寺田知事、英断か暴走か 学力テスト成績公表方針「わたしの責任で全国学力テストの市町村別成績を公表する」。秋田県の寺田典城知事が打ち出した異例の方針に波紋が広がっている。テストの実施主体である文部科学省は「無用な競争を招く」と猛反発し、県内の市町村教委も異を唱えるが、保護者には賛同の声も少なくない。公表すれば全国初となる方針は民意をくんだ「英断」か、それともルールを無視した「暴走」なのか。(秋田総局・長谷美龍蔵、水野良将)<学校別も開示を> 全国の小学6年、中学3年を対象に実施された学力テスト。6年生の長男がいる由利本荘市の女性(38)は「市町村別はもちろん、学校別の成績も教えてほしい」と話す。 秋田県の小学6年の平均正答率は全教科とも2年連続トップだが、「子どもの学校が県内でどのレベルなのか知りたい。最下位の成績だったらと思うと気が気でない」との理由だ。 寺田知事は公表の理由を「国民の税金を使ったテスト。結果を公表し、改善策に役立てるとの県教委の考え方は理にかなっている」と説明する。 もともと情報公開には積極的な寺田知事。県教委の根岸均教育長が、以前から市町村別成績の公表に前向きだったことが、発言を後押しした。 その根岸教育長は「市町村間や学校間で、指導の成果に差があってはならないのが公教育。成績を公表しないと、差が生じていても気付くことなく、児童生徒を卒業させてしまう」と訴える。 <宿題がどっさり> 文科省は学力テストの実施要領で、市町村教委の成績開示は認めながら、県教委の市町村別公表を禁じている。知事の援護射撃を受けた根岸教育長は、市町村教委への“説得行脚”に乗り出したが、反応は一様に鈍い。 秋田市の高橋健一教育長は「数字が独り歩きする。他の自治体と比較しなくても学習指導の改善には生かせる」と反発。「序列化や過度な競争につながる」(大仙市教委)との声も多く、小中学校が1校ずつしかない大潟村教委は「保護者が教師の指導力に疑問を抱きかねない」と懸念する。 保護者の間にも慎重論はある。長女が小学6年生の秋田市の女性(43)は「県平均が全国1位に輝いて以来、子どもが復習用のプリントをどっさり抱え、帰宅するようになった。市町村別まで公表したら、それが過熱しかねない」と異を唱える。 秋田大の佐藤修司教授(教育社会学)は「学校、保護者、地域が一丸となり学力向上へ取り組むなら、情報共有は欠かせない」と強調する。その上で「だが、それを知事が公表するのは問題」と指摘する。 <権限逸脱と批判> 教育委員会は、政治的中立や首長からの独立が保証されている。県高校教職員組合は「権限の逸脱。教育に介入する重大な問題」と批判し、発言の撤回を要求している。 寺田知事もこの点は承知しているが、「公表は県民利益にかなう。権限がある、ない(の次元)ではない」と語り、あえて“一線”を越えた。 自治体の情報公開審査会委員を長く務める秋田大の池村好道教授(行政法)は、「必ずしも知事が公表できないわけではないが、現場(市町村教委)の判断を尊重するのが基本」と解説。「データの読み方や注釈を付けるなど、『無用な競争』を避ける公表方法はいくらでもある」とスマートな対応を提案している。 [全国学力テスト] 文部科学省が2007年度に復活させた「全国学力・学習状況調査」。小学6年は国語と算数、中学3年は国語と数学のそれぞれ基礎のA問題、応用のB問題の計4教科に挑戦する。秋田県は2年連続で小学6年が4教科とも全国1位、中学3年が4教科とも3位以内に入る好成績だった。
2008年09月15日月曜日
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