◎辰巳用水と惣構堀 「二枚看板」を混同させずに
金沢市が尾山神社前などで進めている「辰巳用水の開渠化(かいきょか)」は、辰巳用
水と惣構(そうがまえ)堀を混同させる恐れがあり、文化財保護の観点から問題があろう。辰巳用水と惣構堀は用水の街・金沢の「二枚看板」であり、どちらも重要な歴史遺産である。市民や観光客が誤解せぬよう、きちんと区別しておくことが重要だろう。
辰巳用水は犀川上流から兼六園までを掘削して金沢城内に水を引いた十一キロあまりの
用水で一六三二(寛永九)年にできた。もちろん城内を出た水は堀を満たし、街中にも流れた。一方の惣構堀は城を取り囲んで守る金沢独特の二重の堀である。内側は関ケ原の戦い直前の一五九九(慶長四)年に造られて内惣構堀といい、外側は一六一一(慶長一六)年に造られて外惣構堀と呼ばれた。内・外とも位置から西惣構堀、東惣構堀と分けて呼ばれ、尾山神社前の水路は西内惣構堀の跡になる。
このように両者は造られた年代も築造目的も異なるまったく別の文化遺産だ。それが明
治以降、金沢城の城内機能が変化し、辰巳用水の水で満たされていた百間堀や宮守(いもり)堀が消えたことで、辰巳用水の水は街に出て、他の用水に流れ込むことになったのである。
例えば、大手掘の水を街中に引いた明治中期の工事を記念する「辰巳用水分流碑」が尾
山神社近くの尾崎神社境内にあるが、辰巳用水の水を引いても「辰巳用水の分流」という表現を使った。辰巳用水の「水」と、遺構としての「辰巳用水」はきちんと区別したのである。
尾山神社前の惣構堀にも辰巳用水の「水」が引かれていたのは事実だが、それによって
、惣構堀が辰巳用水になったわけではない。
金沢市は橋場町の枯木橋付近などで「惣構堀」の遺構を復元させて文化財指定を目ざし
ている。その一方で惣構堀に辰巳用水の名前をつけるのはおかしい。
こうした復元が拡大すれば、知名度の高い辰巳用水の名は残っても惣構堀の名は市民の
意識から消えてしまうだろうし、史実からも遠ざかってしまう。辰巳用水と惣構堀の「二枚看板」を並立させて守っていくことが金沢らしい文化行政だと思う。
◎公益法人の受注 無駄遣いの温床浮き彫りに
省庁OBの「天下り」の受け皿になっている公益法人は、中央省庁との随意契約が多く
、受注額も多額であるという会計検査院の調査結果は、省庁所管の公益法人が、税金の無駄遣いの「温床」になっていることをあらためてうかがわせる。
政府は行政経費の無駄遣い排除のため、補助金などで省庁と結びつきの深い主要公益法
人のうち、四十二法人への業務発注を随意契約から一般競争入札に全面移行するなどの改革案を七月にまとめた。が、これは公益法人改革のほんの一歩に過ぎない。六月に閣議決定した二〇〇八年の骨太方針は、「行政と密接な関係にある公益法人を大幅に削減する」と明記している。その実現をめざして改革を徹底してもらいたい。
会計検査院の調べでは、省庁や出先機関と随意契約を結んでいる公益法人の約八割に省
庁OBが在籍しており、OBが在籍していない公益法人より一法人当たりの契約件数が約四倍、受注金額は約八倍も多いという。競争性のない随意契約は一般競争入札よりもコスト高になり、税金の無駄遣いを生んでいることは周知の事実である。例えば、会計検査院が昨年、独立行政法人の国立印刷局が発注した官報などの製作費を調べたところ、二〇〇五、〇六年度に随意契約で行われた十二件で総額二億円以上が割高になっていた。
省庁は一般競争入札の導入を進めているが、今回の調査結果は、業務の発注先が随意契
約で省庁OBのいる公益法人に偏重している実態を浮き彫りにしている。自民党の「無駄遣い撲滅チーム」は随意契約の原則全廃を政府に求めているが、それが筋である。
国が所管する公益法人は約六千七百法人あり、国や独立行政法人が経費を支出している
法人は千九百以上に上る。先にまとめられた政府の公益法人改革案は、一般競争入札への全面切り替えが四十二法人、組織の縮減が五十三法人、解散の方向が示されたのはわずか二法人に過ぎない。政府の本気度が疑われる改革案と言わざるを得ない。次の内閣でもっと鋭く切り込むよう求めたい。