外村 大(総合文化研究科・教養学部准教授/日本近現代史)[東大教師が新入生にすすめる本 2008年「UP」4月号より]
(1) 『尹東柱全詩集─空と風と星と詩』尹東柱/尹一柱編・伊吹郷訳(記録社[影書房]、1984)
尹東柱の詩に初めて接したのは、学部時代、早稲田大学の大村益夫先生の朝鮮語の授業においてであった。だが、熱心な学生でなかったわたしは、そのまま原文をスラスラと、というわけにはいかず、日本語訳で尹東柱の詩に親しむこととなった。よくこの本を手にしたのは、20代のころ、自信も持てず展望も見出せないまま研究を続けていて、史料を読んだり原稿を書いたりの一日の終わり(寝る前、酒も入ってました)が多かったように思う。
なお、大村益夫先生の尹東柱についてのご研究は『中国朝鮮族文学の歴史と展開』(緑蔭書房、2003)に収録されており、大村益夫編訳『対訳詩で学ぶ朝鮮の心』(青丘文化社、1998)では、わたしも授業で読んだ「序詩」「星をかぞえる夜」について、先生の訳とともに朝鮮語原文も目にすることができる。
(2) 『日本帝国主義の朝鮮支配』(上・下)朴慶植(青木書店、1973)
20世紀前半の日本にかかわる研究をする者は、植民地・被支配民族の動向を視野に入れる必要があるだろう(たとえ直接、朝鮮・台湾等を扱ったテーマを選ばなくても)。朝鮮についてはこの本がよい入門書となると考える。ただし、品切れなので古本屋でさがすか、図書館で読む他ないのが残念。
(3) 『近現代日本経済史要覧』三和良一・原朗編(2007)
あえて「工具」的な本を挙げた。“インターネットで検索”も時に有益ではある。しかし、こういう本を手元においてあやふやな知識を確認する、本格的な調べものの際には大きな図書館のレファレンスコーナーに張り付く、そういったことを新入生には望みたいので。
(4) 『在日朝鮮人社会の歴史学的研究─形成・構造・変容』(緑蔭書房、2004)
何度も校正したつもりであったが、表の部分で結構恥ずかしい間違いがあった。その話をしたら、ある友人が「表の部分は誰も見ないから大丈夫だよ」と慰めてくれ、うれしくもあり、悲しくもあった。去年、2刷が出て直せたのでほっとした。