「公立病院としての責務がある」
「いや、役割が違う。高度医療まで倒れては本末転倒だ」
県央・県北の小児医療の拠点、県立こども病院(水戸市双葉台3)。子どもの先天的な障害や難病を専門とするこの病院で、症状の軽い1次救急の受け入れを巡り議論が続いている。診療時間外の救急受け入れ態勢はこの1年で2度変わった。医師不足がここでも影を落とす。
発端は4年前の夏。休日や夜間に診療時間の空白がある地域のため、24時間態勢で1次救急を担うことになった。設立(85年)以来、原則として紹介のある患者のみ受け入れてきた。「こども病院は小児医療の最後の砦(とりで)」。負担増を懸念し、反発もあった現場を土田昌宏院長(62)はこう説得した。
夫婦共働き世帯の増加や保護者の大病院志向などを背景に、夜間や休日の小児救急外来を「コンビニ的」に利用する傾向が問題視されて久しい。そのため、こども病院では来院前に電話で病状を聞いて緊急性を判断する「電話トリアージ」を導入。実際に診療を受ける人は希望者の半数以下に抑えたが、それでも受け入れ数は以前の3倍以上に膨らんだ。
国は小児科医不足対策として「拠点病院への集約化・重点化」の構想を描く。こども病院勤務のある医師は「方向性としてはその道しかない」と理解を示しつつ、残された病院に患者が集中する現状を「理想とプロセスが逆転している」と指摘する。
こども病院では07年の夏から秋にかけて常勤の医師26人のうち3人が相次いで病院を去った。「無理をし過ぎたと反省している。私も古い人間で、救急は勤務医が支えるものだと思い込んでいた」と土田院長は振り返る。当直体制が維持できなくなり、07年11月に1次救急の受け入れを週4回に縮小した。
現在は県医師会などの協力の下、地域の開業医が時間外のシフトを埋め、一部は午後11時以降の深夜帯も担当する。今年6月からは診療を午前3時までに制限する代わりに、毎日受け入れる態勢に戻した。現場には専門医療に集中すべきという意見も残る。試行錯誤はなお続く。
「三方一両損」。土田院長は、今の救急体制を大岡越前の裁きになぞらえる。すなわち、勤務医は引き続き過酷な労働環境に置かれ、それを支える開業医の役割も重きを増す。そして、住民は、医療の質を維持するために、1次救急の24時間態勢をあきらめる--。3者が負担を分かち合い、子どもの救急医療を支えることを例えたものだ。3者の均衡を維持することは可能なのだろうか。「それぞれの工夫とコンセンサス(合意)でしょう」=つづく
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■ことば
看護師が電話で症状を聞き、重篤で緊急度が高い子どもを優先して診察する。トリアージとは本来、大規模災害などの際に、医師らが現場で負傷者のけがの程度を判別して治療や搬送の優先順位を決めること。重症者を優先して治療し、生存率を高めるのが狙い。
毎日新聞 2008年9月14日 地方版