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社説:敬老の日 楽しく元気に最高の人生を

 腹の立つことは忘れ楽しみを見つけることが長生きの秘訣(ひけつ)▽日記を毎日書いている▽毎朝早起きして欠かさず新聞を読む▽得意のハーモニカで即興演奏▽1日1キロ歩き、近所でお茶を飲み会話を楽しんでいる。

 これらは「敬老の日」にあたって厚生労働省が全国から集めた100歳以上の人たちの暮らしぶりの一端だ。意欲があって行動的、そして日々の楽しみを作る、どれも特別なことではないが、これが長寿の極意なのだろう。

 厚労省によれば、今月末時点で100歳以上のお年寄りは過去最高の3万6276人、前年より3981人増えた。老人福祉法が制定された45年前、100歳以上は153人だったことを考えると、いかに急激に高齢化したかが分かる。

 日本の高齢化のスピードを先進国と比べてみると、かなり速い。総人口に占める65歳以上の割合を高齢化率というが、これが7%だと高齢化社会といわれる。そこで7%からその倍の14%に達するまでの期間をみると、フランスが115年、スウェーデンが85年、英国が47年かかったが、日本はわずか24年間だった。高齢化は今後も止まらず、今世紀半ばには2・5人に1人が高齢者となる。

 少子高齢・人口減少社会が始まっている。すでに高齢社会となっている現実を受け止め、国の仕組みや暮らし方を変えていかなければなるまい。年金や医療、介護制度の見直しを急げと主張するのはそのためだ。制度改革は一朝一夕には進まない。のんびりと構えている時間はない。

 高齢者の年金や医療への関心は高い。だが、政治はその声に応えておらず、不満や不信が高まっている。後期高齢者医療制度への批判が噴き出したのは、その象徴だ。「なぜ、75歳以上を切り離すか」という叫びの背景にある高齢者の気持ちをくみ上げるのが政治の責任ではないのか。

 年金制度は04年に改革が行われたが、消えた年金や標準報酬の改ざん問題などが相次ぎ、信頼は大きく揺らいでいる。年金制度については毎日新聞が提案した「年金の一元化による所得比例+最低保障年金」など、改革案について議論を行って道筋を示し信頼を取り戻す必要がある。

 長寿の国になったことは誇っていいことだ。だが、社会はそんな空気ではない。社会保障が行き詰まり「高齢者はお荷物」という風潮も一部に出ている。高齢者が生きづらい社会は現役世代にとっても望ましくない。時代はめぐる。現役も必ず高齢化する、そのことを忘れるから世代間にあつれきが生まれる。

 戦前、戦後の苦難を乗り越え、日本を支えてきたのは、今の高齢世代だ。大きなことでなくても、暮らしのなかで楽しみを見つけ幸せな日々を元気に過ごす、それが最高の人生だ。

毎日新聞 2008年9月15日 東京朝刊

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