赤川 学(人文社会系研究科・文学部准教授/社会学)[東大教師が新入生にすすめる本 2008年「UP」4月号より]
(1) 『文明の衝突』サミュエル・ハンチントン/鈴木主税訳(集英社、1998)
2001年の9・11同時多発テロ以降、「文明の衝突」を予測したとして有名になったが、いまでも21世紀の国際情勢を見通す基本書である。冷戦終結後、グローバリゼーションの進行とともに、地球は「一つの世界」として一極化すると思われたが、実際には8つの文明圏に多極化しつつある。これを「近代化」と「西欧化」のちがい、各文明圏の人口増加率の違い(西欧圏の衰退とイスラム・中国圏の勃興)、地域中核国と周辺国の関係といった視点から説いていくのが斬新だ。
(2) 『2020年の日本人─人口減少時代をどう生きる』松谷明彦(日本経済新聞出版社、2007)
少子高齢化がもたらす人口減少は、21世紀の日本社会に多大な「問題」をもたらすとされる。だがその「問題」とは、人口減少そのものより、現在の経済社会システムに根差す問題だと筆者はいう。ゆえに労働力の拡大や出生率の向上ではその問題は解決できず、人口減少を前提として、日本人の働き方、地域における住まい方、経済成長・年金・財政などの制度設計を論じるべきとされる。独自の将来予測に基づいて、21世紀中盤の日本を構想した貴重な書。
(3) 『学歴と格差・不平等─成熟する日本型学歴社会』吉川徹(2006)
近年、格差をめぐる論争が学問的にも政治的にも熱を帯びているが、本書は、日本に特有な生活構造や社会意識における格差を、職業階層(ホワイトカラー雇用上層/それ以外)、意欲や希望の格差、中流/下流といった要因ではなく、成熟社会における大卒/非大卒という学歴のちがいによって説明しようとする。たいへんな意欲作であり、政治的に熱くなりがちなテーマだからこそ、実証的に洗練された議論が必要であることがよくわかる。
(4) 『子どもが減って何が悪いか!』(ちくま新書、2004)
いまでも時折語られる、「男女共同参画が少子化を止める」とする言説と統計を、批判的に読み解いた。その結果として、(一)男女共同参画は、子どもを増やすという意味での少子化対策としては無効なこと、(二)男女共同参画は仮に少子化を進めるとしても推進すべきであること、(三)少子化を前提としつつ、選択の自由と負担の公平という理念に基づいて、年金や子育て支援の制度設計を見直す必要があること、などを論じている。