矢口祐人（総合文化研究科・教養学部助教授／アメリカ研究）［東大教師が新入生にすすめる本 2007年「UP」4月号より］
�� 『聖書』（日本聖書協会）
クリスチャンの家庭で育ったこともあり、幼いときから読まされました。荒唐無稽でおそろしく退屈な本だと思っていました。しかし今思うと自分の人生観にいちばんのインパクトを与えた書です。世界の歴史を理解するうえでも重要です。信仰云々ではなく、教養の書としてお勧めします。
とはいえ、現代社会に住みながら『聖書』の言葉を字義通り受け入れることは難しい。いや、大学生が何千年も前に記されたことをそのまま信じるのは無責任です。むしろ『聖書』のような書をいかに理解すべきかを考えましょう。たとえば「史的イエス研究」という視座で『聖書』の世界を解き明かす、大貫隆『イエスという経験』（岩波書店 2003）、『イエスの時』（岩波書店 2006）を読んでください。キリスト教の知識に限らず、研究とは何か、を教えてくれる本です。
『死刑廃止を考える』菊田幸一（岩波ブックレット、1993）
『Ｑ＆Ａ死刑問題の基礎知識』（明石書店、2004）
日本の世論の大半は死刑制度を支持していると言われます。人を殺したら命で償うべきだ、と。でもぼくは本当に命を大切にする社会を築くためには、死刑を廃止すべきだと考えます。皆さんはどうですか。
�◆�『オリエンタリズム』（上・下）エドワード・サイード／板垣雄三・杉田英明監修、今沢紀子訳（平凡社ライブラリー、1993）
「異文化交流」「異文化理解」などが世間でずいぶんもてはやされています。でも文化を理解するって何でしょう。「他者」の理解とはそれほど容易なのでしょうか。そんなに素敵で楽しいことなのでしょうか。ぜひこの書を読んで考えてみてください。
『日本領サイパン島の一万日』野村進（岩波書店、2005）
400頁近い本ですが、読み出したら止められません。サイパン島が日本の委任統治領だった時代の話です。それほど昔のことではないのに、あまり知られていない過去です。でもこれは大切な歴史。日本からの移住者の生活のみならず、現地の島民（チャマロやカロリニアンの人々）の視点も想像しながら読んでください。
�� On CampusとCampus Wide（いずれも2006）
英語Iの必修教科書ですから、嫌でも読まなければなりません。でも嫌がらないで。東大生の教養英語にふさわしいものを作るために、教員が全力投球で取り組んだ本です。真剣に学べば絶対に良いことがあります。
�ぁ�『ハワイの歴史と文化』（中公新書、2002）
ハワイ観光に行く前にはぜひ読んでください。歴史やハワイ音楽に興味ある人もどうぞ。
『踊る東大助教授が教えてくれたハワイとフラの歴史物語』（イカロス出版、2005）
フラは長い歴史を持つハワイの重要な文化です。だからぼくも数年前からフラを習っています。でもあまりに下手なので秘密にしていました。それがこんなかたちで世に知られてしまって……（タイトルは編集者の発案・決断です）。あぁ、恥ずかしい。実は一所懸命まじめに書いた本です。
『現代アメリカのキーワード』吉原真里との共著（中公新書、2006）
たとえば「アブ・グレーブ・スキャンダル」、「オプラ・ウィンフリー」、「インテリジェント・デザイン」、「ナスカー」。どれも日本ではあまり知られていないけれども、現代のアメリカ社会を理解するために重要なキーワードです。自分で言うのも何ですが、この本はかなりおもしろいです。