窪川かおる(東京大学海洋研究所・先端海洋システム研究センター教授/海洋生命科学)[東大教師が新入生にすすめる本 2008年「UP」4月号より]
(1) 日頃は、インターネットで本を買い、論文をダウンロードし、足を使わずに気軽に文献を入手している。先日久しぶりに一日を本屋のはしごで過ごし、思いがけない出会い続きで本を大量に買い込んだ。本屋へ行こう。さて、乱読の私であるが、ここでは、研究テーマである脊椎動物の生体調節のしくみの起源に関連して、進化と多様性をキーワードに本を紹介したい。
『「四億年の目撃者」シーラカンスを追って』サマンサ・ワインバーグ/戸根由紀恵訳(文春文庫、2001)
1938年に南アフリカで捕獲された魚をシーラカンスだと見破ったマージョリー・コートネイ─ラティマーは、その師とともにこの魚に一生を捧げる。シーラカンスの争奪に関わる人々の話で知られる本書であるが、私は青い魚を守った女性研究者の話として好きである。
『系統樹思考の世界─すべてはツリーとともに』三中信宏(講談社現代新書、2006)
系統樹の話であるが、本論は科学的思考法である。系統とは何かを考えさせてくれる本で、例が豊富で読み易い。最初の一冊には適当な本である。さらなる系統樹思考の解説を求める人には同著者の『生物系統学』(東京大学出版会、1997)もあるが大部である。
(2) 『種の起原』(上・下)チャールズ・ダーウィン/八杉龍一訳(岩波文庫、1990)
紹介するまでもなく有名な本である。今日、人類は自然環境と密接な関係にあること、さらに生物は多様であること、に私たちは気付き、生態系の保全を考えるようになった。今後はますます進化という言葉をいやが応にも目にし、耳にするであろう。最初にダーウィンは何を言ったのか、ぜひ読んでみてください。
『生物学』(上・下)レーヴン、ジョンソンら/R/J Biology翻訳委員会監訳(培風館、2007)
世界の生物学の教科書を重さで比較すると、日本の教科書はとても軽いそうだ。分厚く内容豊富な生物学教科書を翻訳本で学べるようになってきたが、そのうちの一冊。本書の構成は分類系統を柱にしているので私には利用し易い。生物学を学んでいない人にも読み易い内容である。
『シリーズ進化学』(全7巻)(岩波書店、2004-06)
進化学は、生命科学と情報科学の進歩に乗って、たいへん速く進展している。本シリーズで進化の最前線の研究に触れることができる。知識が増えたところで、さらにその先の研究の進展も待ち遠しくなってくる。
(3) 『動物進化形態学』倉谷滋(2004)
解剖学の見識をもって先端生物科学の手法を用いてデータを解析し、進化を考察すると本書になる。形態進化・発生の本質を本書から十分に受け取ることが出来る。頭が目覚めるお薦めの本である。
『両生類の進化』松井正文(1996)
『爬虫類の進化』疋田努(2002)
『哺乳類の進化』遠藤秀紀(2002)
この3冊は、好きな動物たちにこだわる動物学者が、比較生物学の視点に立ち、時には大胆な仮説を出しながら、その動物たちを徹底的に解説してくれる。探求の目は対象への愛情でもある。
(4) 『ナメクジウオ─頭索動物の生物学』安井金也との共著(東京大学出版会、2005)
ナメクジウオに関する論文を総まとめにしたモノグラフ。ナメクジウオに関心を持つ人には必携。