川島 真（総合文化研究科・教養学部助教授／アジア政治外交史）［東大教師が新入生にすすめる本 2007年「UP」4月号より］
� �『国際社会論─アナーキカル・ソサイエティ』ヘドリー・ブル／臼杵英一訳（岩波書店、2000）
大学での学習の一つの特徴は、変則的で多様な物事を整理しながら、抽象化して理解し、考えることだろう。各メディアに溢れかえっている国際情報を、いかに理解すればいいのか。ブル的世界の現状への有用性について議論もあろうが、まずはここから始めてはどうか。筆者も、この自分の専門とは距離のある本を研究者の卵になりかけの時代に読んだ。当時、たいへん微細なディテールの海の中で沈没しかけていたが、この本を読んで少しは浮上できたような気がする。
�◆仝Φ羲圓領�場から、というのは自分の専門に関わる領域の本だと勝手に解釈すると、やはり
『近代中国政治外交史─ヴァスコ・ダ・ガマから五四運動まで』坂野正高（東京大学出版会、1973）
を挙げないわけにはいかない。専門領域の教科書と呼ばれるものは、オーソドックスな定番であるだけでなく、読み手の興味関心や学習の程度に応じて多元的な姿を見せる。同じことが書いてある筈なのに、読むたびに新しい発見がある。そんな本が中国の外交史を学ぶ筆者にとってはこの作品である。また、
『危機の二十年─1919-1939』Ｅ・Ｈ・カー／井上繁茂訳（岩波文庫、1996）
も挙げたい。これは、イギリスの外交官であったカーが1939年に過去20年を振り返り、ヴェルサイユ体制が破綻した原因などを考えながら書いたもの。現在を説明するのに、20年を振り返って、その歴史的に説明するというのは容易なことではない。本書に接すると現状を見据える上での歴史的思考の意味を考えさせられる。
�� 『国境を越える歴史認識─日中対話の試み』劉傑・三谷博・楊大慶編（2006）
日中間の歴史認識問題と聞くと、面倒そうかもしれないし、極論に走ったほうが気が楽になるかもしれないけれど、何が問題になっていて、何がどこまで双方で異なるのか、解決に向けて何が課題になるのかということを知る上で、参考になる一書。問題がすっきり解決されたり、分析結果が明示される本ばかりではないことを知ってほしい。
�ぁ｜叡�はひとつしかなく、出版後三年も経っているので、恥ずかしくて挙げられない。致し方ないので、暫定的にこの教科書、
『東アジア国際政治史』服部龍二との共編（名古屋大学出版会、近刊）
を挙げたい。各章執筆者は若手研究者なので、比較的新しい研究成果や情報が盛り込まれている。東アジアの国際関係史や外交史に興味のある学生諸君には是非手にとって批判してほしい。