小島 毅(人文社会系研究科・文学部准教授/中国思想史)[東大教師が新入生にすすめる本 2008年「UP」4月号より]
(1) 『十八史略』曾先之
700年前に書かれた中国通史で、江戸時代の知識人の必読書。各種口語訳もあるが、古典ならではの趣は、漢文書き下しの文体で味わうのが一番。というか、この訓読のリズムが近世以降の日本語の文体を形成してきたのである。今の専門(中国思想史)を選択した機縁を作った作品の一つ。
(2) 『中世の秋』ホイジンガ/堀越孝一訳(中公クラシックス、2001)
オランダの文化史家による傑作。近年、ブローデル『地中海』の評判が高いが、思想文化を研究する立場からは本書を薦めたい。こうした全体的な叙述をすることこそ、歴史学の王道だと思うのだが。翻訳は複数あるが、中央公論新社のものが流麗な文体で、読ませる。
(3) 『丸山眞男講義録』丸山眞男(1998-2000)
戦後を代表する学者による法学部での講義の記録。論文よりも要点が簡潔に示されていて理解しやすい。ただし、教師の立場で読むと、授業準備ってこんなに綿密にしないといけないのか、とプレッシャーになる本。
(4) 『中国思想史』溝口雄三・池田知久との共著(東京大学出版会、2007)
昨年(2007年)、10年越しの企画が実って、東大出版会から刊行できた。従来の中国思想史のイメージを塗り替えたいという思いをこめた一冊。思想家や書物の名前をできるだけ減らし、諸子百家のあとの帝政時代にどのような思想的展開があったかに記述の重点を置いた。文系の人はもちろん、理系の人にも読んでほしい本。