神野志隆光（総合文化研究科・教養学部教授／日本古代文学）［東大教師が新入生にすすめる本 2007年「UP」4月号より］
� �『歌のわかれ』中野重治（講談社文芸文庫、『村の家 おじさんの話 歌のわかれ』、1994）
受験生のころ（40年以上も前になる）に、『中野重治詩集』や『むらぎも』と重ねて読んでいた（文庫本だったと思う）。受験で上京したとき、従兄弟（すでに亡くなった）の案内で神田の古本屋街をはじめて歩いて圧倒されたことと、そのなかの一軒で、この作品が入った中野の全集の一冊を購入した（いつのまにか失ってしまった）ということとともに記憶のなかにある。
�◆�『中国中世社会と共同体』谷川道雄（国書刊行会、1976）
『徒然草抜書』小松英雄（講談社学術文庫、1990［初版1983］）
『アメリカの詩を読む』川本皓嗣（岩波書店、1998）
問題把握の感性と倫理（谷川）、テキスト把握の追究（小松）、評釈の手際（川本）を学びたい本。「感性と倫理」というと奇妙に思われるかもしれないが、どこに立って問題を見るのか、問題把握の根底になければならないものだと考える。
�� 『まなざしのレッスン １西洋伝統絵画』三浦篤（2001）
論じるのでなく、デスマス体で語るスタイルだが、内容は高度で、問題の開示はスリリング。こういう本が、『古事記』や『万葉集』について書きたいと思わせられてきた。
�ぁ�『古事記の達成』（東京大学出版会、1983）
『漢字テキストとしての古事記』（東京大学出版会、2007）
『漢字テキストとしての古事記』は、前掲の川本さん、三浦さんのような本を『古事記』について書きたいという思いから出たが、『古事記の達成』（最初の論文集）から出発した、わたしの『古事記』の作品論的研究がいたりついたところということになる。