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タミフルにまつわる疑問『やっぱり危ないタミフル ―突然死の恐怖』

辛龍雲2008/09/14
タミフルはインフルエンザウイルス感染症の特効薬とされるが、著者はそもそも特効薬でも何でもないとまず断定する。「有効性あり」とか「飛び降りなどの異常行動と因果関係はない」といった疫学的結論は、いずれもデータを「合計」することで結論を都合よく操作した結果だと指摘する。
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著者:浜六郎<br>
出版社:金曜日<br>
定価:1400円+税<br>
発行日:2008年2月15日
著者:浜六郎
出版社:金曜日
定価:1400円+税
発行日:2008年2月15日
 インフルエンザウイルス感染症の特効薬とされるタミフルの開発・市販の報に触れたとき、私は一種の感慨にひたった。それは、私が医学生の頃(昭和50年代)、インフルエンザウイルスを含めたかぜ症候群の原因ウイルスに対する特効薬はない、と教わっていたからである。医学は間違いなく一歩前進した、と実感したものだ。ところが、タミフルが実際の臨床の場で用いられ始めて7年、タミフルを取り巻く現在の混乱は一体どうしたものか。

 タミフルを服用した子供に、建物から飛び降りるなどの異常行動が相次いで報告され、厚労省は昨年3月、10代へのタミフル使用の原則中止を決定した。その後大規模疫学調査が行われ、厚労省の作業部会は7月10日、「タミフルと異常行動との関連は検出できなかった」とする最終的な見解をまとめた。しかし、この調査対象期間の後も、タミフル服用後の新たな異常行動が相次いで報告されており、先の厚労省の見解はどうも釈然としない。タミフルと異常行動との因果関係は本当にないのか、こんな疑問で医療現場は少なからぬ混乱に陥っている。まさにこの疑問に対して、浜六郎氏は最新の著書「やっぱり危ないタミフル―突然死の恐怖」の中でその回答を述べている。

 浜医師は、タミフルはそもそもインフルエンザの特効薬でも何でもないと、端から断定するから驚きだ。新薬承認の前提となる、有効性ありとされたからくりはこうだ。インフルエンザ患者の大多数を占めるA香港型のデータをみると、タミフルの有効性は否定的といわざるを得ない。一方、少数派のAソ連型のデータの場合、確かに効果がありそうだ。しかし、このままでは、大多数のインフルエンザ患者にタミフルは効かないことになってしまい、その承認がおぼつかなくなること必定である。そこで、2つのデータを「合計」すると、平均して1日ほど治るのが早くなるというデータが出来上がった、というわけだ。

 次いで、タミフルと異常行動の因果関係である。先に述べた大規模疫学調査の予備的段階の解析結果が去年の12月に発表され、その時点で、異常行動を示した子供の中で、タミフル服用群は非服用群の約半分に過ぎないとされた。因果関係の否定どころか、タミフルが異常行動をむしろ抑制する、という印象を与える結果であった。浜医師によると、そのトリックの一部はこうだ。タミフルは通常量として5日間服用するが、タミフルによる異常行動の大部分はタミフルを服用した初日に起こる。初日に限定してタミフル服用群と非服用群を比較するか、全内服期間を「合計」して両者を比較するかで、異なる結果が得られるというのである。再び「合計」という作為である。

 「合計」という作為は、今回に限らず医学を含めた自然科学論文で、都合のよい結論を誘導するためしばしば使われる。決してデータの改ざんでも捏造でもないが、科学者として賞賛されるべき姿勢ではない。しかし、論文投稿を目指す場合であれば、有能な第3者専門家の批評をくぐり抜けなければならないので、その作為が見抜かれ、論文掲載が拒否の憂き目に遭うことを避けられない。かえりみるに、先のタミフル承認や副作用調査に際しては、かような批評機構が果たして働いたのだろうか、という疑問がわく。

 一般的に医薬品はその効果と副作用発現に個人差がある。そのため、人によっては、効果による利益をはるかに凌駕する副作用による不利益を被ることがある。その頻度がいくら低いとしても、副作用が実際に発現すれば、その人にとってはもはや100%である。インフルエンザはもとより自然治癒する病気であり、普通5〜6日かかって治るのが、タミフルを服用して1日ほど短くなる。その効果を期待して、致死的副作用の可能性を完全否定できないタミフルをあえて服用する合理的理由などない、という自身の思いをゆるぎないものにしてくれた1冊である。

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