入村達郎(薬学系研究科・薬学部教授/生体異物学)[東大教師が新入生にすすめる本 2008年「UP」4月号より]

(1) 専門は、糖鎖、免疫、がんですが、生物学の周辺領域で仕事とは直接関係していない所に印象に残っている本があります。文章が美しいものを原文で読むことを薦めたいと思います。
Silent Spring, Rachel Carson(Mariner Books, 1994)
はご存知のように環境破壊に警鐘を鳴らした古典で、美しい文章で書かれていると思います。文章の美しさ故に、述べられている事実の指摘が直接的で衝撃的であるにもかかわらず、古典として受け入れられたのではないかと思います。
The Diversity of Life, Edward O. Wilson(Belknap Pr., 1992)
は、生き物の世界全体の成り立ちについて語っています。文章を楽しむように読む本であると思います。余談ですが、映画もシーンの美しいものが好きです。
 読書などと胸を張れない状態が何年も続いています。芥川賞受賞作はなんとかフォローしていますが、『尋ね人の時間』(新井満)以来印象に残るものがありません。娘たちから「父ちゃんこれ面白いよ」と言われると、家族内コミュニケーションを円滑化するためにも読むことになります。そういうわけで10年以上に及ぶ在米中も日本の少女漫画には結構精通していました。
 娘に勧められて読んで印象に残ったのが
Phantoms in the Brain, Oliver Sacks, V.S. Ramachandran, Sandra Blakeslee(Fourth Estate, 1999)
です。脳科学の最先端においても、生物学的なパースペクティブを持って現象を理解することの重要性が繰り返し語られています。同じ著者による新刊が間もなく出版されるようです。
(2) 分子生物学、細胞生物学、生化学の基本は、教養学部にいる間にしっかり身に付けておいてほしいものです。
『生命科学』東京大学教養学部理工系生命科学教科書編集委員会編(羊土社、2006、改訂第二版2008)
『理系総合のための生命科学』東京大学生命科学教科書編集委員会編(羊土社、2007)
『文系のための生命科学』東京大学生命科学教科書編集委員会編(羊土社、2008)
は必修ですが、もうすこし詳しく知りたければ、
Molecular Biology of the Cell, Bruce Alberts, et al.(Garland Science, 2007)
Biochemistry, Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko, Lubert Stryer(W.H.Freeman & Co., 2006)
がお薦めです。免疫学の教科書としては、
Cellular and Molecular Immunology, Abul K. Abbas, et al.(W.B.Saunders Co., 2007)
が良いかと思います。
(3) 30年ほど前に出版された本ですが、
がん細胞─その奇妙なふるまい』岡田節人(1979)
は今読んでも新鮮な内容を持っています。例えば、iPS細胞というものがなんであるのかを理解するためにも役立つでしょう。
(4) 先に述べた『理系総合のための生命科学』『文系のための生命科学』の一部を執筆しています。また、『ストライヤー生化学』(東京化学同人、2004)、ナイカンプほか編『免疫薬理学の原理』(シュプリンガーフェアラーク東京、2004)、プレーフェア『感染と免疫』(東京化学同人、1997)などの翻訳を手がけています。サイエンスに関する文章も美しくありたいと心がけていますが、容易ではありません。
 私が直接関係しているわけではありませんが、平成20年度に理系に入学した新入生は全員がALESS(Active Learning of English for Science Students)という、科学的な論文を書くためのトレーニングプログラムに参加することになるはずです。そこで、科学論文だけでなく科学者の書いた英文の美しいエッセイに日頃から触れておくことがとても大切だと思います。

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