相変わらずの長時間労働に、広がらない男性の子育て参加。そんな状況の改善を狙いとした育児休業制度改正の骨格が固まった。厚生労働省が見直しの参考にしたのが、男性も育休を取りやすくするためにノルウェーなどで導入され効果を上げた「パパ・クオータ制度」。あまりなじみがないが、いったいどんな制度なのか。中身と、導入への課題を探った。【山崎友記子】
パパ・クオータ制度は、育休の一定期間を父親に割り当てるもの。93年にノルウェーが導入し、北欧を中心に広がった。
ノルウェーの場合、育休を最長で54週間取得できるが、うち6週間は、父親のみが取得できる。父親が取らなければ、権利が消滅してしまうのが制度の特徴だ。気になる育休中の手当は、最長の54週間取得した場合は出産前の給料の80%、44週間までなら100%が支給される(日本は現在一律50%)。
ノルウェーでは77年から、男性も育休を取れるようになっていたが、実際に取得する人は皆無に等しく、90年代に入っても取得率はわずか4%程度。それが、制度導入を機に急増。4年後の97年に7割を超え、03年には、父親の9割が利用するようになった。
女性の社会進出の流れが定着し、ノルウェーでは現在、約8割の母親が仕事を持っている。一方で、合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子供の数に相当)は81~85年に平均で1・68まで低下したが、07年は1・90。女性の就業が出産の妨げにならない要因の一つとして、パパ・クオータ制度があるとされている。
同国ではさらに、父親が割当期間を超えて長期間の育休を取るケースが少ないことから、現在の6週間を10週間に延長する案も出ている。
同様の制度はスウェーデン(合計特殊出生率06年1・85)でも95年に導入されている。両親合わせ480日の育休のうち、父親、母親に各60日が割り当てられ(パパ・ママ・クオータ)、それぞれが取らなければ消滅する仕組み。父親の利用率は約8割という。
海外の育休制度に詳しい東京大社会科学研究所の松浦民恵特任研究員は「ノルウェーの育休取得率の伸びには驚いた。日本の調査でも、男性の約3割が育休を取ってみたいと答えている。潜在的ニーズはあるので、パパ・クオータが育休取得の起爆剤になる可能性はある」と話す。
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日本の制度改正の骨格は、「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」の7月の報告書に基づく。厚労省は審議会を経て、来年の通常国会に改正案を提出する方針。
報告書の柱の一つが、パパ・クオータの考えを反映した「パパ・ママ育休プラス」の創設。父親と母親の両方が育休を取得した場合のみ、現行の休業期間(1年)を2カ月程度延長する。ただし、父母それぞれが取れるのは1年までで変えない。
もう一つの柱が「パパ休暇」。子どもの出生後8週間以内での、父親の育休取得促進が狙いで、現行法は育休の分割取得を認めていないが、8週間以内の時期に一度育休を取得すれば、1歳までの間に再度、育休を取れるようにする。
ただ、休業中の給付については、現行の50%給付の継続を求めるにとどまっている。
なお、男性の育児休業取得率は07年度で1・56%。前回調査(05年度)に比べると約3倍にはなったが、依然低く、政府が17年の目標として掲げる10%には遠く及ばない。
国に先んじて、工夫を凝らす企業もある。
化粧品メーカー大手の資生堂。従来の育休制度に加え、05年度から2週間に限った有給の育休を導入した。
同社では、04年に初めて男性の育休取得者が出たが、後が続かなかった。理由として、休むと経済的に厳しいなどの課題が上がった。「短い期間なら取ってみたい」との声もあり、有給の短期育休制度を設けた。年に6~16人が利用した。
同社はさらに、今夏、「子どもが産まれたら休もう!」をキャッチフレーズに、男性社員の育児参加促進キャンペーンを実施。パパ(男性社員)と子どもの写真を募集するなどして、子育てや家庭生活に関心のもてる環境作りに取り組んだ。
人事部の安藤哲男参与は「制度を生かすには利用しやすい企業風土を作ることが肝心。育休の対象外の人にも大切さを理解してもらい、全体的な働き方の見直しにつなげたい」と語る。
毎日新聞 2008年9月13日 東京朝刊