地域に必要とされる病院が存続していく
【第28回】工藤高さん(株式会社MMオフィス代表)
病院の経営に変化が起きている。以前はベッドがあり、医師がいて、看護師がいれば、誰でも経営できたが、現在は全体で黒字となっている病院はわずか3割にすぎない。病院にも経営努力が求められる時代にあって、生き残りには何が必要とされるのか。病院を経営するとはどういうことなのか。株式会社MMオフィスで病院経営支援に取り組む工藤高代表に話を聞いた。(津川一馬)
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―病院経営支援とは、具体的にどのようなことをなさっているんですか。
保険収入の部分からの病院の経営の戦略・戦術の立案です。古典的な請求漏れとか、レセプトを見て何かをするということではなく、今の保険制度の中で最良の選択をするためのお手伝いをしています。一言で言うと、「財務を除いた部分の病院の収益に関する経営改善コンサルタント」です。イメージとしては「顧問税理士」や「顧問弁護士」と同じように、病院の経営環境の変化に関する相談役という感じです。
今、クライアントは7病院です。長い病院では7、8年の付き合いになりますね。それぞれの病院で業務内容は違います。医事課の全体的なシステムの改善を行ったり、経営改善会議で座長を務めて、病院の経営計画を立てたり、先方のニーズに合わせたものです。
―会社の経営支援と病院の経営支援はまるで違うことのように感じるんですが、違いと共通点を教えてください。
会社も病院も基本的には「人」です。ですが、病院の方が人件費率50%以上ということで、よりその特徴が顕著と言えます。日本の国民医療費の約半分は人件費です。労働集約型産業で、多くの人が必要です。さらに、ほとんどの職種が国家資格ということも特徴です。
一般企業との一番の違いですが、例えば大企業が新卒や中途を募集すると、多くの人が応募してきます。その中でふるいに掛けるわけです。ところが病院の場合は、医師、看護師は売り手市場です。もちろん、事務職のように買い手市場の職種もありますが、医師、看護師が売り手市場なので、慢性的な人手不足に悩まされています。
それから、新規参入が難しいということも挙げられます。病院経営自体は資本主義経済ですが、その中に計画経済の要素がある。例えば、病院のベッド数というのは決められていますが、これは経済学でいう数量規制です。つまり、新規参入できないわけです。通常の企業の場合は、事業拡大していくときは支店をつくったりできます。病院の場合は、例えば診療所の経営者が新たに病院経営をしようとしたら、M&A(合併・買収)しかありません。
医療の価格が診療報酬点数という公定価格で決められている、という点も特徴です。自分たちで値付けができない。もちろん室料差額などの自由診療の部分では可能ですが、病院の経営というのは9割以上は保険収入で、そこは公定価格ということです。
公定価格で数量規制、これはもう完全に計画経済です。その中で、今は病院の淘汰(とうた)がある。複雑に資本主義経済と計画経済が入り組んでいるわけです。
―病院の淘汰という話が出ましたが、公立病院の倒産が話題になっていますね。
多くの民間病院は経営努力をしていて、黒字を出しているのに対し、どんどん赤字を垂れ流している公立病院もある。公立病院は、不採算医療をやっていると言います。でも、わたしは不採算医療というのはへき地医療や難病治療に関連した医療ではあり得ると思いますが、都会で通常の産科、小児科をやっていて不採算医療というのはあり得ないと思います。産科、小児科をやっていて、しっかりと黒字を出している民間病院があるわけですから。やはり経営的な非効率さが公立病院にあるのは否定できません。
―私立病院と公立病院はだいぶ違うものなんですか。
まず、公立病院は人件費、職員の平均年齢が民間病院と比べて高い。それから、事務職などに本庁から職員がやって来ます。彼らは2、3年でまた戻って行く。彼らは、病院に来ること自体が不本意なんです。2、3年でまた戻れるという気持ちがあり、心ここにあらずの事務職員もいる。もちろん、ちゃんとやっている公立病院もあります。
―経営改善には何が必要でしょう。
病院というのは基本的にはトップダウンです。これはわたしの持論ですが、経営の改革というのはトップダウンで、改善はボトムアップになる。下から改革はできません。それはクーデターになってしまいます。もともと中小企業がほとんどの病院は、トップダウンでいくところはうまく運営されていますが、院長が日和見主義のような病院はうまくいきません。公立病院でも黒字のところは強烈な院長のトップダウンがあるはずです。
―病院経営の過去と現在の比較をしてください。
昔は、民間病院は誰が経営しても赤字にはなりませんでした。潤沢な診療報酬があったことなどが理由です。ベッドがあって、医師がいて、看護師がいれば、誰でも経営できたいい時代だった。その時の成功体験はもう通じません。今は医療費の伸び率が問題になり、病院全体で黒字なのは3割。公立病院では1割くらいです。民間病院は5割くらいは黒字を出していますが、以前はほぼすべての民間病院が黒字でした。
昔は、公立病院は赤字を出していても当たり前という風潮があった。でも、今は公立病院であっても「赤字を出しているなら、売りますよ」ということになり、公立病院を民間へ丸投げするということが起きてきたわけです。公的病院でも赤字を出すことが「悪」ということになってきた。
―高齢者が増えて、患者は増えている印象がありますが、それでも倒産するのはなぜでしょう。
今、倒産している病院は、実は地域にとって存在しなくていい病院が多いのではないでしょうか。もともと患者が来なくなるから経営状態が悪化する。医療提供体制の非効率な病院が淘汰されていっているのであって、地域が必要とする病院は残っています。
―病院が生き残るか負けるかというのは、患者や地域にとって必要とされているかどうか、ということなんですか。
それ以前に、職員が集まる病院かどうかということですね。医師や看護師が集まらない、評判も悪い、それで患者が集まらない、ということになるんです。
例外はありますが、一般的には患者が来なくなってつぶれることがほとんどです。診療所も一緒ですよね。
―勝ち残るにはどうすればいいのでしょう。
勝ち残っているわけではありません。通常にやっている、というだけです。地域で必要な病院は、勝ち残っているのではなくて、それは存続しているということです。勝ち組、負け組ではなくて、地域が必要とする病院が残り、必要とされないところがなくなっていっている。
自院のミッションとやりたいビジョンを明確にして、地域の中でポジショニングを明確にする。職員が集まって、患者さんが集まる病院というのは、つぶれることはありません。
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【第24回】高橋洋一さん(東洋大経済学部教授)
【第23回】高階(たかがい)恵美子さん(日本看護協会常任理事)
更新:2008/09/12 12:35 キャリアブレイン
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