはこうしたライフスタイルの変化がベースになっているといわれます。しかし、それだけ本当によいのか。洗濯機を作る側にすれば、やはり洗浄力も必要ではないかと考えました。その一方で、これからは高齢者の数も増えていきます。洗濯機の使いやすさはより重要なキーワードとなっていくことでしょう。洗浄力は従来通り、でも従来よりも使いやすい洗濯機を作りたいということになりました」

 洗浄力を優先した際のドラムの角度と、洗い上がった洗濯物を取り出しやすいドラムの角度を研究していくと、当然のことながらそれぞれの最適な角度は全く異なる。一番汚れが落ちやすい角度を追求すると、ドラムの角度は15度が最適という結果となった。だが、使いやすさを優先すると15度という角度では洗濯物を取り出しにくく、20度が最適。また、乾燥機能という点でも、ドラムを洗濯物が温風にあたりやすい15度とした方が早く衣類が乾燥する。

 「それぞれで最適な角度が違うことを考えると、ドラムの角度をその都度、動かせばよいのではという結論になりました。全く、新しいものへの挑戦がここからスタートしたのです」


ムービングドラムでは、洗浄時、乾燥時など、それぞれの行程に向いた角度にドラムが自動で動く 取り出し時の角度は20度。洗濯物が一番取りやすい角度だという

 全く新しい洗濯機を開発するにあたっては、通常の洗濯機開発以外のスタッフが関わったことが大きな力を発揮した。例えば、乾燥機のファンの部分に使われているのは、換気扇の送風技術だ。制御部分については、静岡製作所にあったノウハウが活用されている。ドラムを動かすサスペンション部分には、自動車で使われている技術が使われた。

 まさにオール三菱の力を結集したからこそ誕生したのが、ムービングドラムという製品だ。


動くドラムが振動面で思わぬ効果を発揮

 こうした過程を経て完成したムービングドラムは、これまでにない製品に仕上がった。一見すると普通の洗濯乾燥機にしか見えないが、洗濯の時にはドラムの角度は15度。洗濯が終わって脱水に入るとドラムの角度は0度になり、乾燥は洗濯同様15度の角度で行なわれる。洗濯や乾燥が終わって洗濯した衣類を取り出す時には、ドラムの角度は20度になる。ただ、あくまでもドラムの角度が動くのは洗濯機内部のことなので、外から見ているだけではドラムが動いていることはわからない。

 試験用に用意されたドラムが動く様子が見えるものを見ると、意外にゆっくりとドラムが動いて角度が変わっている。これまでにない動作だけに耐久性が気になるところだが、15,000回の動作テストにより、問題がないことが確認されている。


上部の構造を紹介するための特別モデル ドラムの上部は、水がもれないよう蓋の役割をする可変ラバー、水槽カバー、水槽の三段構造となっている 可変ラバーの下部分は強力な磁石になっていて、水槽カバーにくっつくと水が漏れない構造となっている

【動画】可変ラバーの全体像を紹介するために用意されたスケルトンタイプ。さながら、蛇腹のように可変ラバーが動く(WMV形式、約1.2MB) 【動画】ドラムは、線でつられているような構造となっている。命令に応じて線をゆるめたり、張ったりすることでドラムが動く(WMV形式、約1.8MB) 【動画】ドラムが傾いた状態から0度の位置まで動くようす(WMV形式、約3.4MB)

ドラムの動きを制御する装置が上部後ろ側にあるムービングユニット。この部分から指令が出されてドラムが動く ドラムを動かす構造の耐久性をアピールするために作られたシャーシ。重りを載せても問題なく動くことをアピール 乾燥時間を短縮するために、乾燥機に使われているユニットもこの製品にあわせて新たに開発された

 しかも、ドラムの角度を動かせるようにしたことで、思わぬメリットも生まれた。

 「ドラムが動くとそのために余計な音がするのではないかと思われる方もいるかもしれません。しかし、実際の製品は、最も振動と音が大きくなる脱水時に、ドラム角度を0度にし、さらに強度を上げた胴体と底部遮音カバーの遮音・防振構造によって、振動の伝達や運転音の放射を抑え、洗濯時で28dB、乾燥時でも36dBの低騒音を実現しています」

 操作のためのボタンは他社のものなどと比べて少ない。しかし、ボタンの数は少ないながら、機能が少ないわけではない。少ないボタン数で従来製品と変わらない機能を搭載している。

 「ボタンが多すぎると、それだけで操作が難しそうという声が多かったのです。そこでボタンの数を絞って、操作は容易という印象を与えるように工夫しています」

 実際の製品を見ると、洗濯機にしては大きいような印象も受けるが、標準的な洗濯機置き場に置けるサイズでなければ発売しても意味はない。ドラムが動く機構をもった筐体でありながら、洗濯機置き場に置ける製品が完成した。


従来製品に比べ、操作に使うボタンの数は少なくなった。上部に用意された液晶画面を見て操作していくことで、少ないボタンながら高機能化を実現した 開閉部が大きくなったことで、毛布のような大物も取り出しやすい構造となった ドラムが動く構造に合わせ、洗濯機の底部分はまっすぐではなく、斜めになっている

洗浄力にもこだわったムービングドラムの特性を紹介するため、実際に洗濯、乾燥を実施。油脂分の多いカレー、水溶性の醤油、汚れが目立ちやすいケチャップの3種類のシミがついた白い布を、通常通り洗濯、乾燥させてみた 洗い上がりはこの通り。油性のカレーは完全に落ちなかったが、醤油、ケチャップについては見事に真っ白となった

洗濯乾燥機の変化は始まったばかり

 発売前から反響は上々。これまでになかった、「ドラムが動く」という方式を実現した効果は大きかったようだ。

 しかし、武田氏は「まだまだ、ネクストスタンダードとなるものの第一歩となる製品ができたに過ぎないと思っています」と話す。

 「静音、振動といった部分は、既存製品に比べて良好とはいえますが、まだまだ研究、改良の余地があります。取り出しやすさについても、もっと研究すべき部分はあるように思います。それに全自動洗濯機といいながら、まだまだ人の手がかかる部分は大きい。例えば、乾燥ですがアイロンをかけなくても大丈夫なくらい、形も整えて乾かしてくれるものが欲しいといった声は以前からあります。もちろん、すぐにそういう製品が開発できるというわけではありませんが、それが実現するための研究は進めていく必要があるのではないでしょうか」

 確かに横型ドラム式洗濯機の登場により、洗濯機の世界は大きく変化した。普及すべき世帯にはほぼ普及し終わり、売価が下がる一方だった洗濯機が高付加価値製品になった。だが、武田氏のことば通り、これは洗濯乾燥機が大きく変貌していく第一歩と捉えるべきなのかもしれない。

 最後に「洗濯乾燥機がもっと大きく変わっていく中で、これまでは競合メーカーに遅れをとっていた三菱電機製品が挽回していく可能性もまだまだあると密かに考えています」と、武田氏は今後の意欲を語った。





URL
  三菱電機株式会社
  http://www.mitsubishielectric.co.jp/
  製品情報
  http://www.mitsubishielectric.co.jp/home/sentakuki/moving/

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2007/06/21 00:04

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