「礼に始まり、礼に終わる」。相撲社会でよく口にする言葉だが、礼は何も土俵上の所作に限った話ではあるまい。土俵を離れても力士としての礼節や品格が求められるということだろう。
昨年来、角界ではその礼節をわきまえぬ不祥事が相次いだ。朝青龍騒動、時津風部屋の力士死亡事件、そしてロシア出身三力士の解雇処分となった前代未聞の大麻騒動。「国技」の威厳は失墜してしまった。
土俵際に追い込まれ、日本相撲協会のトップも交代した。北の湖前理事長の後を継いだのは、元横綱三重ノ海の武蔵川親方。現役時代は病気やけがに苦しみ、三十一歳で最高位にはい上がった苦労人だ。
引退後は横綱武蔵丸や大関武双山らを育てた。猛げいこと礼儀作法を重んじる師匠としての威厳は、角界でも指折りという。新理事長の手腕に期待する声は高いが、信頼回復は容易ではなかろう。
増える一方の外国人力士をめぐるトラブルは絶えない。相撲道を磨かなくても、強ければ構わないという甘やかしの風潮が問題行動の根っこにあるのではないか。
きょうから秋場所が始まる。大麻騒動をめぐる処分の余波は続いたままだが、新体制で臨む「角界再生」の場所とせねばなるまい。力士もふんどしを締め直し、ファンの期待に応える熱戦を見せてほしい。