Go to the Foreign Affairs Japan home page
 
HOME | アーカイブ | 立ち読みコーナー | 購読案内 | インフォメーション
フォーリン・アフェアーズ日本語版 2008年1月号
 
  CFRミーティング 
世界屈指の金融のプロが読み解くドル安と世界経済
――ドル安、インフレ、サブプライムの行方

スピーカー
 リチャード・クラリダ/元米財務次官補(コロンビア大学教授) 
 ジェームズ・グラント/グランツ・インタレストレート・オブザーバー誌編集長
 ベン・ステイル/米外交問題評議会シニア・フェロー
 ジョン・B・テイラー/元米財務次官(スタンフォード大学教授)

司会
 マイケル・J・エリオット/タイム・インターナショナル誌編集長
 
 
ドル体制の崩壊やクラッシュシナリオが現実と化す可能性は低い。現在のシステムが進化し、そこでもドルは重要な役割を果たすが、世界規模でのドル建て資産の規模は縮小していく。これが未来像だろう。(R・クラリダ)

現在われわれが経験しているのは非常に深刻な信用収縮だ。私はFRBによる利下げが解決策になるとは思っていない。市場で問われているのは「信用リスクの問題」だからだ。……銀行が他の銀行に融資するのをためらっているのは、相手がどのような財務状況なのかわからないからだ。この問題が解決されるまでは、金融市場は混乱した状況から逃れられない。(B・ステイル)
世界は、この紙切れに価値を見いだしてきたが、いまや、この紙切れの価値を支えるものが何であるかを考えだしている。(J・グラント)

経常収支の赤字が大きくなればなるほど、ドル安に振れると考えられてきた。だが、経常赤字は縮小しつつある。これには、サブプライム問題が関係している。この問題が生じたために、投資も住宅販売も不調になった。その結果、貯蓄も投資も下降線をたどり、経常赤字の調整が進んでいる。(J・テイラー)
 

 
  政府系ファンドを考える

CFRブリーフィング
 
 
政府の資金を管理・運用するためにファンドをつくるのは何も目新しいことではない。だが、この5年にわたって、既存の政府系ファンドが保有する資金が大幅に増えているだけでなく、数多くの政府系ファンドが新たに立ち上げられている。国際通貨基金(IMF)は2007年9月に、政府系ファンドが管理する資金を3兆ドルと試算し、2012年までにその額は12兆ドルへ達すると予測した。これは、世界最大の政府系ファンドが、世界最大の企業に匹敵する資金を持つようになることを意味する。その規模の大きさと増殖ペースの速さゆえに、いまやエコノミストだけでなく、政治分析者も政府系ファンドの動向に大きな関心を寄せている・・・
 

 
  インフレ懸念と景気刺激策のジレンマ

CFRブリーフィング
 
 
インフレ率の高まりはどの程度のインパクトを世界経済に与えるのだろうか。世界の中央銀行当局が金利に関する難しい判断をしなければならない状況にあるだけに、ここでインフレ率が上昇すればかなりの衝撃になると考える専門家は多い。消費者物価が上昇すれば、各国経済は大きな問題を抱え込むことになるし、インフレ懸念が高まってくれば、中央銀行当局の金融政策上の選択幅も狭まり、その多くが過少流動性に苦しむ銀行を助けるのも難しくなってくるからだ・・・
 

 
 

米経済の景気減速と地政学リスク

CFRブリーフィング

 
 
リセッションに陥ればアメリカの企業や銀行の買収に触手を動かす世界の投資家はますます多くなるし、とりわけ、潤沢な資金を持っている中東やアジアの政府系ファンドの動きが活発になると考えられる。「中東と東アジアの政府系ファンドが手を組んで、米企業の最高経営責任者(CEO)を追い出そうと試みればどうなるか」とCFRのセバスチャン・マラビーは最近のワシントン・ポスト紙のコラムで指摘し、アラブ首長国連邦のドバイ・ポーツ・ワールドがアメリカの港湾施設の運営権を獲得しようとした際に起きたような騒ぎが、今後数多く展開されていくことになると指摘している・・・
 

 
  CFRインタビュー
対北朝鮮交渉の進展は期待できない

ゲリー・セイモア/米外交問題評議会副会長兼研究部長
 
 
「6者協議での合意の一環として、寧辺(ヨンビョン)の原子炉と使用済み核燃料再処理施設の双方を無力化することになっているが、北朝鮮はその無力化のペースをゆっくりとしたものにしている。平壌は、約束されている重油の提供がゆっくりとしか進んでいないことをその理由に挙げている。なぜ重油の提供がスムーズに行われていないか。それは、もう一つの合意事項である核開発計画の全貌を2007年12月31日にまでに申告するという約束を北朝鮮側が果たしていないからだ」。合意の進展が膠着状態に陥っている背景をこう分析する核拡散問題の専門家ゲリー・セイモアは、「北朝鮮は6者協議の核解体プロセスを塩漬けにして、アメリカに次期大統領が誕生するのを待って、その後、交渉を再開したいと言い出すつもりかもしれない」と指摘する。「1年後も北朝鮮の核(問題)は現状のままであることが、ますますはっきりしてきた」と述べ、北朝鮮への新たな戦略の採用を促したジェイ・レフコウイッツ米特使の発言についても、「北朝鮮は、少なくとも、2008年の間は核兵器の放棄に応じるつもりはない、とブッシュ政権の高官の多くが考えていることを、彼が公の場で述べたにすぎない」と語った。「北朝鮮はまともな申告を提出しそうにはなく、プロセスは膠着状態に陥ったままだろうし、そうだとすれば、対応はアメリカの次期政権に委ねられることになる」と。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。
 

 
 再度、流動化しだした北朝鮮情勢

CFRブリーフィング
 
 
北朝鮮が再度孤立しつつあることを近隣諸国は懸念している。北朝鮮に関与しつつも、保険策をとりだした国もある。大統領選挙キャンペーンで北朝鮮に対してより強硬な路線をとることを掲げ、選挙に勝利した韓国の李明博(イ・ミョンバク)次期大統領は、統一省の外交通商省への再編を計画している。李明博は南北和解路線を今後も継続するとしつつも、北朝鮮に対する韓国の軍事力強化を目指すことも明言している。すでに北朝鮮は、韓国との(南北の鉄道協力分科委員会の)今年最初の交渉を延期すると伝えてきており、専門家のなかには、これを韓国に保守政権が誕生することに対する平壌の警戒感の表れとみなす者もいる・・・
 

 
 CFRミーティング
戦火のもとでも成長するイスラエル経済の強さとは
――錯綜する環境のもとでの繁栄の秘密

スピーカー
 スタンレー・フィッシャー /イスラエル銀行総裁

司会
 ヤコブ・A・フランケル /元イスラエル銀行総裁
 
 
「平和がなければ成長することはできないと言われながらも、われわれの経済は成長している……戦争が起こり、軍事支出が重なった2006年でも、財政赤字は国内総生産(GDP)の1%以下だった。……戦時下においても、どのように行動するべきなのかを経済人が理解している。……和平合意がなくともイスラエル経済は成長できると私は考えているが、合意があれば成長はもっと速くなるだろう。イスラエル経済が10年にわたって6、7%で成長することは不可能だと断定できる材料はどこにもない。それどころかイスラエルは、経済成長に必要な要素をすべて備えている。所得レベルはアメリカの約半分で一人当たりGDPは2万3000ドル程度。まだまだ上昇の余地が残されている。労働力の質も高く、1990年代にソビエトからのユダヤ系移民によって熟練労働力が拡充された。経済成長に必要な要素がすべてそろっていることを考えると、安全保障の問題が解決されれば、経済成長はさらに加速するはずだ」
 

 
  CFRインタビュー
先の見えないイラクとアフガニスタン

アンソニー・H・コーデスマン/戦略問題国際研究所戦略問題担当議長
 
 
「勝利を収め、治安を確保し、再建する」というのは簡単な手続きに思えるかもしれないが、歴史的にみて、軍事的に勝利を収めても、援助を与え、現地政府がプレゼンスを確立し、サービスを提供できる程度に治安を安定させ、国を再建できるようにならない限り、軍事的な勝利も瞬く間に陳腐化する。イラクもパキスタンもこのリスクに直面しているとみる軍事問題の専門家アンソニー・コーデスマンによれば、イラク南部では二つの武装勢力が権力抗争に向けた準備を整えつつあり、一触即発の状態にあるし、アフガニスタンにおいても2008年の春にタリバーンが再攻勢に転じ、深刻な危機をつくりだす恐れがある。そうでなくても、2月に予定されているパキスタンの議会選挙が実施されるかどうかを含めて、このタイミングで危機が生じる恐れがあり、その結果、パキスタンがタリバーンやアルカイダが好きにできるような混乱に陥っていく危険がある。「パキスタンの選挙からアメリカの大統領選挙が終わるまでの間に、われわれは、突如として愕然とするような事態に直面する危険がある」と同氏は語った。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。
 

 
  ミャンマー軍事政権への多国間アプローチを調整せよ

マイケル・グリーン/戦略国際問題研究所日本部長
デレク・ミッチェル/戦略国際問題研究所上級研究員
 
 
麻薬・武器の密輸、HIVの拡散など、ミャンマーの軍事政権は国内の人権問題や抑圧だけでなく、国境地帯を不安定化させて近隣諸国も脅かしている。これまで、アメリカはミャンマーとの外交関係を制限し、ヨーロッパも政治改革の断行を強く求めてきたが、アジア諸国の多くは、軍事政権との貿易、援助、外交関係を拡大してきた。幸い、こうした国際社会の矛盾したアプローチも変化しつつある。東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本はすでにミャンマーへの建設的関与路線を見直しつつある。内政不干渉の原則を固持し、資源調達がらみの思惑からミャンマーを支援してきた中国とインドにも再考を促す必要がある。各国がそれぞれ一定の譲歩を示し、政策を調整することによって、共通の目標に向けて状況を進めていかなければならない。ミャンマー制裁を他の関与策とバランスよく組み合わせて包括的に実行しなければならない。ミャンマーがさらに孤立して自暴自棄に陥り、失われた世代が生まれるのを傍観するわけにはいかない。人道的な理由もさることながら、ミャンマーは東南アジアの安全保障と統合を阻む未解決の深刻な課題なのだから。
 

 
  [Review Essay]
エルサレム・シンドローム
――イスラエル・ロビーの力はなぜ過大評価されるのか

ウォルター・ラッセル・ミード/米外交問題評議会シニア・フェロー
 
 
「アメリカがイスラエルに尋常でない物的援助と外交支援を行っているのはおもにイスラエル・ロビーの働きかけの結果であり、このように漫然と無条件の支援を行うのは、アメリカの国益に合致しない」。両国共通の戦略的利益や価値観が形骸化してきているにもかかわらず、アメリカがイスラエルと同盟関係を維持しているのは、そうした空白をイスラエル・ロビーが埋めているからに違いない。これがミアシャイマーとウォルトが『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』で言いたかったことなのかもしれない。だが二人は、ワシントンの特定の路線が、イスラエル寄りの政治活動の結果なのか、アメリカの政策や戦略的利益の関係を考慮した結果なのかを区別せず、間違った判断を下しているし、そもそも「イスラエル・ロビー」とは何かを明確に定義していない。
 

 
  中国の台頭と欧米秩序の将来

G・ジョン・アイケンベリー/プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共・国際問題大学院教授
 
 
台頭途上にある大国は、新たに手にしたパワーを基に、自国の国益に即したものへと国際的なルールと制度を書き換え、グローバルシステムにおける、より大きな権限を手にしようと模索し、一方、衰退途上にある国は、影響力の低下を懸念し、それが、自国の安全保障にとってどのような意味合いを持つかを心配し始める。この瞬間に、大きな危険が待ち受けている。だが、新興大国が秩序に挑戦するか、それとも、自らを秩序に織り込んでいこうとするか、その選択は、目の前にある国際秩序の性格で大きく左右される。重要なポイントは、相手がアメリカだけなら、中国が(覇権国としての)アメリカに取って代わる可能性も排除できないが、相手が欧米秩序であれば、中国がそれを凌駕し、取って代わる可能性は大きく低下するということだ。ワシントンがそうした環境づくりに向けてリーダーシップを発揮するつもりなら、現在の秩序を支えているルールと制度の強化に努め、この秩序をより参加しやすく、覆しにくいものにしなければならない。
 

 
  ロシアとの新冷戦を回避するには
――なぜロシアは対米不信に陥ったか

ディミトリ・K・サイメス/ニクソンセンター所長
 
 
アメリカが犯した最大の間違いは、ロシアを「敗北したかつての敵」として扱ってしまったことだ。だが、ロシアは変貌を遂げた国ではあっても敗戦国ではなかった。ロナルド・レーガンがクレムリンへの圧力を強化することで、解体プロセスを後押ししたのは事実だが、ソビエト帝国の歴史に終止符を打ったのは、ホワイトハウスではなく、ゴルバチョフだった。この点を理解しなかったワシントンは、ロシアのことを潜在的なパートナーとしてではなく、財政力に欠け、機能不全に陥った弱体な国家とみなし、ソビエトの新生国家を可能な限りアメリカ側に取り込むことで、ソビエトの解体というトレンドをさらに間違いのないものにしようと考えてしまった。そしていまや、再生したロシアがアメリカの敵対勢力になるリスクは現実味を帯びてきている。そうした現実に直面するのを回避するには、ワシントンは何が問題だったのかを理解すべきだし、関係悪化という流れを覆すための適切な措置をとる必要がある。
 

 
  ポスト京都の地球温暖化対策をめぐる混乱

FAJブリーフィング
 
 
ポスト京都に向けた動きは始まっているが、今のところ具体的な道筋は見えていない。ヨーロッパは温室効果ガス削減の「数値目標」にこだわり、一方、京都合意に参加しなかったアメリカは、数値目標の受け入れを依然として拒絶し、規制や使用効率の改善などを通じた「自主的で市場経済的な」温暖化対策を求めている。G8諸国のなかで唯一京都合意に調印しなかったのがアメリカだ。2001年、ブッシュ大統領は、京都合意への参加は「アメリカ経済にダメージを与えるし、途上国の排出国が参加していない」という理由から条約への参加を見送った。最近では温暖化対策にこれまでよりは前向きになっているとはいえ、今もブッシ政権は排出枠の数値目標の受け入れには難色を示している・・・
 

 
  地球温暖化でワイン生産者は北を目指す

CFRブリーフィング
 
 
2007年の冬休みに、あなたはフランス産のシャンパンをもっと楽しんでおくべきだったかもしれない。スパークリングワインの産地が将来、イギリス、バンクーバー、ひょっとしたらタスマニアへと移動することになり、生産と供給が不安定になるかもしれないからだ。事実、「地球温暖化問題が深刻化してワイン生産が不安定になる」と科学者たちはかねて予測してきたし、「一方で、品種改良など技術革新によって従来ワイン栽培には不適切とされていた地域での生産が可能になっても、世界のワイン生産は大きな変化の波に洗われることになる」・・・
 

 
  米大統領候補たちの地球温暖化対策

CFRブリーフィング
 
 
差し迫った脅威としてますます注目を集める地球温暖化問題。世界有数の二酸化炭素排出国であるアメリカの次期政権を担う大統領候補は、どのような地球温暖化対策を考えているのか。民主党のバラク・オバマ、ヒラリー・クリントン、共和党のジョン・マケイン、ミット・ロムニーを含む6候補の地球温暖化対策に迫る。
 

 
  CFRインタビュー
国家ブランディングとは何か

サイモン・アンホルト/「地域のブランディングと広報外交」誌編集長
 
 
企業のマーケティング理論を国に応用する国家ブランディングという概念が誕生したのは、わずか10年ほど前。ブランドマネジメント誌に1998年に寄せた記事で最初に国家ブランディングという概念を学術的に分析したのが、いまや各国に国家ブランディング戦略をアドバイスし、地域的なブランディングに関する雑誌を編集しているサイモン・アンホルトだ。いまでは、国家ブランドのイメージを改善するために、各国にコンサルティングやアドバイスを行うという産業が急激に台頭している。しかし、アンホルトによれば、各国が自国のイメージを効果的に改善できるかどうかについては大きな混乱がある。国家のイメージを変えるために広告のような短絡的なブランドマーケティングを行っても「全く不毛である」と言うアンホルトは、むしろ、より強固な国家ブランドを確立するには、全体を見据えたうえで、政策を体系的に変化させていく必要があると強調した。聞き手はリー・ハドソン・テスリク(www.cfr.orgのアシスタント・エディター)。
 

 
 
今月のフォーリン・アフェアーズから

アメリカに代わる「選択肢」はあるのか

 「アメリカのパワーがたそがれてきたときに、どのような国際秩序が出現することを望むのか」を戦略的に考える必要がある。アメリカのパワーが衰退し、一方で中国が台頭しているという現実を前にすれば、少なくともこれまで事実上の覇権を握ってきたアメリカがこのように危機感を募らせるのも無理はないし、日本にとってもこのテーマはひとごとではない。
「秩序が細分化され、分裂していけば、中国は独自に2国間、多国間合意のネットワークを構築し……世界は……中国とアメリカの勢力圏に分断されていく」と指摘する政治学者のジョン・アイケンベリーは、そうした事態に陥っていくのを避けるためにも、「現在の秩序を支えているルールと制度の強化に努め、この秩序をより参加しやすく、覆しにくいものにしなければならない」と「中国の台頭と欧米秩序の将来」で論じている。
 国力(パワー)を構成する主要な要因である軍事力、経済力、そして他を魅了するソフトパワーという側面でみれば、たしかにアメリカのパワーは低下している。圧倒的な空軍力を持ちながらも、米地上軍は手薄で、市街戦に弱いことがイラク戦争で実証され、米軍の増強というテーマは米大統領選挙でも大きな争点の一つとされている。経済領域でも、ドル安が続いている。今後、ドルへの信任がさらに損なわれていけば、巨大な経常赤字を抱えるアメリカ経済は、おそらく砂上の楼閣のような不安定な状況に陥っていく。そして、アメリカのソフトパワーが地に落ちてしまっていることは、いまや誰の目にも明らかだろう。
 だが、現実的に考えるべきは、ドルやアメリカの軍事力に象徴されるアメリカのパワーに代わる「選択肢」があるかどうかだ。少なくとも、これまでは選択肢と呼べるようなものは存在しなかった。ドルに代わる選択肢があれば、各国の外貨準備がドル建てで備蓄されることもなかっただろうし、すでにドルは基軸通貨の座を失っていたかもしれない。この場合、アメリカ経済が世界経済を牽引する時代も終わりを告げていたはずだ。そして、冷戦期のように、アメリカに匹敵する軍事パワーを持つ国が存在していれば、世界の同盟関係も安全保障秩序も、現在われわれが目にするものとは全く違うものになっていたはずだ。
 だが、いまや中国という新しい選択肢が誕生しつつあるとアイケンベリーは言う。彼が、2国間貿易合意、地域貿易協定が増えるにつれて、その足場が危うくなってきている世界貿易機関(WTO)を例に引いて、第二次世界大戦後につくられた既存の秩序のルールと制度を刷新・強化し、中国を取り込めるような新たな選択肢、秩序をつくらなければならないと指摘する理由もここにある。
 敵でも味方でもない国や勢力と、流動化する秩序のなかでどうつきあっていくかが今後問われていくことになる。利益を共有できる領域では協調できても、問題を抱え込み、対立したときにどう対処するか、環境問題、核拡散問題など、利害と責任がはっきりしない問題にどのような枠組みで取り組んでいくか。中国の台頭とアメリカの衰退という現象が、今後の国際的な危機管理のメカニズムと秩序の制度設計の模索を刺激しているのは間違いない。
 一方、こうした複雑で曖昧な環境になっていけばいくほど、国のイメージ、ブランド力がものをいうことになる。20世紀は「欧米ブランド」、あるいは「アメリカブランド」の時代だったが、それも変化してきている。国家ブランディングの第一人者であるサイモン・アンホルトは、国がより強固な国家ブランドを確立するには、短絡的な広報テクニックに頼るのではなく、「全体を見据えたうえで、政策を体系的に変化させていく必要がある」と指摘する(「国家ブランディングとは何か」)。
 日本は、アメリカのパワーがたそがれてきたときに、どのような国際秩序が出現してくることを望み、国家ブランドを高めるためにいかに政策を体系的に変化させていくのだろうか。R・ハース米外交問題評議会(CFR)会長が最近の日本経済新聞(2007年12月12日付)のインタビューで指摘しているように、日本の国際活動の正統性を国連に求め、事実上の拒否権をロシアと中国に与えるというのでは、あまりに短絡的だ。これでは、流動化する秩序のなかで日本の利益を守ることにも、国家ブランド力を強化することにもならない。●


                            (竹下興喜、フォーリン・アフェアーズ・ジャパン)
 
   



 HOME | アーカイブ | 購読案内 | 立ち読みコーナー | インフォメーション | コンタクト・インフォメーション | 求人情報 
 Copyright by Council on Foreign Relations, Inc. & Foreign Affairs, Japan.  All rights reserved