社説
雇用開発機構 地方への丸投げでは困る
政府の「行政減量・効率化有識者会議」が厚生労働省所管の独立行政法人「雇用・能力開発機構」を解体する方針を打ち出した。
必要性の高くない業務は廃止し、民間や地方でできるものは、それぞれに委ねる。有識者会議はそう言う。当然のことだ。問題は必要性のない事業、民間や地方に移した方がいい事業とは何かである。
雇用・能力開発機構は、雇用促進事業団が前身だ。二〇〇七年度当初で職員約四千人、約五千七百九十億円もの巨額予算を持つ。運営の大半は雇用保険料で賄われている。
かつてはスポーツ施設や保養施設などを全国各地に建設し、事業の拡大が国民から保険料の「無駄遣い」との批判を浴びた。その象徴とされた「私のしごと館」(京都府)は総工費五百八十億円も投入しながら、毎年十億円超の赤字を生み、民間に運営を委託する事態となっている。
これらが不要なことは言うまでもない。仕分けが難しいのは、基幹業務の職業訓練部門である。本県を含め全国六十一カ所にある失業者向けの職業訓練などを行う「職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)」が地方に委ねる候補に挙がっているのだ。
だが、単に移管するというのでは課題が多すぎる。財源の移譲や指導員ら職員確保策などは不明のままだ。雇用の安全網を国と自治体がどう役割分担していくのかの議論も乾いていない。
職業訓練事業の質や量が低下するようなことがあってはならない。非正規雇用が全労働者の三人の一人を占めている。ワーキングプア(働く貧困層)の解消も喫緊の課題だ。
ポリテクセンターで離職者訓練を受けた後の就職率は全国平均で八割に達している。本県のポリテクセンター新潟(長岡市)では昨年、二千百二十六人の離職者が訓練を受け、八割超の人が新しい職を持った。地域の雇用ニーズに対応してきた成果だろう。
こうした機能は生かしていかなければならない。県が行っている職業訓練が、ポリテクセンターの地方移管によって、さらにレベルアップすることになるのかどうか。
雇用支援は政府の総合経済対策にも盛り込まれた重点施策だ。機構の業務を地方に移管するなら、財源と人の手当てをきちんと示さなければ、地方への投げ出しになってしまう。
景気が後退局面に入り、失業者の増加が懸念される。政府は一〇年までにフリーターを現在より十一万人減らし百七十万人とする目標を掲げている。
地方移管が無駄遣いの排除に名を借りた雇用対策の縮小になっては困る。地方とすり合わせて、さらに精査すべきであろう。
[新潟日報9月10日(水)]