白波瀬佐和子（人文社会系研究科・文学部助教授／社会学）［東大教師が新入生にすすめる本 2007年「UP」4月号より］
� ー匆颪鮃柔�し、時代を作るのはまぎれもない「ひと」です。固有名詞が特定されない「ひとびと」、彼／彼女らこそが時代を担ってきました。「生きる」ことはそれ自体尊いドラマです。ひとつひとつのドラマは違っていても、それぞれに意味があります。
『怒りの葡萄』ジョン・スタインベック／大久保康雄訳（新潮文庫、1967）
スタインベックの『怒りの葡萄』は、カリフォルニアへと移住するジョード一家の生き様が描かれています。アメリカの大恐慌、機械制工業の台頭、といった時代背景、もの（土地）を持つ者と持たない者、飢餓・貧困、そして生きることへの希望、といった重要なテーマが、ひとの、家族の生き様を語る中で巧みに盛り込まれています。
Embracing Defeat: Japan in the Wake of World War II, John W. Dower（W.W. Norton & Co., 2000） 『敗北を抱きしめて─第二次大戦後の日本人』（上・下）ジョン・ダワー／三浦陽一・高杉忠明・田代泰子訳（岩波書店、2001）
著者のジョン・ダワーは、アメリカを代表する日本の歴史学者です。歴史的事実という枠を超えて、その時代を生き、その時代を作った人々の視点から、日本の敗戦が描かれています。「戦争の敗北」を抱きしめ、たくましくその時代を生きた人々がいました。彼／彼女らこそが時代を作ってきたし、いまわれわれがいる時代とつながっています。少し大変ですが原著で読むのもお勧めです。
�◆�『社会科学の方法』大塚久雄（岩波新書、1966）
大学院に進むにあたって経済学に進むべきか、社会学に進むべきか迷っていたときに読んだ本のひとつです。本著で、社会学は「社会科学としての基礎理論」として位置づけられています。マルクスとウェーバーの語りを通して歴史世界と個人について考えさせられました。歴史という大河のなかでも実際の生活を営む「ひとびと」を決して見失わない、そんな社会学をやってみたいと思いました。
The Sociological Imagination, C. Wright Mills（Oxford University Press, 1959） 『社会学的想像力』ライト・ミルズ／鈴木広訳（紀伊國屋書店、1965）
46歳という若さでこの世を去り、短い人生を駆け抜けたアメリカの社会学者ライト・ミルズによる著です。本著から、彼の反骨精神と熱い社会学への想いを感じます。アメリカに留学して本格的に社会学を勉強し始めたころに読みました。研究とは創り出すこと。このことを教えてくれた本のひとつです。
�� 『社会移動の研究』安田三郎（1971）
本著は日本における階層移動研究のひとつの到達点を示す業績です。世の中がどれほど平等なのかを測るためには、動学的に社会をとらえなくてはなりません。人の動きを通して社会の構造を見ていく。そんな移動研究の魅力を味わうことができます。
『日本の階層システム』（全6巻）盛山和夫・原純輔・今田高俊・海野道郎・高坂健次・近藤博之・白倉幸男編（2000）
社会学の重要な分野のひとつとして社会階層論があります。日本では、1955年以来「社会階層と社会移動全国調査」（ＳＳＭ調査）が実施され、以来10年ごとに実施されています。本シリーズでは、1995年調査の成果が6巻にまとめられています。問題関心に沿ったテーマの巻を読んでみてください。
『分配の経済学』石川経夫（1999）
不平等は社会学のみならず、経済学でも共通する重要なテーマです。どうして世の中に不平等があるのか。アプローチが異なる不平等研究から学ぶべきところは多くあります。経済学を専門としない読者にとっては少々難解なところもありますが、また一味違った不平等研究のエッセンスを読みとることができます。
�ぁ�『少子高齢社会のみえない格差』（東京大学出版会、2005）
少子高齢化という人口変動を格差の観点から考察しました。社会学の中で新しいアプローチを展開してみたいと思って書いた私の最初の一歩です。まだつたないところもありますが、テーマに関心のある方は手にとってみてください。