桜井淳所長の最近の講演内容-社会科学の数少ない一流論文誌の意外といい加減な査読の実態-
テーマ:ブログ桜井淳所長は、国内外の社会科学の査読付論文誌の論文を熟読・吟味し、記述内容や査読が、意外といい加減であることに気付き、深く失望しているそうですが、その中で、前にも書きましたが(バックナンバー参照)、さらに、具体例を挙げれば、吉岡斉「戦後日本のプルトニウム政策史を考える」(『年報 科学・技術・社会』、Vol.2, pp.1-36(1993))における、「ところで一口に増殖炉といっても、高速中性子を用いる「高速増殖炉」と、熱中性子を用いる「熱増殖炉」の2種類がある。核分裂1回当たりの中性子発生数から考えれば、高速増殖炉のほうがはるかに優れているが、その代わり開発上の困難も段違いに大きい。1950年代後半の日本人からみて、高速増殖炉開発には2つの重大な困難があった。技術的困難と資源的困難がそれである。・・・このような高速増殖炉は当時の日本人の手の届かない「夢の原子炉」であり、「熱増殖炉」が唯一現実的なターゲットだった」(P.8)ですが、問題は、「核分裂1回当たりの中性子発生数」ではなく、η=ν(E)Σf,f(E)/Σf,a(E)の再生率で評価すべきであり(ν(E)は中性子発生数、Σf,f(E)は燃料の巨視的核分裂断面積、Σf,a(E)燃料の巨視的吸収断面積)、また、高速増殖炉に対して、MOX燃料が必要なのに対し、熱増殖炉に対して、厳密な炉物理特性を考慮すれば、ウラン233(ウラン233燃料-トリウム232ブランケット)が欠かせませんが、原研は、そうせず、熱中性子核分裂数の違いを考慮した補正を行い、濃縮ウラン235の炉心での臨界実験装置(水均質臨界実験装置AHCF(Aqueous Homogeneous Critical Facility), 原子炉熱出力50W, 濃縮ウラン、減速材重水、反射体酸化トリウム、制御棒1本・安全板1枚、最大直径80cm球形)を設計し、実験データを蓄積しましたが、当時の状況を考慮すれば、現実的対応であったものの、あまり、感心しないやり方で(高速増殖炉に比べ、ηが小さく、増殖費という観点からメリットが少なく、そのようなものは、本質的でない)、吉岡には、以上のような視点がなく、査読者も炉物理が分かっていなかったため、何の指摘も修正要求もできなく、結果的に、残念ながら、訳のわからないないような記述になってしまったそうです。