【怪奇大作戦】     怪奇大作戦
スタッフや作品の出来上がりに至るまでなど。


【スタッフ紹介】

撮影風景 監修:円谷英二
プロデューサー:橋本洋二(TBS),守田康司,野口光一
撮影:鈴木清,中町武
照明:小林哲也,羽田昭三
美術:池谷仙克,岩崎致躬
編集:柳川義博
光学撮影:中野稔
助監督:山本正孝,東條昭平
制作:斉藤純一郎,秋丸学
音楽:山本直純,玉木宏樹
16o 30分枠カラー 全26回
TBS PM7:00〜7:30
放映期間:昭和43年9月15日〜昭和44年3月9日
提供:武田薬品


【About 怪奇大作戦】

  この新企画は、科学を悪用して罪を犯す者と、それをあばく者との対立を、特撮技術を駆使して描く新しい映画として計画された。

☆タイトル 怪奇大作戦
☆提供 武田薬品工業株式会社
☆放送期間 昭和43年9月15日より6ヶ月26本 日曜日午後7:00〜7:30 カラー放送
☆ネット局 全国21局 同時放送 (ネット局一覧は割愛)
☆制作 TBS・円谷特技プロダクション共同制作
☆著作権表示 (C)円谷プロ ((C)は○Cマーク)
☆掲載誌
  株式会社少年画報社発行 週間「少年キング」
  株式会社小学館発行 月刊誌「小学一年生〜小学六年生」 月刊誌「めばえ」
  株式会社集英社発行 月刊誌「少年ブック」

作品概要
☆制作意図
米国で実際に起った事件で………
@ある夜、ニューヨーク市で自動車のフロント・グラスが突然網の目のような亀裂を起し、疾走中の車が衝突事故などを起こしかなりの被害が出た。しかも、それが隣接する都市に、通り魔のように連鎖反応的に拡がっていった。FBIが捜査に乗り出し、専門家を動員して調査にあたったが、原因は遂に不明であった。
Aカリフォルニアのある街で、一人の老夫婦が焼死体となって発見されたが、死体の他は椅子も絨毯も壁も焼けた形跡はなく、しかも鍵が内側からかけられて居り、後で死体を運んだとは考えられなかった。この事件は「密室の焼死体事件」として評判になったが、遂に迷宮入りになった。

これに類した怪奇的な事件は、調査によれば、世界各地でかなりの件数が起っています。
なぜ、上のような例話を持ち出したのかと言いますとこの新番組がまさにそのような“現代の怪奇”をモチーフにしたものだからなのです。
これらの恐怖は、現代人を、とりわけ現代っ子たちを、心の底から震え上がらせ、楽しませるもので、毎日の生活の中で見慣れた文明の利器をもう一度恐怖の目で見直すことになると思うのです。
このドラマを制作する意図も又、そこにあるわけです。

☆ドラマの設定
本企画は“現代の怪奇シリーズ”です。
現代、とわざわざ銘打ったのは、所謂怪奇ブームに於ける怪談ばなしとは、明確に一線を引くものだということを認識していただきたいからです。
このドラマには、科学を歪んだ心理で巧みに悪用し怪奇と恐怖の犯罪を企む人間が、毎回登場するということになります。その意味では、“犯罪ドラマ”の形式ともいえます。
『科学を利用して犯罪をおかす者とそれをあばく者との対立を描くドラマ』が基本的な設定です。
犯罪者は、不特定多数で、毎回違う智恵ある悪魔が登場します。彼らは、復讐、私念、欲望、マニア等々、サマザマな目的を持って、自分の望みを達成しようとします。そして、想像を絶する科学的なアイデアとテクニックで、我々を恐怖のドン底にたたき込みます。
彼らは、例えば自動車、電話。コンピューター、テレビ、電気、液体、光波といった日常的なモノを利用して、とてつもない怪奇な犯罪を行うわけです。
ポイントをまとめますと、
1.恐怖を強調すること
  所謂怪奇ブームに於ける怪談ばなしではなく、現代の怪奇をもって行う。
  可能な限り、特撮技術をフンダンに使用した表現方法をとりたい。
2.ドラマを大切にする
  登場人物の性格描写を明確に行う。そこに真のサスペンスは生まれる。
3.大道具、小道具を生かす
  例えば
  @Sジャケット
    SRIが開発した万能ジャケット
    耐熱、耐火、耐水、耐寒のスーパー・ジャケットで、コンパクトになって、所員たちのポケットにおさめられている。
  ASRI乗用車
    イ.三沢のスポーツ・カー
    ロ.野村のゴーカート


【金城哲夫の残したメモ】

 昭和43年1月12日のウルトラセブンの後番企画会議席上で、金城哲夫は以下のようなメモを残していた。
 セブンで言えばキングジョーの話が放送されている頃だが、妖怪アニメ「ゲゲゲの鬼太郎(旧)」の放送は既に始まっていた。
 また同年春からは、スポ根アニメの名作「巨人の星」が、3年以上という長きに渡る放送の幕を開ける。


 チャレンジャー サイエンサー(タイトル候補?企画会議の際に挙がったものらしい)
●科学サスペンス(人間恐怖シリーズ)
●時代設定 現代
●対象 3〜12歳を中心とする家庭一般
●放送 (日)PM7:00〜7:30
●一話完結 30分 カラー
●東宝作品 ガス人間、電送人間、液体人間のSFサスペンスシリーズ
●科学の裏側からの挑戦 <悪対正> 対立
誕生
 科学警察庁に三人の優れた科学捜査班があった。科学を悪に利用しようとする者と対決する組織で、3人は隠密的な行動班である。彼らはスマートな紳士で、チームワークがよく、頭脳も優れていた。武器を最後のギリギリまで使用せず人間の知恵と行動力で解決することを目的とした。
 彼らは、科学が発達するあまり、置き忘れた“人間性”回復への担い手である。ドラマは歪められた人間心理の生み出す非常な姿をうつしながら、いつの時代でもヒューマニティが根本であることを謳いたいのである。
◎松任谷 まつとうや(24才)ヒーロー
◎小林(36才)智、科学者
◎川合(50才)驚くべき体力を持った老人、人生
●敵は常に科学を悪用する者!
−不特定多数−
復讐・私念・権力欲・狂的・世界征服マニア・物欲・悪質な妨害・盗・魔がさす

 「怪奇大作戦」の原型だが、タイトルは当然まだ別名で、人物設定もここでは警察組織の一部になっている。
 人物の松任谷の欄にヒーローとあるため、流れ的にはまたウルトラシリーズ的番組かとも思えるが、下記の記述からそうでないことが判る。


●ウルトラQシリーズではない
●ウルトラマンやセブンのようなスーパーヒーローは登場しない。
●怪獣や宇宙人は登場しないが、科学の生き生きとした怪物はしばしば登場する
●派手な特撮シーンはないが、サスペンス一杯の、ジワーッと恐怖に手に汗握る場合あり
●素材36話分用意のこと
●専門家から話を聞く会を持つ 3月上旬円谷プロでセッティングする
 ・古代生物研究家
 ・物理学
●怪奇類・科学類の参考書を探す

 “脱ウルトラ”であり、専門家の知恵を借りるという事から、完全絵空事の“空想”シリーズでもない事が伺える。
 そして2月27日の企画会議上で、新企画が犯罪ドラマ路線であることが確認。


●高年齢層を狙うには全ての視聴率が低くなる
●ぬいぐるみを武田側極力避けて欲しいとの要望あり
●怪奇・恐怖を押す線と科学心理を押す線
 (中略)
●現代科学で考えられる現象・事象を対象に取り上げる
  怪生物 怪植物  リアリティを重視する
              科学性のアプローチ
 (中略)
●最大の問題
  面白いストーリー  ◎シナリオライター
  登場人物の性格
  小道具のメカニズムを大切に  ◎演出家

 この打ち合わせで、タケダアワー枠の新たな円谷特撮シリーズの骨格が出来上がる。この後4月にTBSで行われた打ち合わせで、キャスティングやクランクイン時期などの話し合いが行われた。
 結果として未使用に終わるものの、木村武、安藤日出男、浅間虹児、小川英、大川久夫といった発注ライター名が席上で挙がる。いずれも円谷作品未経験者。これはつまり、今までの円谷(金城)カラーを壊し、新たな風を取り入れようとした考えだろう。
 キャスティングについては、原保美、小林昭二、小橋令子の3人は決定していたが、岸田森、勝呂誉、松山省二の3人は名前すら挙がっておらず、この時点では高橋幸治、石立鉄男、高橋元太郎の名前が挙がっていた。
 他に田村正和も候補だったことは有名。




 昭和44年3月9日、時代の生み出した怪作「怪奇大作戦」が終了。『脱ウルトラ』を目指し、試行錯誤の末に完成させた新生円谷特撮作品だったが、本作を最後に円谷・タケダアワーは終了。(後番組は佐々木功主演による「妖術武芸帳」。)
 ウルトラを作った男たちはそれぞれの道を歩き出す事となる。
 そして昭和45年、特撮の神様・円谷英二死去。第1次ウルトラ時代は完全に幕を下ろすのであった。
 「オヤジの築き上げたモノを消してはイカン!」とばかりに円谷一は、昭和46年「帰ってきたウルトラマン」を制作。第2次怪獣ブームの時代到来である。しかしこの直後、円谷一も急死(昭和48年)。
 一方、一と共に円谷を支えてきた金城哲夫も昭和44年に円谷を退社し、故郷沖縄へ帰郷している。昭和50年開催の沖縄海洋博の演出を手がけたりとの活躍をしたが、海洋博終了直後の昭和51年、酒に酔い、自宅の階段から転落し、帰らぬ人となってしまった。

 そんな金城哲夫が帰郷前に書き残した一本の企画書、『超人X(仮)』というヒーロー物がある。


○ヒーローもの
  怪奇大作戦・巨人の星・ウルトラセブンの三作品をミックスした、より高度な線を狙ったもの。
@超人X(仮)  神秘性のあるヒーロー
  父親によって造られた超人。あらゆる鍛錬を行い、怪人・超人・魔人となり、父親のコントロールに従って悪事を犯し社会を混乱させる。だがその超人的なすごさに彼のファンも現れるほどで、いわば憎めない悪人の形をとる。
A怪人二十面相があれば明智小五郎がいるように、このシリーズにも超人Xに挑戦する警視庁の特命グループZ(SRI的なもの)がある。
Bこの企画はX対Zの知力の闘いを描くことがまず狙いの一つである
C超人Xは父親の厳しい鍛錬のプロセスで人間的な感情・情緒を失っており、冷徹そのもののクールな男である。だが彼の幼児期に接した今は亡き母のイメージがあり、その母にそっくりの少女(マーサ)との交流によって次第に人間的感情がよみがえってくる。超人Xの内面的な世界を展開することももう一つの狙いである。
Dやがて超人Xは自分をコントロールしてきた父を殺す。そして自分の犯した罪の大きさを知り自らを葬ろうとするが特命グループとマーサの力で次第に社会人としてはぐくまれ、正当な裁判の席に立つ。
E裁判は厳しい論争が行われる。
  超人Xは人間ではなく造られた人造人間である。
  感情的にも粗野であり社会人として受け入れることは出来ない。だが、超人Xは次第に正常な人間として、未来人としての認識が一部の人々から認められて超人Xは救われる。
Fマーサと超人Xの愛
G未来に於ける人造人間と普通の人間のあり方への(心臓手術が進歩した)結論が出されたのである。
Hシリアスに、厚みのあるドラマで

問題点
@海野十三の「火星兵団」のマルキ的に憎めない、ヒーローとしての悪をいかにして作るか
Aコスチュームの件
  超人としての限界と超人としての具体性
  鍛錬によって造り出された人間
B人間関係
  レギュラーの置き方
C悪を働く動機(父親の)
  心情
Dシリーズの興味の集点
E悪事の内容  ゲーム的? 挑戦的?
(中略)
父親の動機
○自分を苦しめ続けた警察へのあくなき復讐の執念、冤罪
○自分がなり得なかったものを息子に託して超人を育成する。

 さらに金城はこんな一言も。
○現在の我々と同じ延長線上で超人Xをとらえる姿勢を………



 以上の「金城哲夫メモ」は、「怪奇大作戦 パーフェクトコレクション」封入のブックレットに記載されていたものから。
 超人Xを我々と同じ延長線上で見ると言うことは、つまりマンやセブンのような特別なヒーローではなく、怪奇大作戦で描いた恐怖人間的なキャラクターであるという事だろうか。
 この企画会議の日付は昭和43年10月31日。既に怪奇大作戦の放送は始まっている。怪奇大作戦・巨人の星・ウルトラセブン。「巨人の星」は非円谷作品だが、超人Xとその父親との関係と言うことで、ここに書かれたのであろう。セブン後期から参加した橋本プロデューサーにより金城カラーは塗りつぶされたと言われている。怪奇大作戦でも金城カラーはつぶされ、そしてこの「超人X(仮)」の企画。
 始めは悪の人造人間「超人X」。だが最後は人間と心が通う。文字だけでは実際の所どういった話になるのかはよくわからない。「超人X」を恐怖人間的キャラとして考え、それに対するSRI的なチーム「特命グループZ」。例えとして挙げられた三作品の中に怪奇大作戦があるのは、自分なりの怪奇大作戦が作中描けなかったと言うことからか。




【怪奇大作戦 シナリオメモ】

 怪奇大作戦の前身案「チャレンジャー」用に用意されたシナリオを数本紹介。

魔のシネグラス………フロントグラスの風景が突然変化し、乗用車が次々に谷底に転落する。SRIの三人が、フロントグラスの“怪”をあばき映画の画面にように自由に風景の変えられるシネグラスを悪用した犯人をつきとめる物語。
恐怖の五時間………ある生化学研究所から委託された“恐怖の細菌カプセル”を積んだセスナ機が嵐のために某山中に墜落した。たまたまキャンプ中の数人の男女は、山崩れのために孤立し、しかも壊れたカプセルから侵出した細菌のために生命の危機にさらされる。SRIは決死の救出作戦に従事し、死直前のキャンパーたちを助け出す。
吸血こうもり………こうもりの周波数にあわせて、自在にこうもりを操り、洞窟の隠れ場を守る密輸の犯人ども。SRIの出勤で、こうもりを逆に操作し犯人を襲わせる。
アイスマン………南極で行方不明になった安藤隊員が、冷凍人間となって東京に舞い戻っていた。恐怖の復讐ドラマ。
サイレンサーMQ………SRIの武器庫から開発中のサイレンサーが盗まれた。犯人は、銀行を襲い、殺人を犯し、悪の限りを尽くす。追いつめられた三人が、生命を賭して、サイレンサーを奪い返すまでのサスペンス・ドラマ。
研究室午前二時………医大の死体安置所から、数体の屍体が盗まれた。10日後サマザマに改造された人間たちが夜の東京に現れた。SRIは、その改造人間が、盗まれた屍体のよみがえりであることを突きとめ、改造人間を操る悪魔のような科学者をタイホする。
幽霊を売る男………紫外塗料で壁に描いた絵を幽霊に見せかけ大もうけをたくらむ男。SRIで幽霊の正体をあばくスリラー編。
超人対人間………透視力、念動力を持ったエスパーが、SRIに挑戦してきた。新兵器対超能力者のアクション・ドラマ。
出現と消滅………京浜工業地帯の大爆発事件。ポリケミカルにまつわる陰謀をSRIの活躍であばくドラマ。



その他のシナリオに関する情報

昭和43年5月31日 <チャレンジャー>
細い手……………砂田量爾
その受話器を外すな……………浅間虹児(キャンセル)
死神と話した男たち……………佐々木守
フランケン1968……………金城哲夫
霧の神話(プロット)……………市川森一

台本 昭和43年6月25日 <チャレンジャー>
海王奇族……………金城哲夫
恐怖のチャンネルNo.5……………福田純
殺人回路……………市川森一

昭和43年7月26日 <怪奇大作戦>
人喰い蛾……………金城哲夫 第1話
壁抜け男……………上原正三 第2話

昭和43年8月27日
白い顔……………金城哲夫/上原正三 第3話・共作
死神の子守歌……………佐々木守 第5話
恐怖の電話……………佐々木守 第4話(準備稿題名:死神と話した男たち)
半魚人(プロット)……………市川森一

台本 昭和43年9月26日
吸血地獄編……………金城哲夫 第6話
青い血の女……………若槻文三 第7話
光る通り魔……………上原正三/市川森一 第8話・共作
平城京のミイラ……………石堂淑朗 準備稿

昭和43年10月28日
散歩する首……………若槻文三 第9話
ジャガーの眼は赤い……………高橋辰雄 第10話
氷の死刑台……………若槻文三 第12話
オヤスミナサイ……………藤川圭介 第14話
霧の童話……………上原正三 第13話
死を呼ぶ電波……………福田純 第10話

昭和43年11月27日
水棲人間……………上原正三 第15話
呪いの壺……………石堂淑朗 第16話
盗まれた仏像……………佐々木守 第17話
かまいたち……………上原正三 第18話
伝説の海……………清川栄三 第20話
ジャガーの眼は赤い……………若槻文三 第10話(ジャガーの眼は赤い・直し手伝い)

昭和43年12月26日
死者がささやく……………若槻文三 第20話
こうもり男……………上原正三 第21話
殺人回路……………市川森一 第22話
死を配達する男X……………若槻文三(キャンセル)
殺人回路……………福田純 第22話(市川脚本改定に依るため)



 制作意図@を脚本化したような「魔のシネグラス」は、本編でいう「ジャガーの眼は赤い」だろうか。「吸血こうもり」はタイトルだけ見ると「こうもり男」の原型のようだが、ストーリー的には「幻の死神」にも思える。「アイスマン」は素直に「氷の死刑台」の原型だろう。姿形は違ってもそのエッセンスは本編に生かされている。
 「出現と消滅」は牧の父親のエピソードを、「超人対人間」は金城哲夫の「超人X(仮)」を彷彿させる。

 キングアラジンや燐光人間のように、本作には、円谷英二が東宝映画で作った「美女と液体人間」、「ガス人間第1号」などの「変身人間シリーズ」がベースとなっている事がうかがえる。この事を裏付けるものとして、「チャレンジャー」時代の企画書には、「変身人間シリーズ」を「恐怖人間シリーズ」として放映する意向も記されていた。
 上記作品にもそれぞれ、冷凍人間(「アイスマン」)、屍体の改造人間(「研究室午前二時」)、エスパー(「超人対人間」)といった、変身人間が登場している。さらに企画時に円谷が局へ提出した検討用台本「細い手」には軟体の、「フランケン1968」には不死身の恐怖人間たちが登場していた。
 (この「フランケン1968」には、「少年ジェット」のシェーンをも思わせるペスという犬が登場する。“SRI犬”と記されているので、いわゆる警察犬のような役どころだろう。)

 これを検討したTBSは、準備稿「死神と話した男たち(後の「恐怖の電話」)」を制作。“科学犯罪の恐怖”を人間ドラマで描く、怪奇大作戦の主流路線作品で、この時点で本作の路線がほぼ決定していたようだ。
 次にTBSは「恐怖人間」の企画用に、同路線作品「殺人回路」を発行。円谷側も“犯罪娯楽活劇”作品として、東宝の福田純による「恐怖のチャンネルNo.5(後の「死を呼ぶ電波」)」を制作。同時に、先の「死神と話した男たち」を円谷台本版としても発行する。

 紆余曲折の末、作品タイトルも「怪奇大作戦」に決定され、“脱・空想特撮シリーズ”の徹底に終始していた。しかし制作の土壇場に来て、円谷の主流路線企画にも関わらず棚上げされていた『空想』が、「蛾(金城哲夫)」と「燐光人間(上原正三・市川森一)」という2冊の局用意の準備稿として復活。
 「蛾(後の「人喰い蛾」)」は改造人間路線よりも空想度を押さえてはいるものの、科学犯罪のアイテムとしての怪生物もの、「燐光人間(後の「光る通り魔」)」は主張を具えた怪物路線として完成する。



プロデューサー・橋本洋二
 橋本洋二。怪奇を語る上で外せない人である。
 「コメットさん(旧)」を手がけた人物でもある橋本洋二は、セブンの後期から円谷作品にプロデューサーとして参加、続く怪奇大作戦でその本領を発揮させたと言われている。

 「トワイライトゾーン」的に本作を捉えていたという脚本家・市川森一に対し、橋本はあくまでも怨念であると言う。社会的に認められているものに対しての怨念や執念。戦争への怨み。公害や環境破壊への怒り。そして人間への怨み。
 従来の娯楽的要素やファンタジックな円谷カラーではこの作品は成功しない。円谷カラー。それはイコール、メインライターであった金城哲夫カラーと言ってもいいだろう。橋本カラーと金城カラーの怪奇大作戦はなかなか交わらず、その考えの違いでの対立もあったようだ。
 沖縄には、米軍魚雷により沈んだ疎開船対馬丸の伝説というものがあり(魚雷で沈んだその日になると亡霊が現れるという話)、橋本はこれを題材に金城に書けないかと頼むが断られてしまう。時期的に「マイティジャック」に携わっていたという事もあったようだが、それよりも“書けなかった”のだろう。あまりにも身近な出来事過ぎて。(後に橋本は「実に軽薄なことを言った」と後悔している)

 こうして、さまざまな怨念や執念の入り交じった怪作は完成した。そこには従来の娯楽性あふれる円谷カラーは無く、橋本カラーで染まった人間ドラマがあった。
 時代の生んだ『現代の怪奇』。それは歪んだ人間の心を現した内容であった。
 手品に失敗したことから常軌を逸してしまった天才奇術師。娘への歪んだ愛から生じる連続殺人。親元から巣立ちした子供を「裏切り」と解釈する老人。己の実験を成功させるためだけの連続殺人。終戦を知らずに戦争を引きずり続けた哀しい兵士。目的のハッキリしない無差別殺人を続けるおとなしい工員。美しさを妬まれた女の、美に対する復讐劇。
 今ではオンエアー不可能な「狂鬼人間」は、法の盲点をついた社会に対する復讐劇であり、完成度は高い。
 さらに、マニアに絶大なる支持を持つ実相寺昭雄監督作品。病気の妹を治すためには殺人者となることも厭わない科学者の兄。京の町を愛するが故の仏像盗難事件。そして仏像と共に生きることを決めた女の末路。
 これらはまさに時代と、橋本洋二によるパワーが産み出した異色作であると言えるだろう。

 この後の橋本は、怪奇終了後作品である「妖術武芸帳」、続く同枠でのスポコンドラマ「柔道一直線」、これまたマニアに人気の「シルバー仮面(シルバー仮面ジャイアント)」、「アイアンキング」、そして第2期ウルトラシリーズを手掛ける事となる。



【タイトル・スタッフ一覧表】

放送制作サブタイトル脚本監督特技放送日
0102壁抜け男上原正三飯島敏宏的場徹1968.09.15
0201(B)人喰い蛾金城哲夫円谷一的場徹1968.09.22
0303白い顔金城哲夫
上原正三
飯島敏宏的場徹1968.09.29
0404恐怖の電話佐々木守実相寺昭雄大木淳1968.10.06
0505死神の子守唄佐々木守実相寺昭雄大木淳1968.10.13
0606吸血地獄金城哲夫円谷一的場徹1968.10.20
0707青い血の女若槻文三鈴木俊継高野宏一1968.10.27
0808光る通り魔上原正三
市川森一
円谷一的場徹1968.11.03
0909散歩する首若槻文三小林恒三大木淳1968.11.10
1011死を呼ぶ電波福田純長野卓的場徹1968.11.17
1110ジャガーの眼は赤い高橋辰雄小林恒夫大木淳1968.11.24
1213霧の童話上原正三飯島敏宏的場徹1968.12.01
1312氷の死刑台若槻文三安藤達巳高野宏一1968.12.08
1414オヤスミナサイ藤川桂介飯島敏宏的場徹1968.12.15
151524年目の復讐上原正三鈴木俊継大木淳1968.12.22
1618かまいたち上原正三長野卓高野宏一1968.12.29
1719幻の死神田辺虎男仲木繁夫的場徹1969.01.05
1820死者がささやく若槻文三仲木繁夫的場徹1969.01.12
1921こうもり男上原正三安藤達巳大木淳1969.01.19
2022殺人回路市川森一
福田純
福田純佐川和夫1969.01.26
2123美女と花粉石堂淑朗長野卓的場徹1969.02.02
2224果てしなき暴走市川森一鈴木俊継佐川和夫1969.02.09
2316呪いの壺石堂淑朗実相寺昭雄大木淳1969.02.16
2425狂鬼人間山浦弘靖満田かずほ的場徹1969.02.23
2517京都買います佐々木守実相寺昭雄大木淳1969.03.02
2626ゆきおんな藤川桂介飯島敏宏佐川和夫1969.03.09
--01(A)人喰い蛾金城哲夫円谷一的場徹未放映


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