唐沢かおり(人文社会系研究科・文学部准教授/社会心理学)[東大教師が新入生にすすめる本 2008年「UP」4月号より]
(1) 『物は言いよう』斎藤美奈子(平凡社、2004)
日常の言葉に無意識のうちに出てしまう、「男とは、女とはこうあるべき」という性役割に関する信念を、著者特有の「少しいじわる」だけどユーモアを交えた書き方であぶりだす。性別などの社会的カテゴリーに、いかにわれわれの思考・言動が縛られているのかを、改めて意識させられる本。
(2) 『科学哲学の冒険─サイエンスの目的と方法をさぐる』戸田山和久(NHKブックス、2005)
私の専門である社会心理学関連の本よりも、むしろこちらを紹介したい。心という不確かなものを「科学的」に扱おうとする心理学に携わっていると、どうしても、「科学とは?」「理論とは?」「何のために研究をするのか?」という問いに突き当たる。もっとも、この問いは学問に携わるすべての人にかかわる、一度は真正面から取り組むべき問いであろう。その作業を助ける書として、また、科学哲学が何者かを知るための入門書としておすすめの書。
(3) 『事故と安全の心理学─リスクとヒューマンエラー』三浦利章・原田悦子編著(2007)
事故のときよく言われるのが、「起こした人の不注意」であり、「事故やエラーを起こさないように、努力し、気をつける」ことだ。しかし、人間は「間違う」動物であり、その認知特性を踏まえて、環境を設計することが重要なのである。認知心理学の視点を中心に、具体的な事故やエラーのケースを取り上げながら、原因の分析や事故防止に向けた提言が述べられており、日常生活の中での安全を通して、人と人工環境がどのように調和していくことが出来るのかを考える助けとなる本。
(4) 『社会心理学』編著(朝倉心理学講座7、朝倉書店、2005)
「人がどのように社会を理解し、他者から影響を受けるのか」という問題を中心に、社会心理学がこれまでに明らかにしてきた知見をまとめた本である。将来、どのような仕事に携わろうとも、「社会の中で人がどのように考え行動するのか」を意識しながら日常の決断をする必要が出てくる。いや、今だって、自分の周りの人たちが「いったい、なぜ、そんなことをするのか」気になるのでは? 社会心理学というレンズをとおして、一度、自分や他人の考え方、行動を分析してみてほしい。