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社説:最低賃金 生活保護との整合性は不十分

 前進はしたが、まだまだ物足りない。08年度地域別最低賃金のことだ。都道府県ごとの地方最低賃金審議会の答申額が出そろった。

 労働者の生活を保障する最低賃金の改定が今回、例年に増して注目されたのは改正最低賃金法が7月に施行されてから初めての審議だったためだ。改正法は額の算定に当たり「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護との整合性に配慮する」との条文を盛り込んだ。

 働いても貧困から抜け出せないワーキングプアを解消する策の一つとして、最低賃金が生活保護費を上回る水準にしようというのが、改正法の趣旨である。

 結果はどうだったか。時給の全国平均は07年度より16円引き上げられ、703円と初めて700円台に乗った。特に生活保護費よりも最低賃金が下回っているとされる12都道府県については、その開きを一定の期間内に埋めていくとの目標も設定された。

 小規模事業所の賃金改定状況を参考に前年度より1~5円程度のわずかな引き上げで推移した従来のやり方に比べ、各地の引き上げ水準を明確に設定する今回の手法は、大幅引き上げを実現した点で評価できる。

 しかし、比較する生活保護費の水準設定には問題がある。生活保護費は市町村を6区分し、県庁所在地などの都市部の方が地方よりも高く設定されているが、比較で用いたのは都道府県ごとの平均額だった。これでは、県庁所在地で働く人の最低賃金がそこの生活保護費を下回るケースが出てきてしまう。

 生活保護の住宅扶助も、平均額が比較算定に使われた。東京の場合、その額は月3万5187円。しかし、労働者が東京で3万円台の安い民間の物件に住むことは困難だ。住宅扶助は自治体によって特別基準額が定められ、東京の特別基準額上限は月5万3700円。生活保護で低額の公営住宅を提供される人の支給額は下がるため、平均額も下がる。比較では特別基準額を用いるべきではないか。

 比較する生活保護水準をまるでトリックのように低い数字ばかり使うのであれば、引き上げるべき最低賃金も不当に抑え込まれてしまう。最低限度の生活を保障するという改正法の趣旨がゆがめられかねない。生活保護との整合性はまだ不十分と言わざるを得ない。来年度以降の審議で、水準のあり方を改めて検討してもらいたい。

 パートや派遣など非正規労働者の増大でワーキングプアが広がる中、最低賃金が果たす役割はますます重みを増している。今回の703円も、1日8時間・週5日働いて年収は150万円に満たず、貧困の解消には遠く及ばない。

 厳しい経営環境に直面する中小企業の活性化策などに、政府も積極的に取り組まなければならない。

毎日新聞 2008年9月14日 東京朝刊

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