高原明生（法学政治学研究科・法学部教授／現代東アジア政治）［東大教師が新入生にすすめる本 2007年「UP」4月号より］
� �『氷川清話』勝海舟／勝部真長編（角川ソフィア文庫、1972）
スポ魂物が流行った時代の影響もあるのかもしれませんが、正直に言うと、かっこいい男の生き様に憧れていた頃がありました。それで実を申せば、印象に残っている本の最たるものは3巻本の『少年倶楽部名作選』（講談社、1966）です。山中峯太郎らの描くヒーローたちの活躍に胸を躍らせたものですが、ちょっと大学生に勧める本としては不適当なので、代わりに晩年の勝海舟の座談を挙げておきます。生きていく上で実に参考になります。
�◆�『三国志』吉川英治（吉川英治歴史時代文庫1〜8、講談社、1989）
何も中国政治は権力闘争だけではありませんが、いつの時代もそれが重要要素であることは間違いありません。毛沢東の死期が近づいた時、葉剣英元帥は「四人組」との闘争に備えて秘策を練るために山籠りをするのですが、その際には『三国志』を携行するよう秘書に指示したと中国の本には書いてあります。
『ワイルド・スワン』（上・下）ユン・チアン／土屋京子訳（講談社、1993。文庫版［上中下］、1998）
毛沢東に関する著者の最新作（夫との共著）は学術書の体裁をとっていながら客観性に欠けるところがありますが、そのデビュー作は素晴らしいノンフィクションです。清朝末期から文革終了後までの祖母・母・自分の三代記で、近現代の中国人が如何に戦争と革命に翻弄されて生きてきたかがよくわかります。
�� 『中国』（上・下）Ｊ・Ｋ・フェアバンク／市古宙三訳（1972）
東京大学出版会からも中国政治に関するすぐれた専門書が多々出ていますが、これを越える概説書はどこからも出されていないと思います。
『国境を越える歴史認識─日中対話の試み』劉傑・三谷博・楊大慶編（2006）
今の日中関係において歴史認識が問題となっていることは周知の通りです。この本は、比較的若い歴史家が中心となり、近現代史における代表的な争点を日中双方の観点から解説した論文集です。当局と異なる見解が少なからず提示されているわけですが、それにもかかわらず中国で中国語版が同時出版されたのは画期的なことでした。少しずつ中国政治も変化しているのです。
�ぁ�The Politics of Wage Policy in Post‐Revolutionary China（Macmillan, 1992）
1940年代から80年代半ばまでの、賃金政策の変遷の政策過程を分析した本です。元はイギリスで書いた博士論文ですが、その後香港で働いているときに時間をかけて書き直す機会があったのは本当に幸運で有難いことでした。主には海外の経済学者が読んでくれているようですが、政治学者にも読んでほしいと密かに思っています。
『中国市場化の政治学（仮題）』（名古屋大学出版会、近刊）
元々は改革開放の政治史を書き下ろす予定でしたが、何年たっても出来ないので論文集になる見込みです。さあ、今年中に出来るかなあ……。