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トヨタ「営業利益2兆円」への乾いた笑い(07年2月22日筆) 先日、名古屋で地元経営者が聞き手の株式講演を行う機会がありました。トヨタ自動車のお膝元での講演でしたので、「絶好調のトヨタです。トヨタの株価が年内に1万円に達すれば、日経平均株価も2万円台回復も夢ではない」と地元サービスの意味も込めて述べました。ついでに、今回の春闘にもふれて、「前人未到の営業利益2兆円が見込まれるトヨタ自動車が率先してベースアップを行い、回復の兆しが見えない個人消費に活を入れて欲しい。個人消費が回復すれば日本経済に死角はなくなる」とまたまた地元の受けを狙って私はしゃべってしまったのです。 出席者から返ってきた応えは、「乾いた笑い」でした。ん? なぜだろう。聞き手は日本でもっとも景気の良いはずの名古屋の経営者たちです。トヨタ最高益の恩恵をたっぷり吸収しているはずなのに……。 「乾いた笑い」の理由は、講演の後、すぐにわかりました。最前列に座って聞いておられた老経営者が、苦々しげに「先生、トヨタの正社員のベースアップなどにはふれないでください。彼らがベースアップされた分、われわれ下請けには納入単価引き下げになって跳ね返ってくるのですから」と訴えられたからです。 何か割り切れない思いを抱えたまま帰宅した翌日、私が昔、編集長をしたこともある「週刊東洋経済」最新号(07年2月24日号)が送られてきました。カバーストーリーは、「貧困の罠」でした。ワーキングプアとか格差といった暗いテーマが、最近は良く売れるようです。その二番煎じか、とページをめくっていたら、ぎょっとする記事が載っていたのです。 その記事には、中京大学企業研究所の杉山直研究員が調べたトヨタの正社員と各段階の下請け社員の年収格差を示す表が掲載されています。以下に、その数字を要約して掲載します。 記事のタイトルにある"ゲンテイ"とは原価低減(コストダウン) の略です。記事によると、毎年2回、すべての下請けメーカーにトヨタから「恒例の新単価を発表します」とオンラインで通知が来るようです。この新単価、つまり納入単価の切り下げに下請けメーカーは"ゲンテイ"によって対応するしかありません。その"ゲンテイ"は元請けから孫請け、さらに3次、4次の下請けへと下げ渡されることになります。 下請けは、もはや人件費を削るしか"ゲンテイ"できない状態に置かれている。その結果、賃金の高い正式社員を削減し、正社員の8割の賃金で雇えていつでも首を切れる外国人派遣労働者を増やして対応している――記事ではそう書かれています。 講演会の後で、苦々しく訴えた老経営者の話は、本当だったのです。トヨタの正社員がベースアップすれば、そのトヨタ本体の人件費増は、元請け、孫請け、3次、4次の零細下請けへの"ゲンテイ"― 納入単価切り下げというかたちで付け回しされる結果になる。老経営者は、「われわれには、従業員のベースアップなどできるわけがない」とはき捨てるように言われました。 トヨタの誇らしい「営業利益2兆円」は、いったい誰のためのものなのか、私は考え込んでしまいました。 at
2008年09月
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