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ナチュラム

今回は10月19日に大証ヘラクレスに上場したナチュラムについて、有価証券届出書等の公開されている情報を読みながら気づいたポイントなどについて書いてみたい。この会社は釣具やアウトドア製品のEコマースを手がけている。この会社は、Eコマース事業とECソリューション事業の2つの事業を行っているようだ。そしてEコマース事業の事業系統図は次のとおりである。



同社の売上高約35億円のうち約33億円がEC事業によるものであり残りの約2億円がECソリューション事業によるものである。売上高の規模で見ればEC事業が圧倒的なメインであり、ECソリューション事業はオマケのようなものに見える。が、このECソリューション事業を見過ごしてはいけない。事業の中味は、ECシステムの販売(ASP提供)とECシステム構築、ECサイト運営、EC決済・物流等のアウトソーシングのようだ。要するに、自社のメインのビジネスを回すために開発したインフラを他社にも提供して、固定費の回収を早めようという試みだ。こういうのがうまく回っていると利益を確保しやすくなる。普通なら、変動費ゼロ、固定費も既に本業の方で支出済みだからね、こういう事業の売上はほぼ100%近くが利益になる。しかし、同社の場合、なんか様子が違う売上177百万円に対して仕入119百万円が発生している。同事業の売上の過半は仕入が発生するような内容のビジネスであって、システムのASP提供の売上実績はかなり小さそうだ。ソリューション事業で何で仕入が発生しているの?という疑問については後で触れたい。

業績の推移をチェックしてみると下図のようになっている。売上高の成長率はそれなりに素晴らしいものがある。が、前回分析したスタートトゥデイに比べると成長率の勢いが物足りない。利益についてはもっと物足りない感じだ。まあ、小売業の会社で34億の売上で1億の利益が出ていれば、そんなに悪い数字ではないだろう。スタートトゥデイの数字が良すぎるとも言える。同じような時期に上場となり、同じような事業をやっている2社だけど、この辺の成長性とか収益性の違いが、東証マザーズに上場できるか大証ヘラクレスとなるのかという差なのかなと思ったりする。あるいは、主幹事を野村證券にしても審査部審査に耐えられるのか、審査体制が相対的に弱そうなネット証券を主幹事とする違いなのだろうと思う。偏見かもしれないけど。



さて、同社の強みはどこにあるのだろうか?有価証券届出書の事業の概要を読んでいると、システムに相当の自信を持っているらしいことがわかる。下記のような文に続き、システムの説明に延々とかなりのスペースを割いている。まあ、外販するくらいだしね。良いシステムなんでしょう。きっと。

当社のEコマース(インターネット通信販売)事業は、当社が自社で開発したEコマース向けのERP(統合基幹業務システム)である「NEXAS」によりフロントヤード(Webシステム、オンラインモール連携など)、バックヤード(受注管理システム、商品管理システム、物流管理システムなど)及び販売管理システムがすべてリアルタイムに連携し、効率的な事業運営を可能としております。

システムの構成として、フロントがあってその裏側に基幹系があるというのはECのシステムとしては普通だろう。着目したいのは、同社がB to Bシステムとよんでいるものの一部だ。次のような説明が書かれている。

受注した商品につき自社に在庫がなかった場合、リアルタイムに該当商品の仕入先用納期回答画面に受注商品情報が表示されます。在庫のある仕入先では画面よりチェックし、日付(納品予定日)を入力することで、システムより自動的に顧客に対して出荷予定日が連絡され、受注処理が行われ、物流センターへ入出荷指示が出されます。

約20万アイテム(商品)情報を効率的にメンテナンスするため、仕入先は自社の商品情報の変更や新規商品情報の登録が可能であります。この機能の提供により最新の商品情報の維持が可能となっております。

これって、どういうことかといえば、商品仕入に係わるオペレーションの一部を仕入先の会社に肩代わりさせているということだ。さらには、商品のカタログ情報データベースの入力からメンテナンスまでも仕入先の会社に肩代わりさせているということだ。20万アイテムにも達する商品について、カタログ情報データベースをメンテナンスしたり、それらを扱う無数の仕入先とのやりとりを全部自社内のリソースで賄っていたら人件費がとんでもないことになってしまう。取引先のリソースを巧みに利用しつつ、20万という圧倒的な品揃えを実現しているのは賢いやり方だと思う。

システムに相当の強みを持っているらしいが、それ以外のところはどうなんだろうか。有価証券届出書を見ていて、一見してわかるのが、物流業務のアウトソースだ。物流倉庫業務を通販会社のムトウに委託しているらしい。これについての判断は難しいと思う。労働集約的で手間も倉庫の建物とかインフラ周りのお金もかかる物流業務を外部に委託すると言うのはひとつの経営判断だと思う。自分が苦手なことは、それを得意としている会社に任せてしまったほうが良い場合は多い。だけど、アマゾン(日通と提携しているけどね)やスタートトゥデイが自社で巨大な倉庫を持っているのは、それがEC事業の競争力を決める重要な一要素だからではないだろうか?ECの物流が通常のカタログ通販の物流と違うのは、ロングテールの品揃えからくる超多品種小ロットの物流をこなさなくてはならない点だ。この厄介な超多品種小ロットの商品について、物流オペレーションのスムーズさ、速さ、コスト効率といったあたりが、競争力を左右する重要な一因になるのではないだろうか。

話は変わるが、有価証券届出書の「経営上の重要な契約」をながめていると意外な名前が1社載っている。ナチュラムは、アマゾン・ドット・コム インターナショナル セールス インクと商品供給契約を結んでいるらしい。この会社は日本のアマゾンを運営している会社だ。アマゾンのサイト上に次のような説明がある。あるいは、アマゾンで本とかを買うと同梱されてくる納品書兼領収書もこの会社の名前で発行されていることからも、この会社が日本のアマゾンの運営会社だということがわかる。

Amazon.co.jp とは 米国法人Amazon.com, Inc.の商標であり、Amazon.com, Inc.の許可のもとに、Amazon.com, Inc.の子会社のAmazon.com Int'l Sales, Inc.が使用しています。

小売業をビジネスとしているナチュラムが、同じく小売業のアマゾンに商品を供給、即ち卸売をしているというのはどういうことなのか?推測だが、おそらくナチュラムはドロップシッピングをやっているのだろう。アマゾンのサイト上で売られている釣具やアウトドア商品の一部はナチュラムが供給しており、それらに一般消費者からの注文が入るとアマゾンからナチュラムの倉庫に出荷指示が来て、そこから消費者に向けて直接出荷される仕組みになっているのではないだろうか。上の方で触れた、ECソリューション事業なのに何で仕入が計上されているのかという答えはここにある。おそらく、ナチュラムはドロップシッピングの売上をECソリューション事業に区分しているのだろう。

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