長崎市立市民病院(同市新地町)の建て替え計画を巡り、河野茂・長崎大医学部長が田上富久・長崎市長に日赤長崎原爆病院(同市茂里町)と市民病院との統合提案をして3カ月。県の公立病院改革プラン検討協議会長崎地域分科会などで議論されているが結論はまだだ。統合か、現在地を軸にした新・市立病院建設を目指す市の計画か、研修医の県外流出防止もにらんだ新たな計画変更もあるのか--。今後の展望を探った。【下原知広】
市民病院は、本館(地下1階地上7階)▽南病棟(地下1階地上5階)▽管理棟(地上4階)--という構成で、病床は414床。老朽化し、最も新しい本館も75年8月建設だ。
病棟の大半は6人部屋で1床当たりの床面積は約50平方メートル。近年の同規模の病院と比べても、床面積は2分の1程度で、早期建て替えの必要性が高まっている。
このため、長崎市は市民病院と長崎市立病院成人病センターを廃止し、現在地と隣接地の約1万900平方メートルに本館(地下1階地上7階)と駐車場棟(地上7階)を15年度中に建設するという新・市立病院計画を立て、07年度から隣接地の用地買収も進めている。そこへ河野医学部長の提案が「降ってわいた」(市幹部)。
河野部長の提案は、市の計画に原爆病院も統合しようという内容のため、市計画の用地では建物は到底収まらず、計画を一から練り直すことになる。市幹部たちは「今ごろ言われてもどうしようもない」と静観しようとしたが、先月31日に開かれた同分科会でも「河野提案」は議論に取り上げられた。
分科会に参加する進藤和彦・原爆病院長が「個人的見解」として、「原爆病院も医師確保が難しく(研修医の流出を避けるためにも長崎市に救命救急センターなど)高機能病院がほしい。市民病院の建て替え時に一緒になってはどうかとの話だが、病院の医師も反対していない」と語ったのだ。さらに「原爆病院も10~15年後には建て替えねばならない。被爆者の平均年齢は75歳で20年後には減少する」とも話した。
「河野提案」は、市が静観しようとしても、次第に波紋を大きく広げている。
田上市長は4日の市議会一般質問で「取り入れられる提案があれば取り入れるが、統合については原爆病院からの正式な提案はなされていない」と答弁し、計画変更の意思がないことを強調したが、状況は市の意思を離れ、混とんの度合いを増す一方のようだ。市民、県民にとって最も幸福な選択は何なのか。再考が迫られようとしている。
〔長崎版〕
毎日新聞 2008年9月14日 地方版