最近、新聞やテレビでニュースを見ていて、しばしば「一所懸命」と「一生懸命」の違いを考えさせられる。
言葉の語源を軽妙に解説してくれる「ことばの道草」(岩波新書)によれば本来は「一所懸命」で、封建時代に主君から賜った領地を家臣が命をかけて守ることをいった。
領地などない庶民の世界では特定の対象はなくなり、必死さ自体をいう方に力点が移って「一生懸命」に変わったそうだ。新聞の表記も「一生懸命」に統一されている。近年は「一社懸命の御仁も多いようで」と同書。
厚生年金の算定基礎となる標準報酬月額の改ざんに、社会保険庁職員が関与していたことが分かった。安くても事業主が保険料を納めれば社会保険事務所の収納率は上がる。職員は成績アップに一所懸命だったのだろう。
汚染された事故米を食用に不正転売していた米粉加工会社は、仕入れ値と一けた違う値段で問題の米を販売し、利ざやを稼いでいたらしい。不正販売は他社でも判明した。こちらは利益確保に一社懸命だった。食品偽装に手を染めた他の多くの業者も同様だ。
自民党総裁選が始まり、次期衆院選も間近といわれる。候補者が広く国民のために一生懸命なのか、それともわが身や党のために一所懸命なのか。これもしっかり見極める必要がある。