自衛官の自殺が後を絶たない。上司による「指導」という名のいじめが原因と指摘される事例もある。自衛隊の内部は基地の外からは見えにくい。実態解明へ調査を進め、再発防止に生かすべきだ。
約二十四万人いる陸、海、空自衛隊での自殺者は年五十−七十人で推移していたが、二〇〇四年度に過去最多の九十四人となった。〇五、〇六年度はともに九十三人、〇七年度も八十三人で、十万人あたりの自殺者は三四・四人。
自殺は日本社会全体の問題だが、全国平均の十万人あたり約二十四人や一般公務員の約十八人と比べても、深刻さが分かる。
防衛省も、二十四時間の電話相談窓口を設けたり、自殺者が出た部隊に精神医学や心理学の専門家らを派遣し、他の隊員の心のケアをしている。問題は、自殺の原因を覆い隠さずに調べて再発防止に生かそうとしないことだ。
同省は、事務官も含めた〇三−〇七年度の五年間の自殺者四百七十二人の理由の内訳をまとめている。借財百二人、家庭四十九人、職務四十一人、病苦十四人だが、半数以上の二百六十六人は「その他・不明」である。
イラクへの海外派遣など自衛隊の新たな任務が隊員らにストレスを与えていると、関係者は心配する。一般企業や学校で問題になっている「いじめ」や「パワーハラスメント」も「防衛省として言葉の定義を持っていない」として、実態を把握していないという。
海自佐世保基地の護衛艦さわぎりで一九九九年に首つり自殺した三等海曹の両親が「上司のいじめが原因」として国に慰謝料などを求めた控訴審で福岡高裁は先月、「上司の言動は指導の域を超え違法」と、自衛官の自殺では初めて国の責任を認めた。防衛省は上告を断念し「再発防止に努める」としたが、「いじめだった」とは今も認めようとはしていない。
自殺した隊員の遺族が「いじめが原因」と起こした裁判は横浜と静岡両地裁でも続いている。遺族らは「うやむやにしては、同様に悩んでいる自衛官の自殺は止められない」と提訴した。
自衛隊は軍事機密などを理由に、基地内部で起きたことを外部に公表したがらない。身内だけの調査では限界があるかもしれない。軍人や家族などから苦情や相談があった場合、市民の代表が軍隊内に入って調査できるオンブズマン制度があるドイツなども参考に防止策を考えたい。
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