またしても社会保険庁の不祥事が明らかになった。厚生年金の算定基礎となる標準報酬月額の改ざん問題で、社会保険事務所の職員がかかわったケースがあったことを、社保庁が初めて認めた。
ずさんなデータ管理で誰のものか分からなくなった「宙に浮いた」年金記録問題とは別に、今度は誰のものか明らかなものが意図的に改ざんされていたわけだ。極めて悪質な不正行為であり、根の深さを感じさせる。国民の年金不信は募るばかりだろう。社保庁のいいかげんな仕事ぶりに強い憤りを覚える。
標準報酬月額は、厚生年金の保険料や年金額を計算する際に基礎となる月給の水準だ。これに保険料率(現在は約15%)を掛けた額が保険料となり、本人と会社が折半して負担する。
標準報酬を過去にさかのぼって減額したり、加入期間を短く偽装したりすれば、会社は保険料負担を減らすことができ、社会保険事務所も見かけ上の収納率を上げられる。両者の利害が一致するため、以前からこうした改ざんがひんぱんに行われていたとされる。被害者は知らない間に、将来の年金受給額が減ることになるわけだ。
今回、社保庁が関与を認めたのは、総務省の年金記録確認第三者委員会や外部からの指摘に基づき調査した十七件のうちのわずか一件だ。保険料を滞納していた会社に標準報酬を引き下げるよう指導していたケースで、職員の筆跡による書類が残っていたのが決め手となった。
しかし、誰も改ざんがこれだけとは思っていないだろう。これまでに改ざんの疑いが指摘されたケースは三百件余りに上る。それでも「氷山の一角」との見方がもっぱらで、「組織ぐるみだった」という元職員の証言もある。今後、相当数の被害が表面化するのは必至だ。
不正発覚を受け、社保庁は約一億五千万件ある厚生年金の全オンライン記録を対象に、過去にさかのぼった標準報酬の大幅引き下げや加入期間の短縮など、不審な変更がないか調べる方針を示した。不審な点が見つかった人には注意を促す文書を送る。来年には厚生年金の受給者約二千万人全員に、現役時代の標準報酬の履歴を送付することも決めた。
不正の闇にどこまで迫れるかが問題だ。職員らが口をつむぐ中、身内による内部調査では限界もあろう。職員による改ざんの実態調査は第三者が行って透明性を確保すべきではないか。政府は不正の全容解明を急ぎ、被害回復に全力を挙げる責任があろう。
自治体が進める土地区画整理事業について、計画決定段階で反対住民らが取り消しを求めて行政訴訟を起こせるかどうかが争われた裁判で、最高裁は計画決定段階で違法性が争えるとの判断を示した。
これまで、訴訟の提起が認められるのは、土地を再配置する「仮換地」指定後などだった。「事業計画決定は抽象的な青写真を決めただけ」とする一九六六年の最高裁判決によっており、今回の四十二年ぶりの判例の変更で、行政訴訟の門戸が広がることとなる。
問題になったのは浜松市が進める土地区画整理事業で、二〇〇三年十一月に事業計画を決定した。原告は地権者ら約三十人で、一審静岡地裁、二審東京高裁ともに訴えを却下したため、上告していた。
判決は、計画決定されると、宅地所有者らは建築制限が課され、特段の事情がない限り事業が進むため換地処分を受けるようになると指摘した。さらに「事業が進んだ段階で提訴し、仮に違法性が認められても、混乱を引き起こすとして請求が退けられる可能性も高い」とし「事業計画の決定により、宅地所有者らの権利に直接的な影響が生じる。実効的な救済を図る観点からも提訴を認めるのが合理的」と結論づけた。事業を早期にチェックし、住民の権利救済を重く見た判断といえよう。
土地区画整理や再開発などの町づくりをめぐり、反対住民との間で訴訟に発展することも多い。最高裁によると、昨年までの十年間で区画整理事業の処分取り消しを求めて起こされた訴訟は全国で百五十四件に上る。行政は住民の合意を得るために、計画段階から十分な情報公開をするとともに、住民の声を反映した計画づくりに、いっそう力を注ぐことが求められる。
(2008年9月12日掲載)