ある平日の午後9時半過ぎ。「水戸市休日夜間緊急診療所」(同市笠松)に8カ月の女児が母親の腕に抱かれてきた。39・7度の高熱があるといい、少しぐったりしてみえる。隣でスーツ姿の父親も不安そうに見守る。
「突発性発疹(ほっしん)の特徴的な所見ですね。平均3日間ほど高熱が出ますが大丈夫」。石井一元医師(53)が穏やかな口調で説明すると、夫婦はほっとした表情を浮かべた。
◇ ◇
地域の救急医療を支える開業医の役割が重みを増している。県内の10万人あたりの小児科医師数は7・8人と全国平均の7割以下にとどまり、全都道府県で最も低い。中でも勤務医の病院離れは深刻だ。県小児科医会の調べでは、150人いた小児科勤務医は02年から5年間で19%減ったという報告もある。
水戸市が開設するこの診療所は、開業医が多くを占める水戸市医師会員が診療科ごとに輪番で休日と夜間の1次救急を担う。市内で小児科医院を開業する石井医師の担当は月に2回程度。加えて、県立こども病院の夜間救急にも携わる。
症状が変わりやすい子どもの救急医療のニーズは高い。同診療所で内科・外科も含めて年間に診療する約1万3000人のうち、7割以上を小児科が占める。重症は直ちに2次救急担当の病院に紹介するが、多くは軽症だ。入院を要するようなケースは5%に満たない。しかし「20~30人に1人は見逃してはいけない病気が紛れ込んでいる」と石井医師は言う。その緊張感がストレスにもつながる。労働環境が厳しさを増す勤務医を支えたいという思いは強い。県外の大学病院に勤務していた30代半ばに過労で倒れた。半年ほどを棒に振り、開業を決意した。なるべく病院の当直時間帯は転院を避けるよう意識している。
診療所の夜間受け付けは午後7時半から3時間。血液検査もできず、設備や態勢は充実しているとは言い難い。石井医師は「個人的には時間を延長したい気持ちはある」と言う。だが、市の財政難に開業医の高齢化が重なり、拡充は容易ではない。水戸市医師会によると、会員の小児科医22人の平均年齢は61・5歳。最高齢は80歳だ。担当する回数は多くないとはいえ、休日や夜間の勤務は体に応える。市医師会の赤津和大・総務係長(35)は「70歳を機に辞めたいという方もいるが、半強制的にお願いしている」と話す。「1人抜けただけで回らなくなる。限界の状態です」
「今の状態をいつまで続けられるか」。診療を終えた石井医師は少し間を置いてこう続けた。「医療はやっぱりマンパワーなんですよ」=つづく
◇ ◇
山積する医療問題を現場から考える。第1部は県都・水戸の小児医療を巡る事情を紹介する。
==============
■ことば
軽症(1次=初期)▽入院が必要な重症(2次)▽生命に危険性がある重篤症状(3次)と緊急性に応じた役割分担を前提に整備されている。すべての段階で365日24時間体制の整備が望ましいとされるが、小児科医の不足や偏在などの要因で、地域ごとに現状に則した暫定的な措置が模索されている。
毎日新聞 2008年9月13日 地方版