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DNAは青い鳥を探せるか
はる
荒廃し暴力が横行する近未来で恋人と友情を守るため命を懸けて戦う少年達の青春群像劇「蒼き鷹」を一般向けに書き直したもの。多少の暴力描写有■現在一日約8000hitサイトにて連載中の主要小説です
●カテゴリ:小説 ●マガジンID:1000467 ●発行部数:8部
●発行周期:不定期(毎日?) ●バックナンバー:全て公開
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「蒼き鷹」
第一章日本人収容所

第一話

まず死体が落下する。
この国には何でもあった。
ただ人間だけが欠落していた。
彼らは精密な機械だった。
そして狂っていた。
日本人は絶滅に向かっていた。
損傷した死体は無残な拷問痕を勲章のように刻み込んでいる。
死者達のために砂漠に掘られた穴は墓場などではない。
働く事の出来ない体となったもの達を捨てるためのゴミ捨て場だった。
その穴の中で、死者は互いに絡まりあい、見開かれた眼は無念だと叫び声を上げていた。
さらさらとした黄色い砂が無情にも死者達の裸体の上に降りかかる。
すでに絶命しているその死体は無感動な物であったがその閉じられる事のない眼だけは空を、いや彼らその穴に投げ込んだ日本人達を睨み付けていた。
空を飛ぶ黒い烏だけが死者を弔っていた。
死肉を狙っているその鳴き声が、理不尽な死を嘆き悲しんでいるかに聞こえた。
佐野ウェルは死者が投げ込まれた穴から目を逸らした。
金茶の髪が灼熱の太陽を吸い込んでいた。
抜けるように白い肌が強い日差しに焼かれていく。
彼はエメラルドグリーンの瞳を動かした。
側らで作業をする日本人の男達は幽鬼のように、ただ黙々と死者を穴の中に投げ込んでいた。
虚ろなその瞳には何も映しだされてはいなかった。
悔しい、悔しい、悔しい、と悲鳴が聞こえてきそうでウェルは耳を塞いだ。
耳に死体から漏れた体液が付くが、それでもウェルは目じりに皺を寄せ目蓋を閉じ、耳を塞いでいた。
「早くしろ、ノロマども!」
トラックから兵士の叫ぶ声が聞こえてくる。
年季が入りすぎたトラックだ。
サイドミラーはひびが入っており、フロントガラスは砕けていた。
ウェルは日本人に混じって荷台に乗り込んだ。
エンジンが爆音といってもいいほどの唸り声を上げた。
男達は口を半分ほど開け雲ひとつない空を仰いでいた。
日焼けに弱い色白の肌と金茶の髪は、黄色い肌と黒い髪の日本人の中にいるとやたら目立った。
居心地が悪そうにウェルは体を縮めた。
トラックが砂煙を巻き上げながら走り出す。
数人の日本人が軽く咳をしていた。
有害な砂を吸い込んでしまったのだろう。
トラックは砂漠の中を走っていく。
少し前までは瓦礫で埋まっていたはずであったが、瓦礫の山も中国軍が焼き尽くしてしまっていた。
三光政策の賜物であった。
砂の向こうには地平線が見えている。
地平線の向こうにはまだ砂漠が広がっているであろう。
世界に誇る国際都市東京の成れの果てだ。
ぼろぼろに破れた、元は狐のイラストがプリントされていた、Tシャツが風になびき黄砂が肌に付着した。
絹のように細い髪が頬に張り付く。
黄砂と髪が眼に入らないようにウェルはできるだけ目を細め、東大があった方向を見つめた。
学問の最高峰であり日本一の大学であった東京大学。
今はもう、存在しない大学。
トラックが農場の入り口で止まった。
エンジンが異様に熱くなっており熱気に見張りの兵士が顔を歪ませた。
検閲と称し、兵士が荷台に乗せられていた奴隷同然の人間達を調べる。
服を脱ぐように指示をされ全裸になった。
呆けている男達は大事な部分を隠そうともせずに風の中へと剥き出しにしていた。
ウェルは性器を隠していた手をどかすよう指示された。
「後ろを向きトラックのドアに手を当て膝をつけ。」
触れた鉄のドアはウェルの手を焦した。
言われた通りにすると咳を一つする。
これで肛門内に何か隠し持っていないかが判断されるらしい。
問題なしと判断され、ウェルは砂が入った服を身にまとい、農場へと入っていった。
周囲を高い塀が覆い、有刺鉄線で囲われ、兵士が常に警備を行っている強制労働農場。
現代のアウシュビッツ。
ウェルは自らの持ち場へと戻った。
農場では追われるようにせわしなく働く日本人の男達と日本人の少年達がいた。
一人の少年が背負った大根の重さに耐え切れず転ぶが誰も手を貸さない。
一人の兵士が少年に近寄り、その鼻先を銃身でしたたかに殴りつけた。
少年は目に涙を浮かべ、唇をきつく噛み立ち上がる。
ウェルは大幅なタイムロスを補うために急いで作業を再開した。
剥れた爪に泥が潜り込んだ。
かまわずにウェルは大根を引き抜き、籠に入れていく。
白い大根には恐ろしいほどの農薬が付着していた。
この農場にミミズはいない。
無造作に大根を引き抜き籠に入れていると、後頭部を衝撃が襲った。
「サボるんじゃない!」
ウェルはこの声の持ち主を知っていた。
彼の事を目の敵としている二等兵の吉だ。
彼は微かに口の端を吊り上げた。
「僕が怠けている?怠けているのはあなた方のほうじゃないのですか?僕たちが今しがた運んだ死体、彼らはここの脱走者です。
あなた方の仕事は僕たちを監視し、脱走者を出さない事ではないのですか?おや、失礼。違いましたね。
あなたの仕事は抵抗する意思のない少年を殴り、十にも満たない小さな少年を暴行し、他の兵士が捕らえてきた脱走者をいたぶることでしたね。
これは大変失礼をいたしました。吉万年二等兵殿。」
万年二等兵にアクセントをつけてしゃべった。
目の前で作業をしている男が歯をカタカタ鳴らし始めたところを見ると、吉は怒りに打ち震えているのだと思われた。
二発目が飛んでくる。
ウェルはあっけなく土の上に転がった。
たった一着の服が泥にまみれる。
「立て!佐野ウェル!」
ウェルはよろよろと立ち上がった。
陽炎が見える。
殴りたければ殴れ、と噛み付くように無言のままにウェルは吉を睨みつけた。
その態度に逆上した吉が銃身で彼を何度も殴る。
ウェルがかけていためがねがふっとんだ。
けれども心配は無用だ。
めがねは既にレンズが割れ、フレームだけになっていたのだから。
「ガキだからと言ってなめたことばかり言いやがって!」
鼻息荒く、再度土の上に倒れ込んだウェルを革の靴で蹴り上げた。
ごりりと骨が革靴の底に当たり気味の悪い音を立てた。
ウェルは体を丸め、頭と目を守った。
彼に残された唯一の財産だからだ。
土には大量の農薬が染込んでいる。
土が目に入らないようにとしっかりと瞼を閉じた。
次々と打ち下ろされる鉄の銃身と革の靴にウェルは抵抗をしなかった。
だが、震えることも許しを乞うこともしなかった。
ただ黙って殴られていた。
見慣れた光景に誰も関心を向けようとはせずに、皆黙々と作業を続けていた。
一日のノルマが終わらないと今度は自分が暴力の対象にされてしまうからだ。
助けなど必要ない、僕は暴力に脅えるお前達などとは違う、と奥歯を食い縛った。
吉の暴行は一時間にも及んだ。
満足いくまで殴りつけると吉はウェルに唾を吐きかけ行ってしまった。
ナメクジのように這い蹲り彼は吹っ飛んだめがねのフレームを手にした。
レンズがなくなっためがねをかけ続けているのは彼なりの意地であり誇りだった。
へこんだ籠に大根を詰めなおす。
黙々と作業を再開するウェルに一人の少年が垢と泥で汚れたタオルを差し出した。
「大丈夫?」
田宮健太、嫌われ者のウェルにすらおせっかいを焼くお人好しの少年。
「たいした事はないです。それより持ち場に戻った方がいいんじゃないですか。ノルマに達しなければまたぶたれますよ。」
健太の顔半分は見る影もなく潰れていた。
彼は元々体が弱く、ノルマに達しないことなんてしょっちゅうだった。
その度に兵士達に殴られ、殴られ続けた結果、可愛いかった健太の顔半分は幽霊の様に腫上がり直ることなく無残な容貌になっていた。
その事ついて健太はこれで兵士達に性的な悪戯をされることはなくなったなどと、仲間にうそぶいてはいたが。
心配そうに見つめる健太を追い返し、ウェルは顔を手の甲でぬぐった。
今日は出血がひどい。
第二次世界大戦で日本人は中国人に残酷な事をしたから、今度は俺達が日本人に酷い事をする番だ、と兵士達が話していた。
ウェルにとっては、何百年前の事をいまだに言い続けるとは馬鹿、としか思えなかった。
照りつける太陽の中、ウェルは大根でいっぱいになった籠を背負い立ち上がった。


*「蒼き鷹」第一章第一話です。この部分はまだ年齢制限有りの完全版との相違点はほとんどありません。
最悪最低の世界となった近未来日本を生き抜いていく少年達を見守って頂ければ幸いです。

・・・・・・

発行者 はる
サイト 監獄街
http://haru2027.sakura.ne.jp/




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