須藤 靖（理学系研究科・理学部教授／宇宙論・太陽系外惑星）［東大教師が新入生にすすめる本 2007年「UP」4月号より］
� 〜瓩い發里蚤膤愼�学以来すでに30年間が過ぎてしまった。当時は一人前の教養人になるべくいろいろな本を乱読したはずであるが、今から思い返すと何一つ身についていない。読書歴や本棚の中身を公開することは、自分の頭の中を素っ裸で人前にさらすようなものだ。毎年この特集を読むたびに、東大の先生方はボディービルダーよろしくやはり「脱いでもすごい」方々ばかりでただただ敬服させられるのみ。私は恥ずかしくてとてもじゃないが、そのようなまねはできない。というわけで、少し着飾ったものをまとめて�△暴颪�せて頂こう。
�◆“蘰�なことに科学が進歩するにつれて、人々が科学に興味を失いつつあるようだ。日常的な現象と科学の最先端との距離が遠ざかる結果として、基礎的な部分においても科学離れを加速させているらしい。そこで文系・理系を問わず科学の魅力を伝えてくれるような本をいくつか紹介してみたい。
Surely You’re Joking, Mr. Feynman !, R. P. Feynman and R. Leighton（W. W. Norton & Company, 1985）
20世紀が生んだ物理学の巨人の一人、リチャード・ファインマンの自叙伝（風の読み物というべきか）。彼の天才ぶりと自由奔放な生き方に圧倒されるとともに多くの感動を与えてくれる。博士論文提出直後に風邪で寝込んだ私は、布団の中でこの本を読みながら至福の時間を過ごしたのだった。邦訳も出ているが、分かりやすくかつ味わい深い英語なのでぜひとも原文で。
『宇宙創生はじめの三分間』スティーブン・ワインバーグ／小尾信彌訳（ダイヤモンド社、1977）
宇宙論の啓蒙書は巷に山ほどあふれているが、出版以来30年経過した今でも、これをしのぐものはあるまい。
『宇宙の定数』ジョン・バロー／松浦俊輔訳（青土社、2005）
著者は専門の相対論・宇宙論はもとより、人間原理の提唱者の一人として、また広い意味での宇宙論に関する優れた啓蒙書を数多く著したことで知られている。彼の思索は広く深い。これは（教養の高い）一般人を対象に書かれたもので、本学教養学部の学生にはぜひ一読をお勧めしたい。他にも多くの著書があるが、表現は別として基本的に流れている思想と題材は共通である。しかし、彼の博識と文章力には舌を巻く。
なぜか、外国人のものばかりになってしまったが、日本人研究者の手になる珠玉の文章はかなり過去に遡らざるを得ないのが正直なところである。
『寺田寅彦随筆集』（第1巻〜第5巻）小宮豊隆編（ワイド版岩波文庫、1993）
『中谷宇吉郎随筆集』樋口敬二編（ワイド版岩波文庫、2006）
『朝永振一郎著作集』（全12巻、別巻3巻）（みすず書房、新装版、2002）
などは真に独創的な物理学者による一流の随筆・思想集として世界に誇りうるものである。これらを原語で読めることに日本人に生まれた幸せを実感してほしい。
�� 昨年10月に東京大学出版会よりUT Physicsという新しい物理学のシリーズが始まった。私は宇宙物理分野の編集委員を勤めさせて頂くとともに、第1巻『ものの大きさ 自然の階層・宇宙の階層』（2006）を書く光栄に浴した。現在、第2巻・橋本幸士著『Ｄブレーン』（2006）第3巻・柴田大著『一般相対論の世界を探る』（2007）まで出版されている。ややもすれば敬遠されがちな物理学の最先端を、独自の視点から魅力たっぷりに語りかけてくれるすばらしい執筆陣にお願いしているので、今後とも乞期待。
�ぁ�『一般相対論入門』（日本評論社、2005）
は、相対論を「専門としない」理科系学部三、四年生から大学院生のための入門書である。物理学科で行った講義をもとにしており、内容を厳選した代わりに、（演習問題の解答も含めて）すべての式の導出は省略することなく記述した。巷にあふれている相対論の啓蒙書で上っ面を読むのに飽き足らなくなったまじめな学生諸君に読んで頂ければ幸いである。