自民党総裁選に出馬した五人の立候補者は、日本記者クラブ主催による公開討論会に臨み経済・財政問題や外交問題などに持論を戦わせたが、候補者間の切り結びは迫力不足の感が否めなかった。
十日の告示以来、石原伸晃元政調会長、小池百合子元防衛相、麻生太郎幹事長、石破茂前防衛相、与謝野馨経済財政担当相の各候補による論戦は、党本部での立会演説会や都内での街頭演説など本格化してきた。この日の討論会は全国遊説へ向けて一つの節目として注目された。
今回の総裁選は、景気後退や物価高による厳しい状況を踏まえ、経済・財政対策が最大の争点とされる。討論会では、景気下支えのため積極的な財政出動を掲げる景気重視派の麻生氏に、対極の財政再建派である与謝野氏が水を向けた。
消費税を含む税制抜本改革を主張し、公共事業費の大幅増など大規模な財政出動に否定的な与謝野氏は「ばらまきでない財政出動と言われるが、どんな分野でやる考えか」とただした。これに対し、麻生氏は当面の景気対策として研究開発、設備投資、住宅関連の減税を挙げて「減税はばらまきとは違う。直ちに赤字公債とはならない」と答えた。
石原氏は「こつこつ働く人の思いを吸い上げたい」と述べるとともに、当面三年間を「集中改革期間」として消費税、法人税、所得税を総合的に見直す考えを表明した。小泉純一郎元首相の支持表明を得た小池氏は、小泉構造改革について「改革は道半ば」とした。さらに、改革の負の側面の指摘に対しては「効果はすぐに出るものばかりではない。元に戻すのか」と改革継承を表明、公務員制度改革に取り組む決意を示した。石破氏は「日々の生活が苦しい人々の胸に政策が届くよう全力を尽くす」として地方分権推進などへの取り組みを強調した。
それぞれの方向性は論戦を重ねるにつれて明らかになってきた。だが、討論のほとんどが質問で他の候補の答えを聞く程度、矛盾点を厳しく追及して問題の本質に迫るまでには至らなかった。慎重な言い回しも見受けられた。自民党内には総裁選の次に控える総選挙を見据え、過度の対立やしこりを残さないようにとの思惑が働いているのだろうか。
内外の厳しい状況の中で、相次いだ首相の政権投げ出しは、政治への不信感を募らせた。「われこそは」と手を挙げ総裁選に臨んだのなら、丁々発止の攻防で危機感を示すべきだろう。より迫力と深みのある論戦を展開しなければ信は得られまい。
政府がイラクで空輸活動に従事している航空自衛隊部隊を年内に撤収させる方針を発表した。イラク復興支援特別措置法に基づき、二〇〇四年に始めた自衛隊派遣は終了する。
空自は、〇六年に陸上自衛隊がイラクから撤収した後も活動を続け、隣国クウェートの空軍基地を拠点に、バグダッド空港などイラクの三空港へ多国籍軍の兵士や物資を空輸している。イラクに派遣された自衛隊員は陸自を含め、一人の犠牲者も出していない。早期の安全な撤収を果たしてもらいたい。
イラクでの空自活動は、特措法では来年七月末までを期限とする。途中での撤収理由について、政府は駐留根拠である国連決議が年末で期限切れとなることや治安改善などを挙げるが、イラク国内では外国軍の早期撤退を求める声が強く、ブッシュ米大統領は駐留米軍を削減する方針を発表したばかりだ。日本も米国の動きと歩調を合わせたのだろう。
撤収は歓迎するにしても、イラクへの自衛隊派遣の是非についての検証が欠かせない。今年四月には、名古屋高裁がバグダッドへの空輸活動は違憲との判断を示した。原告が求めた派遣差し止め請求は退けられたものの、自衛隊のイラク派遣をめぐる違憲判断は初めてだった。
高裁判決は、バグダッドを特措法が自衛隊の活動を禁じる「戦闘地域」と認定し、また、多国籍軍の武装兵を運ぶことは他国の武力行使と一体化した行動であり、憲法九条に違反するとした。戦闘地域か非戦闘地域か、あいまいな線引きのまま自衛隊を派遣した政府を司法が厳しく批判したといえよう。
平和憲法を持つ日本が行う国際貢献は自衛隊をどこまで活用すべきなのか。仕切り直しの議論が必要だ。
(2008年9月13日掲載)