松本洋一郎(工学系研究科・工学部教授/機械工学)[東大教師が新入生にすすめる本 2008年「UP」4月号より]
(1) 最近本をゆっくり読む時間がなくなった(読んでも印象に残らなくなった?)が、その昔読んで印象に残った本をいくつか挙げてみよう。若いうちにいろいろと読んで吸収してほしい。
『ヒロシマ・ノート』大江健三郎(岩波新書、1965)
大江健三郎はほとんど読んだ。私にとって一番印象に残った本である。
『空海の風景』(上・下)司馬遼太郎(中公文庫、1994)
司馬遼太郎も多く読んだが、印象に残る一冊である。空海の並外れた人間のドラマが展開する。
『星と嵐』ガストン・レビュファ/近藤等訳(白水社、1992)
フランスの登山家ガストン・レビュファが1945年から1952年にかけて登ったヨーロッパ・アルプスの6つの北壁の登攀記録である。山登りをしていた学生の頃、アルプスにあこがれて読んだ本の一つである。
(2) 『生命科学』東京大学教養学部理工系生命科学教科書編集委員会編(羊土社、2006、改訂第二版2008)
本書の序には、「21世紀は生命科学の時代であり、生命科学の知見は、自然科学のみならず、人文科学、社会科学など多くの分野に影響を与えている。現在では、どのような専門分野の人々にも生命科学の知識が必要となってきている。」とある。このような背景の下に、東京大学発の必修教科書として、初めて生物を学ぶ人を対象に、東大の強力な執筆陣が書き下ろしたものである。細胞を中心として生命現象のしくみが記述されており、コンパクトに纏められている。
『ファインマン物理学I〜V』リチャード・ファインマンほか/坪井忠二ほか訳(岩波書店、1986、IVのみ増補版2002)
理系の学生として読んでおいても良い教科書として薦めたい。その中のエッセンスを纏めたものとして、上記がある。簡単な英語で書かれているので、読んでみることをお薦めする。私はたまたまこの本が出たばかりの頃、カリフォルニア工科大学のブックストアーで買って読んだが、目からうろこの思いをした。良く書けた読みものである。
SIX EASY PIECES: Essentials of Physics Explained by Its Most Brilliant Teacher, P. Richard(Feynman, Addison Wesley, 1994)
(3) 『工学は何をめざすのか─東京大学工学部は考える』中島尚正編(2000)
20世紀の発展を支えてきた工学や科学技術の今後の社会貢献について学内での議論を工学ビジョンとして纏めたものである。この頃から、「工学」は社会に向けて発信するようになったような気がする。そろそろ、次の纏まったビジョンの発信が必要か。
『「産業科学技術」の哲学』吉川弘之・内藤耕(2005)
産業の持続可能発展に向けたメッセージである。科学技術研究はどのようにあるべきなのかを問い、研究成果を効率的に社会還元していく研究として「第2種基礎研究」の確立を提案している。工学系研究者・技術者として共感できる書である。
(4) 『熱流体ハンドブック─現象と支配方程式』小竹進・土方邦夫との共著(丸善、1994)
『計算熱流体力学(空間系III)』冨山哲男ほかとの共著(岩波講座現代工学の基礎15、岩波書店、2002)