斎藤 毅（数理科学研究科・理学部教授／数学）［東大教師が新入生にすすめる本 2008年「UP」4月号より］
(1) 『楡家の人びと』（上・下）北杜夫（新潮文庫、1994）
大正から敗戦までの時の流れを、著者の一族をモデルに描いた長編小説です。何年かに一度読み返しますが、そのたびに違った面を見せてくれます。
『数学入門』（上・下）遠山啓（岩波新書、1959、1960）
『物理学はいかに創られたか』（上・下）アインシュタイン、インフェルト／石原純訳（岩波新書、1939）
数学の世界と物理の世界の広がりを、はじめて教えてくれました。
『フェルマーの最終定理』シン／青木薫訳（新潮文庫、2006）
数学が創られていく様子を、生き生きと描き出しています。本のもとになったテレビ番組も、感動的でした。
『近世数学史談』高木貞治（岩波文庫、1995）
ガウスは何を考えたのか、日本人最初の世界的数学者が、道案内してくれます。この本を読めるのは、日本語が読める幸せの一つ。といっても、未だに全部解読したわけではありません。
(2) 『解析概論』高木貞治（岩波書店、軽装版、1983）
『解析入門�機�杉浦光夫（東京大学出版会、1980）
時を経ても揺るがないものが、ここにあります。決して読みやすいとはいえませんが、一度身につけたものは、ずっと力になってくれます。
『ファインマン物理学I〜V』リチャード・ファインマンほか／坪井忠二ほか訳（岩波書店、軽装版、1986、IVのみ増補版2002）
駒場以来ごぶさたなので、記憶も薄れてしまいましたが、明快な語り口が印象に残っています。量子力学の巻まで読み進めなかったのが、心残りです。
(3) 『Passages: De France et d’ailleurs』東京大学教養学部フランス語部会編（2001）
人にすすめるというよりも、自分にすすめる一冊。このぐらいすらすら読めるようになれば、世界が違って見えるでしょうに。
『On Campus』東京大学教養学部英語部会編（2006）
こんな教科書だったら、もっと英語が好きになれたかも。語学の先生たちは頑張っていますね。数学も負けないようにしなくては。
(4) 『線形代数の世界─抽象数学の入り口』（東京大学出版会、2007）
一年生の線形代数がものたりなく感じられたら、手にとって下さい。線形代数も奥が深いのです。その先の世界へご案内します。
『数論1・2』加藤和也ほかとの共著（岩波書店、2005）
共著者になってはいますが、あまり仕事をしませんでした。日本数学界の至宝、加藤先生が心をこめて書いた本です。この本で、整数論の勉強を始められる人を、うらやましく思えます。