経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”

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【第43回】 2008年09月12日

公務員改革嫌いの麻生総理を待望する官邸官僚の高笑い

 総務省から独立して、言わば、一国一城の主に戻ることができる旧総務庁官僚は、この政府原案に大喜びだ。また、現在の総務省は、3省庁の寄り合い所帯で、原則3年に1回ずつ事務次官ポストを分け合う窮屈な所帯。ここに押し込められている旧自治、郵政両省出身の官僚も旧総務庁官僚が出て行くことは、歓迎という。そして、財務官僚、人事院官僚も、部局の剥奪、つまり、組織の縮小を免れるのだから、文句があろうはずはない。

福田総理退陣前から
抵抗勢力が麻生氏にラブコール

 官僚嫌いが動機で公務員改革に手を付けた安倍晋三前首相、塩崎恭久元官房長官らと違って、福田首相はもともと急進的な公務員改革には冷ややかな人物だ。しかも、最近は大改革を実現するには、支持率の低迷に喘ぎ、指導力も低下の一途を辿っていた。抵抗勢力は、そこを狙って、公務員改革を骨抜きにしようと首相の辞任直前から暗躍し始めていた。

 そして、福田退陣表明から4日を経た5日午前。抵抗勢力は、勢いづいた。「国家公務員制度改革推進本部」(本部長:福田首相)の「顧問会議」の初会合で、さらなる骨抜きの布石を打とうとしたのである。この顧問会議は、前述の内閣人事庁が狙い通り新設されるかどうかなどを監視するのが役割だ。それだけに、抵抗勢力側は、なんとか、この会議を有名無実化したいと目論んでいた。

 新聞各紙は、取材が甘い。この会合について、福田首相が冒頭で「こういう事態になり申し訳ない」と述べたことを小さく報じる程度のところが多かった。

 しかし、この会議の本当のヤマ場は、挨拶を終えた首相が退席し、メンバー紹介が終わった直後にやってきた。

 事務局をつとめる官僚が、議事の公開について「(官邸記者クラブ所属の)記者の傍聴を認めることや、発言者の氏名を記した議事録を作成して公表する」などとだけ説明し、その議論を終えようとした。これを、論客で知られる評論家の屋山太郎氏が聞きとがめ「以前はやっていたインターネット中継を、なぜやらないのか」と疑問を呈したのだ。会議の透明性を確保し、国民の関心を高めるのが狙いだった。すかさず、作家の堺屋太一氏も「国民が議論に参加できるほうがいい」と後押ししたという。これに慌てたのは、抵抗勢力の官僚たちとの緊密なことで有名な茂木敏充・行政改革担当大臣だ。同大臣は「今回は準備が整わないが、次回からそういった形で進めたい」と譲歩せざるを得なかった。

 堺屋、屋山両氏に加えて、経済同友会の桜井正光代表幹事、拓殖大学の田中一昭名誉教授、ジャーナリストの川戸恵子氏らメンバーは、次々と抵抗勢力の手練手管を見破り、槍玉に挙げた。あえて座長の設置や報告書・提言書の作成といった話題に触れず、座長は置かず、報告書も作らないこととし、言いっ放しのお飾りの会合にとどめようと官僚たちが謀ったのに対し、ひとつひとつ確認を求め、必要な物をすべて設置するように要求したのである。茂木大臣は、何の反論もできなかった。

関連キーワード:行政改革 政治

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執筆者プロフィル

写真:町田徹

町田徹
(ジャーナリスト)

1960年大阪府生まれ。神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。日本経済新聞社に入社後、記者としてリクルート事件など数々のスクープを連発。日経時代に米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに社費留学。同社を退社後、雑誌「選択」編集者を経て独立。日興コーディアルグループの粉飾決算をスクープして、06年度の「雑誌ジャーナリズム賞 大賞」を受賞。「日本郵政-解き放たれた「巨人」「巨大独占NTTの宿罪」など著書多数。

この連載について

硬骨の経済ジャーナリスト・町田徹が、経済界の暗部や事件を鋭く斬る週刊コラム。独自の取材網を駆使したスクープ記事に期待!

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