松方冬子(史料編纂所准教授/日本近世史)[東大教師が新入生にすすめる本 2008年「UP」4月号より]
(1) 『愛するということ』エーリッヒ・フロム/鈴木晶訳(新訳版、紀伊國屋書店、1991)
原題The Art of Loving「愛する技術」(「愛される技術」ではない)。愛が技術であるならば、自分の意志で習得できるはず。
『それから』夏目漱石(岩波文庫、1938)
『惜みなく愛は奪う』有島武郎(岩波文庫、1945)
などとあわせて、堂々と自立して、生きていくすべを考える材料にしてほしい。
『攻撃』コンラート・ローレンツ/日高敏隆・久保和彦訳(みすず書房、1970)
の、個体同士を識別し親しい関係を築く動物は、同時に縄張りを守って攻撃しあう動物でもある、という主張も示唆的。
(2) 『謎解き 洛中洛外図』黒田日出男(岩波新書、1996)
史料探しの方法、研究史の批判のしかた、など、歴史学の方法論が凝縮されている。
『三国志演義』井波律子(岩波新書、1994)
歴史的事実や歴史書の記述をもとに物語が生成されていく過程を、物語が生まれた時代背景とともに描く。今まで読んだどの「三国志」も、歴史的な重層構造を知ることで、数倍面白く見えてくるでしょう。
『想像の共同体』ベネディクト・アンダーソン/白石隆・白石さや訳(リブロポート、1987)
「国民国家」概念の虚構性を、多くの実例を挙げて指摘した書。今も十分新しい。また、本の推薦という趣旨からはずれるが、なるべく多様な複数の言語を、かじるだけでよいから学ぶことをお勧めする。
(3) 『近代中国政治外交史』坂野正高(1973)
包括的にして緻密、初心者にもわかりやすく頼りになる、卓越した歴史叙述の例。
『近世後期政治史と対外関係』藤田覚(2005)
世界に誇る、日本の日本史研究の精華。このように磐石な国内史研究の蓄積の上にこそ、(4)のような本が書ける。
(4) 『オランダ風説書と近世日本』(東京大学出版会、2007)
オランダ風説書(オランダ人が江戸幕府に報じた世界の時事情報)の作成過程を、オランダ語史料を用いて、現場から明らかにする。「日本史」が「日本」だけでは完結しないことを、感じていただければ幸甚。