とんでもない、原丈人さん。 次の時代のヒントは、この人のなかに?  第2部 「コンピュータ以上に便利な道具」と 「新しい株式市場」をつくるという話

楽しみにしてくださっていたみなさん、 お待たせいたしました。 ベンチャーキャピタリスト・原丈人さんに 糸井重里が話をうかがう特別連載・第2部を始めます。  今回は、原さんが、ずっと構想を練ってきた 「コンピュータよりずっと便利な道具」と 「まったく新しい仕組みの株式市場」についてのお話。  バングラデシュの教育医療プロジェクトや XVDという最先端の映像技術、 アフリカのスピルリナ計画に負けないくらい、 スケールが大きく、迫力のあるお話です。  ぜんぶで7回、まずはお読みいただき、 原さんの「とんでもなさ」を、お楽しみください。 そして、もし「次の時代のヒント」を見つけたら、 ぜひ、まわりの人にも教えてあげてください。  じつは原さん、 ノーベル生理学・医学賞を受賞した 世界的な科学者の弟子だった‥‥なんていう ちょっとおどろきの告白(!?)から、 対談はスタートしますよ。

原丈人さんプロフィール


もくじ
第1回 2008-09-08-MON
「デング熱」と「黄熱病」に困って
ノーベル賞科学者に弟子入り
第5回 2008-09-12-FRI
アメリカ共和党ビジネス評議会で
名誉共同議長をやっている本当の理由
第2回 2008-09-09-TUE
掘り出した壷を復元するために
世界初のデータベース技術を開発
第6回 今日の更新
グッバイ・ロンドン
グッバイ・ニューヨーク
第3回 2008-09-10-WED
どんな言語でも翻訳してくれる
コンピュータ以上に便利な道具
最終回 2008-09-17-WED
「また会いましょう、糸井さん」
「おみやげ話、楽しみにしてます」
第4回 2008-09-11-THU
XVDもスピルリナもPUCも
みんな「持たざる者の武器」だ


第6回 グッバイ・ロンドングッバイ・ニューヨーク

今、主流の理論経済学派が説明するのは
「会社は株主のものだ」ということ。
糸井 でも、原さんは、そうは思わない。
そう、会社がなすべきこととは、
株主の利益を最大化することじゃない。

会社というのは、従業員、顧客、
取引先、地域社会など、
関係する人すべてのものであって、
それらの人たちの利益に貢献すべきものなんです。
糸井 その考えを、理論化していくと。
そうです。アメリカ型の「金融資本主義」の
考えかたから脱け出して、
「会社は社会の公器」とする考えかたです。

わたしは、この考えを
「公益資本主義」と名付けました。
糸井 公益資本主義。
自社の人材、技術などのリソースを使って、
自分たちのやりたいことを成し、
社会に貢献し、みんなの役に立つこと。

それが、企業の第一の使命であって、
株主がうるおうのは、
その結果にすぎないんですよ、本来は。
糸井 順番がちがうんですよね。
で、そういう「会社の使命」を
実際の場面で果たしていくのは?

会社の従業員ですよね。

だから、彼らこそ、会社にとって
もっとも大切な資産なんだってこともふくめて、
理論体系化しようと。
糸井 具体的には、研究所みたいなものを
つくるんですか?
アライアンス・フォーラム財団という
財団法人があるので、そこに研究チームを。
糸井 ほう。
しかも、かれらアングロ・サクソンの
ロジックを用いて、
対抗理論を構築しますから‥‥。
糸井 ああ、なるほど‥‥。

「自分たちの言葉」でやられちゃったら
無視しておくことができないわけですね。
そのとおりです。

そして、この公益資本主義という考えかたを、
学会や産業界で発表して、
賛同してくれる人たちの流れをつくる。
糸井 どのくらい、いそうなんですか?
耳を傾けてくれそうな人は。
アメリカ産業界のリーダーのなかには、
かなりいるでしょうね。
糸井 そうですか。
繰り返しになりますけれど、
わたしの考える「公益資本主義」では、
短期的な株主利益を最大化するんじゃなくて、
中・長期的な視野で
会社の事業や研究開発をとらえ、
社会に貢献するということを重要視します。
糸井 はい。
でも、これまでの証券市場、つまり
ニューヨークやロンドンの証券取引所というのは
短期的な株価を上げるための場所。

つまり、
「今日投資したら、今日儲けたい人」のための
マーケットなんですよ。
糸井 アメリカ型の経済思想のもとでは、
そういう人が圧倒的多数ですよね。
他方で、世界全体に目を向けてみると
全資金量の2割ぐらいは、
10年後、20年後のリターンを想定した
投資のしかたを考えている。
糸井 つまり、短期的な利益を追っかけるんじゃなく。
そう、長期的な視野を持った人たちが
無視できない割合で、いるんです。

なのに、
そういう長期資金を取引できる市場って、
今はまだ、ないんですよ。
糸井 ‥‥まだ? つまり‥‥。
そう。

ニューヨークやロンドンが放棄した
2割の長期資金。

それを取り扱う金融市場を日本につくる。
糸井 原さんが‥‥ですか?
わたし。わたしが、つくりたい。
糸井 まったく新しい市場を、つくる。
今、ほとんどの人、つまり全世界の8割が
短期的な利益を最大化すべく、
ニューヨークやロンドンで過当競争してるんです。
糸井 ええ。
だからこそ、
長期的な視野を持った資金を扱う
市場をつくれば、
それはきわめて、ユニークなものになるでしょう。
糸井 しかも、この日本に。
そう、この日本に、世界の将来をつくるんです。

そして、この日本を、
アメリカやヨーロッパ、世界にとって
なくてはならない国に、したいんです。
糸井 いや‥‥原さんならやりかねないな。
たしかに今、アメリカやヨーロッパは
あらゆる場面で、成功しています。

でも、彼らの「ものマネ」をするんじゃなく、
彼らが目を向けないようなところで、
もっと、地球や人類にとって
意義あることをやりたいんですよ、わたしは。

‥‥大げさな言いかたをすれば、ね。
糸井 原さんの話って、
いつも、人に希望を抱かせますね。
それは、うれしいな。
糸井 原さんのつくる「マーケット」か‥‥。

今、ジャスダックやら、東証マザーズやら、
ヘラクレスやらって、
新興市場が、どんどんできてる時代ですし、
不可能なことじゃないですよね。
実現可能性、ありそうだと思うでしょ?
糸井 あるコンセプトに基づいたマーケットを
つくるってことですもんね。
そのとおりです。

そして、そのマーケットは
「公益資本主義」という理論でつくるから、
そのマーケットで決められる「株価」も
「公益資本主義」の理論に基づく。
糸井 ということは‥‥。
つまり、そこは
「社会貢献度が高い企業であればあるほど
 株価が高くなる」という市場なんです。
糸井 ‥‥うまくいきそうですか?
アメリカの産業界で話をしていても、
そんなマーケットをつくったら
乗り換えるよって人、たくさんいますね。
糸井 そうですか。
ええ。
糸井 ロンドンやニューヨークをあとにして。
そう、グッバイ・ロンドン、
グッバイ・ニューヨーク‥‥ってね。
<続きます!>

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原丈人さんと初対面。 とんでもない鉄道模型と、すごいテレビ電話の話。
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